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151 庭園

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 竹林の屋敷にて風の音に耳を傾けながら、ズズズとすするは湯飲みに淹れてもらった竹の葉茶。
 その温もりにおもわずほっこりすれば、ささくれていた心のトゲもへにょんとなって平穏を取り戻す。
 竹姫ちゃんの心づくしの膳を堪能し、デッカイ竹を輪切りにして造った竹風呂につかる。
 身も心もすっかりリラックスしたところで、竹薫る寝室にて竹女官からエステマッサージをされているうちに、そのまま「すぴぃー」と鼻ちょうちん。
 ぐっすり眠り込んで朝を迎える。
 うーんとおおきく背伸びをし、なんとも気分爽快な目覚め。
 朝食の準備が整うまでのあいだ、屋敷の敷地内にある庭園を散策。
 真珠の輝きを彷彿とさせる鮮やかな白い玉砂利が敷き詰められた、見事な枯山水。
 のんびりと眺めていると、足下で「はふはふ」
 視線を落とせば、そこには竹犬の姿があった。
 これは竹姫ちゃんがこしらえたもの。わたしが何かの会話のおりに「イヌってかわいいよね」と言ったら、次に来た時にはコレがいた。
 カラダが竹細工ゆえに、当然ながら毛はない。頭のテッペンからシッポの先、肉球に相当する部位まですべて竹竹している。だから撫でても感触は竹だ。なのにふしぎと愛らしい。仕草が愛らしい。呼べば駆けてくる姿も愛らしい。なによりカクカクしたカラダで、懸命にこちらの期待に応えようとする、その健気な姿がすこぶる愛らしい。
 わたしが竹犬と戯れていると、竹姫ちゃんが朝食の準備ができたと呼びに来た。
 朝食のメインはタケノコのお刺身。とれたてピチピチだから可能な食べ方。
 なんとも贅沢な食卓にわたしは舌鼓をうち、食後にはすっかり膨れた腹太鼓をポンポコ鳴らした。

 ……なんて優雅な休日の過ごし方の話をしたら、リリアちゃんが「自分も行きたい!」と言い出した。
 でもそれはちょっとムズカシイ。
 なにせ竹林がある場所は、北のわたしの領地なんだもの。
 地下の要塞部分ならば問題ないのだけれども、地表部分は魔素濃度が薄くノットガルドの住人にとってはかなり居づらいところ。
 ハイボ・ロード級ならばともかく、一般人であるリリアちゃんとかが足を踏み入れたら、すぐに気分が悪くなってグッタリしちゃう。
 だから「ごめんね、ムリ」と言った。
 するとリリアちゃんが両頬を膨らませてムクれた。それどころかソファーにポフンとダイブして「行きたい、行きたい」と手足をバタバタ。盛大に駄々をこねる。
 分別のある王女さまは、わたし以外の人前ではこんな姿を見せることはない。たとえ仲良しのマロンちゃんの前だとしても。
 まぁ、それがわたしとしてはうれしくもあり、面映ゆくもあり。
 ここのところ些事にかまけて、あまりかまってあげられなかった反動もあるのだろうが、かわいい妹分のお願いをどーんと受け止めるのもまたお姉ちゃんの務め。
 とはいえ、さすがに北の領地の竹林には連れていけない。
 そこでわたしは考えました。

 そうだ! 連れていけないのならば、こっちに連れてくればいいじゃない。

 ってなワケで、お城の荒れ放題に任せて放置されているうちに、なんとなくそれっぽい雰囲気になっていた中庭を改造することにした。
 こっちに竹林の一部を移植して飛び地とするのだ。こうすることで一部のサービスをこちらでも堪能できるようになる。
 さすがにスペースが限られるので、竹林と小さな庵、その庵のとなりに規模を縮小した枯山水を設置するのにとどめておく。
 作業は夜のうちに行ったので、わずか一晩で出現した竹林庭園に城内がわりとザワついたけれども、キチンと事前にシルト王をはじめえらい大人たちからは許可を得てのことなので問題なし。

 完成した竹林庭園にさっそくリリアちゃんをはじめ主だった面々をご招待。

「これが竹かぁ。他の木とはずいぶんと違うんだねえ」とシルト王。
 てらてらと青竹を撫でて興味深げ。なにせバンブー・ロードの生息している地にしか生えていない希少植物。ゆえに、ノットガルドではかなりのレアな存在なのである。ぶっちゃけ見る者が見れば卒倒する価値アリ。
「このまえ頂いた青竹踏み、アレは良いものですなぁ。執務室にて大事に使わせてもらっていますよ」とは宰相のダイクさん。
 はじめはイタかったそうだが、慣れるとイタ気持ちよくなり、クセになって、いまでは朝夕欠かさず踏んでいるそうな。
「ワシはあの孫の手とかいうのが気に入っておる。さすがに毎度毎度、ユーリスやモランに頼んで背中を掻いてもらうわけにはいかんからなぁ」とはゴードン将軍。
 どうやら新妻と義理の息子との関係も良好みたいでなにより。
 リリアちゃんは足下にじゃれつく竹犬にメロメロだ。
 わたしは一同を庭園の奥にある庵へと案内する。
 そこでわたしたちを出迎えてくれたのは、茶屋の娘さん風の格好をしたオカッパ頭の竹の女童。
 ちょこんと頭を下げて挨拶をする竹の女童。
 彼女がリスターナ城内竹林庭園の管理人さんである。

 庵の前に並べられた長椅子にみんなで腰かけ、竹の女童にふるまわれた竹の葉茶と竹の葉団子で、ほっとひと息。
「なんとも落ち着くねえ。ぼーっとしているだけで、とっても癒されるよ」
「これはありがたい。いいものができた。思索にふけるのにこれ以上の場所はあるまい」
「庭とかあまり興味なかったが、あの枯山水はいいな。なにやら剣の道に通じるものがある」
 このように大人たちはみな絶賛にて、高評価を頂いた。
 リリアちゃんにいたっては「ここに住みたい」とか言い出す始末。
 どうやらみんな満足してくれたようでよかった。これからはこの竹林にて日々ずんずん溜り続けるストレスを存分に解消するといいよ。


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