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161 炎の魔神と氷の魔神
しおりを挟むダロブリンの王都へと向かう道すがら。
目に入るのは荒れた土地と痩せこけ精気の失せた住人ばかり。集落なんてほとんどが廃村と見まがうようなあり様。どこまでも陰気で灰色な景色が続く。
意気軒高だったのは、賊たちとその辺に転がる死肉をはふはふ漁るケモノばかり。
呆れたことに、一度なんて貴族のボンボンが賊の真似事をしている場面にも遭遇。
もちろんきっちりお仕置きをしておいた。反省はあの世でしろ。
で、ようやく見えてきました王都。
城壁は、まぁ、ご立派。
ムダに高く、ムダにぶ厚く、ムダに堅牢そう。
いろいろと後ろ暗い自覚があるヤツほど、自己保身には余念がないからねえ。塀を高くしてテッペンにトゲトゲとかつけたがるもの。
さて、これからどうしようか。
この分だと、きっと門番も腐っているだろうから、そんなところに人形を抱いた若いピチピチギャルがのこのこ出かけていったら、絶対に騒ぎになるだろうし。
なんてことを考えながら、しばし遠目に眺めていたら、いきなりドンっと来た!
爆発音に続いて黒煙がもくもく。城壁の向こう側にてメーラメラと火災発生。どんより風にのって、焦げたニオイがこちらの鼻先にまで届く。
「なんだろう? 火事かな」
「……にしては、ちょっとおかしいですね」
わたしとルーシーが様子を伺っていると、ドドンがドンドン! なおも景気よく続く爆発音。天へとのびる煙の筋も一本が二本、二本が四本と倍々に増えていき、火勢も盛大に強まっているらしく、王都の空がほんのり紅く染まる。
風にのってキナ臭いニオイだけでなく「わー、きゃぁ」と悲鳴のような声まで聞こえてきた。
「事件? それとも事故?」
首をひねるわたしにルーシーさんは「……というよりも、ひょっとしてコレは内乱の類ではないかと」
ケンカを売りにきた相手宅が、すでに火の海。
なんてこったい! わざわざ出向いてきたというのに、こちらとしては振りあげた拳の落としどころに困っちゃう。
「あー、なまじ壁を丈夫に造ってあるものだから。あの調子だとすぐに内部はえらいことになりますよ。逃げ場のない熱気で、おそらく地獄の釜状態」
青い目をしたお人形さんの推測通りに、瞬く間に拡大の一途を辿る火災。ここのところ雨もなかったのか周辺の土や空気がとっても乾燥しており、それが被害を加速させていく。
ついには炎の竜巻みたいなのまで発生。
まるで生き物みたいにウネウネと動き回っては、王都を蹂躙しちゃってるよ。
「火事って、やっぱおっかねー」
ビビるわたし。
一方で隣にいるルーシーは首をかしげている。
「あれは火災旋風……に見えますが、ちがいますね。動きが明らかにおかしいです。どうやらこの事態は何者かの魔法攻撃のよるものかと」
状況を冷静に分析するルーシー。
それにしたって、その何者かは相当にイカレていやがるね。ふつう、あんな人口密集地帯のど真ん中で凶悪な炎を放つか? あれじゃあ、何もかもが燃え尽きて灰になってしまうじゃないか。
なってもったいないことを!
木材がまとめて質の悪い炭になってしまう。布や革製品もぜんぶパァ。高価な食器とかも割れちゃうだろうし。ドロドロに溶けた貴金属とか、回収がとってもたいへんなんだぞ。土ごと掘り出して、いちいち精製しなくちゃならないんだから。
あと、同じ炎でもラグマタイトのジャニス女王のとは全然ちがうや。
ジャニス女王の炎には、見る者を魅了する力強さと気高さがあった。ぶっちゃけ何時間でもぼーっと眺めていても飽きないぐらいにキレイ。
でもこちらのソレには禍々しさしか感じない。まるで憎悪の感情を塗り固めたかのような毒々しい赤。なんて醜い火なんだろう。
とかおもっていたら、さらに炎の巨人っぽいのがのそりと立ち上がり、天に向かって「ガオーッ」と雄叫びをあげた。
これにはわたしとルーシーもお口をあんぐり。
「今度は炎の魔神かよっ! それにしてもでけえな!」とわたし。
「あの規格外なむちゃくちゃ具合からして、どうやら勇者のギフトっぽいですね」とはルーシーさん。
どっかの誰かさんってば、もうやりたい放題。
こりゃあ完全に終わったな王都。南無南無。
心中にてひそかに手を合わせていたら、さらにさらに事態が悪化。
今度はなんと! 炎の魔神に対抗するかのようにして氷の魔神が出現。
周囲の迷惑もかえりみずに、殴り合いの取っ組みあいをはじめちゃったよ。
炎が瞬時に凍る。氷の塊が一瞬で炎に焼かれて蒸発。
熱い、寒い、熱い、寒いと、とにかく騒がしい。
「ねえ、ルーシー。うろ覚えで申し訳ないんだけど。たしか、高温なモノと水気なんかをいっしょくたんにするのは、あんまりよくないって話を聞いたことがあったような……」
熱々のフライパンに水滴を垂らしたら、パチパチはじけ飛んじゃうでしょう?
ろくすっぽ料理とかしたことないくせに、家庭科の調理実習の授業で、料理人を気取ってフライパンの熱せられ具合をたしかめようとして、腕とか顔に跳ねて「アッチー!」とかなっちゃうやつ。
「そうですね。特に閉鎖空間で混ぜるのは、あまりオススメしません」
水が熱せられて水蒸気になると体積が約千七百倍にも膨れあがる。大量の水が超高温の熱と接すると、体積が爆発的に増える。
ようはパチパチがドッカンになるとルーシーさん。
「……とりあえず、もう少し離れとこうか」
「賢明なご判断かと」
主従にて意見がまとまったところで、すみやかにシュタタタと退避。
こりゃあ、もうダメだ。
さらばダロブリンの王都。キミのことはとっとと忘れて、わたしはヌクヌク生きていくよ。
「滅びゆく都に敬礼」
わたしとルーシーがけっこう離れたところから、ビシッとお別れの挨拶をしていたら、ついに臨界点を迎えた王都がドカンと逝った。
すかさず念のためにと掘っておいた塹壕内へ、ぴょんと飛び込む主従。
一瞬の後にわたしたちの頭上を激しい暴風が「ゴー」と駆け抜けていった。
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