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140 穴

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 四方をやたらと尖がった峰々に囲まれた狭い盆地に目当ての場所はあった。
 中央に灯台のような塔が建っており、その周囲を長屋のようなモノが幾重にもぐるりと囲んでいる。あれが囚人たちが入れられている房。
 中央からすべてが一望できるように配置されており、脱走でもはかろうものならば、とたんに塔の上からズドンと狙い撃ちされてしまうことであろう。

 収容所の上空へと到達するたまさぶろう。
 ことは一刻を争うので、出し惜しみはなし。
 甲板から地上へと向けてわたしは一発の銃弾を放つ。
 施設の上空に展開されていた防御結界が青白く放電、のちにパリンと砕け散る。

「総員降下。すみやかに収容所を制圧せよ!」

 号令により、オービタル、セレニティたちがビスクドールたちを担いで、宙へと踊り出す。
 オービタルたちは降下の勢いのままに次々と建物の屋根を蹴破り、内部へ突入。
 セレニティたちは中央の塔へと向かう。
 ルーシーの分体たちは彼らに抱かれる格好にて地上へ。随行して情報収集および保護対象の確保に動く。

 襲撃開始から七分後。
 制圧完了の報を受けて、わたしはアルバとともにルーシーズの亜空間経由にて地上へと降り立つ。
 看守たちは奇襲によってろくな抵抗をする間もなく、ぶちのめされてのびており、空いていた牢屋にまとめて放り込まれている。
 囚人たちはあえてそのまま。罪状がわからない以上は無闇に解放はできないから。

「それでダイアスポアのみんなは?」

 わたしがたずねると「それが」と言い淀んだルーシー。「塔にいた施設長という人物に尋問したところ、たしかにここに収容されていたらしいのですが、つい数日前に、バァルディアの手の者たちによってちがう場所へと運び出されてしまったようです」
「ちっ、ひと足おそかったか……、それで行き先は?」
「ジャミの谷とのことです」

 魔王軍と連合軍が激しくやり合っているモナズセキ平原。そこから北東へと向かったところにあるという深い渓谷。
 半ば風化した古代遺跡が残り、大きなミミズみたいなモンスターであるジャミたちが生息していること以外は、とりたてて何もない場所。
 ジャミとは魔力喰いにて、ドロリとした体液が臭く、ノットガルドでは嫌われ者。とはいえたいして強くはない。ただし連中が集まっている場所は、どうしても魔素が薄まる。そのせいでデスゾーン化とまではいかないが、居心地が悪くなることも嫌われる要因のひとつ。

「どうしてそのような場所にみんなを」とアルバも首をかしげる。

 とにもかくにも行き先はわかった。
 何を企んでいるのかは知らないけれども、その辺のこととかはあとでわかるだろう。なんなら新魔王さまに直接聞けばいい。
 だからさっそくジャミの谷へ向かおうとしたら、懐の通信端末がぷるぷる。
 施設内を探索していたルーシーズより連絡を受けて、わたしたちはそちらに足を運ぶ。

 場所は中央塔の地下。
 地の底へと通じる階段を一段降りるたびに、強まるのは血と死の香り。
 わざわざ行かなくても、この先に待っている光景は容易に想像がついた。
 それでもあえて来て欲しいと分体たちが言った理由はすぐにわかった。

「これは……、異世界渡りの勇者たちだね」

 勇者同士はひと目で相手を認識できる。
 たとえ無残な屍と成り果てていても。
 薄暗い地下室、その片隅に無造作に積み上げられたモノ。
 大半が人間種の死体。それもバラバラにされた。
 剣とかではなくて膂力にてムリヤリに引き千切ったかのような傷口。
 ルーシーによれば「生活反応がみられることから、おそらくは生きながらに解体されたのだろう」とのこと。むごいことをする。
 格好からして連合軍の捕虜っぽいけど、その中に勇者たちの骸が混ざっている。
 こんな状態なので何人いるのかはわからないけれども、けっこうな数なのは確か。
 施設長の話ではこれを行ったのはバァルディア自身だという。
 ダブルチート持ちの勇者たちをこんなにしちゃうということは、新しい魔王は相当強いということ。そしてその身に宿る恨みの深さは想像を絶することをも意味している。
 だが異様なのはそればかりではない。
 すべての勇者らの胸元には、ぽっかりと穴があいていた。
 心臓が抜き取られていたのである。
 乱雑に扱われ破壊され尽くしている肉体。他の部位に比べてそこのキレイさだけがやたらと際立っており、かえって凄惨な印象を受ける。
 穴を眺めていると底にわだかまる闇から尋常ではない狂気の気配を感じ、わたしは怖気をふるう。

「想像以上にヤバいやつだ。こりゃあ急がないとダイアスポアのみんなが危ない。総員撤収! すぐにジャミの谷にむかうよ」


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