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152 本と剣と王

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 ガシャコンガシャコンと音を立ててリスターナの城内を移動するのは、八本足の多脚砲台。
 執務室に住み着いているデカ魔導書の愛機なのだが、この度そんな多脚砲台がもう一つ増えた。
 乗っているのは神殺しの剣テュルファング。
 テュルファングは自分でふよふよと宙を彷徨えるので、移動用の機械なんぞ必要ないのだが、魔導書が楽しそうに毎日乗り回しているのを見て羨ましくなった。
 わたしに「我もアレが欲しい」と言い出したので、与えることにした。いちおうリンネ組の一員になってからは、ちゃんと約束を守って許可なく呪いを発動することもなく、ルーシーの研究にも協力しているし、わりといい子にしているから。
 というのが表向きの理由。
 わたしの本音は「剣を腰にいつもブラ下げているのって、なんか邪魔。あと重い」
 かといって部屋にほっぽり出していたら、それはそれで拗ねるし。
 意志のある剣は、意志があるがゆえに自己主張もわりとする。かといって四六時中、腰元からやいのやいの言われるのも、ちょっと。
 そこで足を与えて好きにしろというわけである。
 おかげでリスターナ城内のカオス度がまたしてもちょっぴり上がってしまったけれども、それこそ今更なので気にしない気にしない。

 ある夜のこと。
 部屋に魔導書が愛機にまたがりガシャコンとやってきた。
 で、何ごとかとおもえば用事があったのは、わたしじゃなくってテュルファング。
 今夜は魔導書と神殺しの剣にて、しっぽり差し飲みなんだと。
 本と剣なのに酒を飲むの? という疑問を感じつつ、「あんまり飲み過ぎんなよ」とわたしは彼らを送り出す。
 二台の多脚砲台がそろってガシャコンと遠ざかっていく。

 つい先日、リンネが造園した竹林庭園へと赴く魔導書とテュルファング。
 あらかじめ予約を入れていたので、庵の前には管理人の竹の女童によって、ささやかな宴席の準備が整えられていた。
 差し向かいに「よっこらせ」と腰を下ろした本と剣。
「まずは一献」と始まる差し飲み。
 しばし竹筒に入った香り高い清酒をしんみり味わう。
 というか、はたから見ているとまるで酒を互いにぶっかけ合っているような光景。
 なにせ彼らには口がないので、こうやって身に浴びて体表よりちゅうちゅう味わっているのである。
 本と剣がバシャバシャ、文字通り浴びるように酒を飲んでいたら、そこにひょっこりと顔を見せたのはシルト王さま。

「おや? 月見酒としゃれこもうとしたら先客がいたのか」

 魔導書とテュルファングは美中年を歓迎する。(※注・以降の会話は念話にて行われますが、いちいちかき分けるのが大変なので通常会話形式にてお送りします)

「いやはや、今夜はよい月ですなぁ」

 盃の中の酒に映る月ごとクイと飲み干す美中年。
 ほぅと熱い吐息をもらす。

「ほんとうに七つの月が揃って……、あれ? エレジーの形ってあんなのだったっけ」

 夜空を見上げてそう言ったのはテュルファング。「あの青白い月はもっとまん丸であったはず」と首をひねる。
 すると魔導書が「あー、アレかー。それならリンネさまがちょっと」
 本から青い月エレジーにて起こった出来事をきいて、絶句する剣と王。

「まえからスゴイ子だとは思っていたけれども、まさか月をねえ」とシルト王。
「いろいろおかしい娘だとは思っていたが、よもやそれほどとは……」と神殺しの剣。
「おかしいといえば、ルーシー殿をはじめ周囲のどれもこれもがおかしいだろう。それこそまともなモノのほうが数えるほどしかありゃしない。ぶっちゃけリンネさまがその気になったらすぐにでも世界征服できると思うのだが」と魔導書。

 王と剣がその意見にウンウンと頷く。

「でも彼女はそれを望まないからねえ。まえにカーボランダムが攻めてきたときに『リスターナの女王にならないかい?』とぼくが打診したら、即座に断られたよ。『玉座なんて呪いの装備はいらん!』って、それはもう全力全開にて」
「王の位を呪いの装備扱いとは……。世間にはたとえどれほどの血を流してでも、欲して固執する輩もいるというのに」
「基本めんどうくさがりだしなぁ、うちの主どのは。地位とか名誉にも固執しないし」

 いい感じにてほろ酔いな王と剣と本たち。
 リンネという異世界渡りの勇者の娘を肴にして、おおいに盛り上がる。

「彼女ってば賊相手には容赦ないよねえ」「出会いがしらにいきなり撃たれたぞ」「我もむちゃくちゃ撃たれたぞ」「それは災難だったねえ。でもやたらとキビしいところもあれば、やたらと寛容なところもあるよね」「そうそう。常々、自分は『身内に甘々、敵に塩対応』って言ってる」「あと命は勝手に増えるけれども資源は有限とか」「ヒドイ言い草だけれども、間違ってはいないんだよなぁ」「女性や子どもにはやさしいよね」「お年寄りにもけっこう親切」「基本的にいい子なんだよ。ちょっとチカラがおかしなことになってるけれど」「なんでもかんでも『わたし、健康スキルだから』で済ますのはどうかと思う」「あー」「なんというか強大なチカラのわりに、中身がふつう?」「いや、ふつうはアレだけのチカラをもったら、ちょっとぐらい自惚れたりしそうなのにねえ」「それもまた健康スキルの恩恵なのかも」「どういうこと?」「精神が常に安定しているから、暴走しないとは考えられないかな」「常に自分を見失わないということか」「そういえば『わたしは神鋼精神の持ち主』とも言ってたか」「それだ!」「それだよ!」「ある程度のゆり幅はあるけれども、それもあくまで並み止まり」「というかあのチカラで暴走されたら、ノットガルドが終わるよ」「うん、終わるね。きっと木っ端みじん」「あぁ、たぶん惑星ごと消し飛ぶ」「でもいい子なんだよねえ」「それは否定しない」「きわめて真っ当な思考の持ち主なのはまちがいない」「賊にはきびしいけれど」

 魔導書とテュルファングとシルト王の会話が、これよりぐるぐる堂々巡りに突入。
 酔いどれどもの宴はまだまだ続く。
 夜空に浮かぶ七つの月が煌々と、彼らをやさしく照らしていた。


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