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147 復活の邪龍
しおりを挟む石の棺の中からのそりと姿をみせたのは一匹のジャミ。
この古代遺跡のある周辺一帯に生息している、魔力喰らいの巨大ミミズのようなモンスター。
ただし目の前の個体には明らかな差異が二つある。
まず色がちがう。通常の個体は赤っぽい茶色、なのにコイツは限りなく黒に近い緑色をしている。
つぎに頭部がおかしなことになっている。ジャミには口という部位はない。その長い体をグネグネしながら対象にまとわりつくことで魔力を吸収するからだ。
なのにコイツには本来ないはずの口がある。それも内部にギザギザのノコギリ刃のようなものが渦をまくようにビッチリ生えているのが。口腔内がまるでミキサーの底のようにて、呑み込んだモノをたちまち破砕してしまう。
おそらく先ほど聞こえていた咀嚼音みたいなのは、こいつが回転していた音か。
ということは……あわれ、ルルハン。
だがある意味、悪党らしいといえば悪党らしい最後。自業自得ゆえに、ざまぁコンチキチン。
それにしてもこの特異個体、ネトネトした粘液を口から滴らせており、それがまたたいそう臭う。焼死体でもへっちゃらのわたしの鼻を脅かすとか、これはなかなか。うっぷ。
「これが……邪龍ねえ? なんかイメージしていたのとずいぶんちがうんだけど」
不気味な容姿ではあるものの、本音をぶっちゃけさせてもらうと、やたらと手間暇かけて復活させたわりには、ちとショボい。
うーん、わざわざ封印する意味がわからん。が、べつにどうでもいいか。
さて、火炎放射器で焼くか、ロケットランチャーで吹き飛ばすか。
ジャミは体液がクサイって話だし、ヘタに焼くととんでないことになりそう。
やはりここは吹き飛ばして埋めちまうのが無難かな。
すちゃっと左腕を向け、わたしが「じゃあね」とぶっ放そうとうしたら、ふいに上方向へとびよーんとのびた黒緑のジャミ。そのまま滝が落ちるかのようにして頭を下げ、大口を広げて丸呑みしたのはバァルディアのカラダ。
ウソでしょ! ルルハンの狂化で八メートル近くにまでなっていた巨躯をイッキ飲みとか、ちょっとありえないんですけど。
バリボリガリガリと聞こえてくるのは例の音。
そしてみるみる大きくなっていく邪龍。
「げっ、喰ったら喰った分だけ大きくなるタイプか! アレ? ということは……」
邪龍ちゃんは、いっぱい食べてスクスク育つ。
大きくなるとその分、お腹が減るし食べる量も増える。だからモリモリ食べる。
食べたら大きくなる。やっぱりペコペコ。ガツガツ食べて、スクスク。
ってことは、ひょっとして時間無制限の食べ放題コース確定!
ワーオ、そりゃあ封印もするよね。
だって邪龍にとってはノットガルドにて生きとし生ける者、そのほとんどが食い物なんだもの。こんなヤツにお一人さまを満喫されては世界がマジで滅ぶ。
よって即殲滅。
ロケットランチャーを発射。
直撃にて邪龍は爆発炎上。
悪臭を漂わせながら燃え尽きて再び石棺の中へと……、もどらない?
それどころか更にでっかくなっちゃったっ!
「うそーん。もしかして衝撃吸収タイプでもあったのかよ。ということは攻撃するほどにスクスク育っちゃう?」
口からもバリバリ食べて、体の表面からもモリモリ吸収。
あげくに破損した肉体もアッサリ再生しているし。
これはダメだ。闇雲に攻撃をしかけたらトンデモないことになる。
じりじりと後退して出口へと向かうわたし。ヤバそうなときには、とりあえず逃げるべし。ここはいったん戻って頼りになるルーシーさんに相談しよう。
さいわいにも邪龍は目の前の食べごたえのなさそうな小娘よりも、広間に転がっている屈強な魔族の兵士らの新鮮遺体に興味津々のご様子。
そんなわけで、ひとまずおさらば。
古代遺跡の最深部から地上へとシュタタタと退避したわたしは、そのまま上空にいた宇宙戦艦「たまさぶろう」へと帰艦する。
艦橋席にてどっかりと座り、復活した鬼メイドのアルバの淹れてくれた竹の葉茶にて休憩がてら、邪龍についてルーシーに説明する。
「……てなワケなのよ。まいったね、どうしよう」
相談しながらわたしはお茶請けのメンマをポリポリ。
うむ。新作のピリ辛味もイケるね。ヤメ時を見失うウマさだ。竹姫ちゃんにはこんど何かステキなご褒美を考えてあげないとね。
「一時撤退、迂闊で粗忽なリンネさまにしては懸命な判断です。ただいまアカシックレコードを探ってみたところ、ジャミの亜種についての古い記録がありました」
「へー、それでまえはどうやって退治したのかわかったの?」
「はい、ズバリ兵糧攻めですね」
大古の昔に突如として出現したジャミの亜種。
やりたい放題にて各地で猛威をふるい、「邪龍」とまで呼ばれたソイツは、広く深い縦穴に誘い込まれてから、年単位にて監視放置。すっかり干からびたところで、慎重に慎重を重ねて石棺に封印されたという。
「それはまた、なんとも地味で気長な作戦だねえ」とわたし。
「しかもずっと見張っておかなければいけないとは。これはかなり大変ですよ」とアルバ。
「面倒ですが仕方ありません。なにせ下手に攻撃を加えたらソレすらも吸収してしまのですから」とルーシー。
通常のジャミは魔法や魔力のみを食す。だがあの特異個体はわたしの攻撃すらも喰らったことからもわかるとおり、とんでもない悪食にて見境なし。
斬っても焼いても撃ってもダメな相手。魔法攻撃なんてとんでもない。じゃんじゃんエサを与えているようなもの。
宇宙に放りだすとか、太陽に投げ捨てるとかすれば、さすがにどうにかなりそうな気はするけれども、何ごとにも「もしも」がある。うっかり触れてどうにかなったらたまらない。わたしは自分の大切な仲間を危険には晒したくないのだ。
だからとりあえず先人の手法をマネて、これにいささか改良を加えてがんばってみようかと相談がまとまりかけたところで、いきなり古代遺跡が派手に爆散。
地中よりとんでもないキングサイズへと成長、というか変貌を遂げた邪龍が出現した。
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