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126 烈女学園風雲録その二

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 廊下にてにらみ合う両陣営。
 そこに割って入った彼女こそが秘密の花園の三巨頭がうちの一角、ミーア・ヘルキャスト。
 自称「良識派」にて、ことあるごとに和平を主張する者。両陣営からあぶれた連中を引き受ける形にて台頭。
 一見するとまるでクラス委員長みたいで、しっかり者のいいひとのように見える彼女。
 そんなミーアがどうしてここに島流しにされたのかというと……。

 規律を重んじ、つねに周囲の規範となるべし。
 それを家訓とする良家に生まれ育ったミーア・ヘルキャスト。
 両親の薫陶よろしくスクスクと育った彼女は、あまりにも真っ直ぐににょきにょき育ちすぎた。
 とどのつまり、正しい理屈と理論と理想を求めるがゆえに、まったく融通の利かないめんどうな女となったのである。
 言ってることは正しい。
 やってることも間違っちゃいない。
 でもそれはどこまでいっても机上の空論でのお話。
 そもそも歪んで矛盾だらけの現実にて、そこにいくら杓子定規にぐいぐいパーツを押し込めたところで、ジグソーパズルのようにキレイに収まるわけもなく、結果として更なるデコボコやら歪みを生むことになる。正道イコール平穏ではないのだ。
 頑張れば頑張るほどに周囲がおかしくなっていく。ミーアとはそういう女であった。
 そんな彼女は、ついにやらかしてしまった。
 当時、祖国が敵対国家と認定していたさる国へと単身出かけて、仲裁者を気取って両国の間を取り持とうとしたのである。
 もちろん独断専行である。なんら国から権限も与えられていない女が、ワケ知り顔にて正論を振りかざし外交官を気取ってフラフラ。
 祖国側はもちろん激怒した。ヘタをしたら二重外交へと発展しかねないし、敵につけ込む口実を与えることになる。
 敵国側とて困惑を隠せない。戦時下、せっかく戦意高揚にてみなが一つにまとまりつつあった段階にて、街頭で声高に反戦を叫ばれたらたまったものじゃない。かといってそこそこの家柄の若い娘を粗雑に扱うと、相手側にいらぬ発憤を招きかねない。それではこれから戦うであろう敵に塩を送るようなもの。
 だからやんわり諭し、適当な内容の親書を手渡し、丁重にお帰りいただくことにした。
 帰国した彼女は早速、王さまのもとへ親書を届ける。
 その手紙の中味は公開されなかったものの、読むなり顔を真っ赤にして王さまがグシャリと握り潰したことから、よほど屈辱的な内容であったと推察される。
 そして即座にミーア・ヘルキャストの修道院行きが決定された。



 両陣営がにらみ合っているところに割り込んできたミーア。
 彼女に向けるバイオレットとリリーの目はとっても冷ややか。
 なにかと反目し合っているこの二人だが、ことミーアに対する感情では完全に合致している。「大っ嫌い」という一点にて。

 絵空事を信じ切っている夢想家を蛇蝎のごとく嫌うバイオレット。
 みんな仲良くという八方美人な風見鶏を軽蔑しきっているリリー。
 それほど自分のことを嫌っている相手とも、いつかはきっとわかりあえると思い込んでいるミーア。
 決定的にかみ合わない三者。
 なんの因果か、それが同時期に秘密の花園へと送られた。
 もしも各々が違う時代に産まれて、この地へとやってきていたら、きっとそれなりに覇者として君臨したことであろうに。
 だが三者は集い出会ってしまった。
 これもまた運命か……。
 ここに秘密の花園を巡る長き騒乱となる三国時代が幕を開ける。
 百花繚乱! いざ乙女たちよ、はげしく舞い踊れ!



 壁のモニターに長々と映し出されていた映像はそこで終了。
 暗転していた室内に明かりがもどり、わたしは目をしょぼしょぼさせた。
 第一回オスミウム調査報告会。
 その後半部分をがっつり占めていたのは、聖クロア教会の総本山であるオスミウムの都にある隔離区画「秘密の花園」についてだった。
 提出された膨大な資料は冊子状態。ちょっとしたライトノベルぐらいもあるぞ。
 放映された映像は、さながら壮大な物語を描いた映画のプロローグのよう。続きがめちゃくちゃ気になってしかたがない。
 調査というか取材対象への思い入れや熱意、チカラの込めようが半端ない。
 えっ、調べていくうちにがっつりハマった?
 ははは、そうか。ならばしかたあるまい。
 ぶっちゃけ、めんどうくさそうな女神や聖騎士の話よりも、俄然こっちのほうがオモチロそう。

「なんだかとっても楽しそう。いっそわたしも学園に転入しようかな」

 ついわたしもそんなことをつぶやいてしまう。
 でもそうなると、どの陣営に与するのかが悩ましい。
 武闘派のバイオレットか、知略派のリリーか、良識派のミーアは……ないな。
 うん、アレはない。そこはかとなく関わると損するところとか、ギャバナのメローナ姫を彷彿とさせるものがある。あの手の人間には近寄らないほうが賢明だ。
 会議の終盤は「果たしてどの陣営を選ぶべきか」という話題に終始。
 議論はおもいのほかに白熱し、わたしたちは激論を戦わせることになった。
 なおオスミウムへの諜報活動はいったんお休み。
 けっこうな騒ぎを起こしたので、しばらくは警備が厳しくなるから、ほとぼりが冷めたらまた再調査ということで。
 ただし、秘密の花園の追跡調査だけは継続されることが、満場一致にて可決された。


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