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166 魔法修行

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 ジャニス女王の指導を受けて、あっさり火柱を出現させたのはリリアちゃんとマロンちゃん。
「やった」「すごい」と二人してはしゃいでいる。
 その一方でわたしだけが「うんうん」気張るばかりで、ちっとも炎が出てこない。
 これにはジャニス女王も首をひねる。

「おかしいな。魔力量は問題ないのに……というか、それ以前の問題だよ。なんなんだい? このイカレ具合は」

 ジャニス女王いわく、見渡す限りの視界、そのすべてを埋め尽くすほどの膨大な魔力。まるで底のみえない奈落を覗いているかのような、もしくは何もかもが魔力で構成された世界に一人ポツンと立ち尽くすかのような錯覚を覚えるそうな。
 多い少ないを論じるのがバカらしくなるぐらいの桁違いの量。
 自分の魔力量をバスタブ一杯とするならば、わたしのはまるで海。その表現とてかなり控えめなんだってさ。
 いやぁ、海のような女とか、なんか照れるなぁ。

「すごいです。リンネお姉さま」

 話を聞いてリリアちゃんはそう言ってくれたけれども、すぐに首をコテンとして「でも、それならどうして魔法がうまく発動しないのかしら」
「おおかた量が多すぎて詰まってるんでしょう」とはマロンちゃん。完全に便秘扱いするマイシスター二号。あいかわらずのツンデレ具合が、じつに素晴らしい。そして首をかしげるマイシスター一号の愛らしさといったら。
 ひさしぶりに妹たちと戯れられて、余は満足じゃあ。
 でへへ。とだらしない顔をしていたら、ジャニス女王が「それだっ!」
 いきなりのメスライオンの咆哮に、わたしたちは驚きピョンと一斉に跳ねた。

「それだ! って何が?」わたしがたずねたら「おまえの場合、膨大すぎる魔力量に対して、魔力経路や出口がまるで釣り合っていないんだよ。だから中でごちゃごちゃして魔法がうまく発動しなかったんだ」とジャニス女王。

 大きなバケツに針で小さな穴を開けたところで、水はなかなか出てこない。
 内部にて押し合いへし合い、いろんな力学が働いておしくらまんじゅう。
 結果として詰まる。
 ゆえに残念ながら、わたしには魔法がろくすっぽ使えないことは明々白々。
 修行するだけ時間の無駄。
 それがわかり、リリアちゃんとマロンちゃんの練習風景をぼんやり眺めながら隅っこで三角座り。

「せっかくのファンタジーなのに、せっかくの剣と魔法のファンタジーなのに、わたしだけノット・ファンタジー」

 わたしだって華麗に魔法使いをやってみたかった。「ファイアーボール」とか叫びたかった。
 これでも幼い頃には人並に魔女っ子にだって憧れたものである。無邪気に呪文を唱えてトテトテ駆けまわる姿に、周囲の大人たちはメロメロ。あまりの愛らしさに末は女優かトップモデルか、はたまた傾国の美姫かと、おおいに騒がれたもの。
 それなのに唯一発射可能な魔法っぽいのが、世界をも切り裂く蒼い破滅の閃光を放つ、凶悪無比な魔導砲だけとは、なんてせっしょうな。
 これじゃあ完全に敵役の方だよ。
 しかも物語終盤になっても仲間にならないタイプの……。
 遠い目でぷつぷつ愚痴っていたら、見かねたジャニス女王が声をかけてきた。

「魔法がダメでも魔力はあるんだから、いっそのことソイツをそのまま放出してみたらどうだ?」 

 魔法とは魔力を炎や冷気などのチカラに変換するための手段。
 水にひと手間を加えてお茶やコーヒーを作るようなもの。
 でもわたしは不調法で不器用ゆえに、そのひと手間がムリ。お茶も満足に出せないダメ社員は、おとなしく水でも出しとけ。
 はたしてそれを魔法と呼んでいいのか? という疑問はとりあえず脇に置いておき、ジャニス女王の言う通りに試してみることにした。
 で、現場は大混乱となった。
 固定されていない状態で、ジェットエンジンを点火すればどうなるのか?
 ホースをしっかりと抑えていない状態で、放水作業を開始したらどうなるのか?
 発射台にきちんと設置しないで、ロケットを発射したらどうなるのか?
 まぁ、そういうことだ。
 三百六十度どころか、全方位回転型ネズミ花火と化したわたしが、激しく回ってぐるぐるのぎゅーるぎゅる。
 ほとばしる魔力の奔流。それも超濃圧縮されたやつがピューっと。平素では無害な水もなんやかやと絞ってがんばれば鉄をも切り裂く。
 そんな感じのモノが無差別乱射されて、周囲にいたジャニス女王やリリアちゃんやマロンちゃんたちが「ぎゃあ!」「わー!」「きゃあー!」と逃げ惑うことになる。

 この騒ぎを聞きつけたルーシー。ひょっこり顔を出し「やっぱり、こうなったか」とタメ息ひとつ。それから「富士丸、お願い」と言った。
 ぬぼーっと姿をあらわす巨大ロボットの腕。
 それが容赦なく「ガン!」と振り下ろされる。
 これにて暴れリンネ花火は沈黙。

「今度から危険な遊びをするときには、ひと声かけてくださいね。あんなのでも放置したらノットガルドの滅亡に繋がりかねませんので」

 言うだけ言うと青い目をしたお人形さんとロボットは去って行った。
 地面深くに大の字にてめり込むわたし。
 こちらを覗き込みながらジャニス女王が「リンネ、おまえ、魔法禁止な」と言った。あと「世界平和のためだ」とまで言われては、わたしに否はない。

 アマノリンネ魔法修行、これにて永久凍結。


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