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119 夜の摩天楼
しおりを挟む元妃と第一側妃の新居は、自然豊かな中央公園の前にあるビルの十階のコンドミニアム風なお宅。
あぁ、コンドミニアムっていうのは広いリビングとキッチンが付いたお部屋のことね。
家具一式揃ってるとか、いたせり尽くせりにもほどがある。
窓からの展望も素晴らしく、わたしもここでお世話になりたいぐらいだ。
引っ越しの荷運びなどもすみやかに終わらせ、お二方の身辺には二体のビスクドールを警護兼つなぎ役として残し、わたしどもはすみやかに撤収。
で、夜になったら、周囲が寝静まった頃合いを見計らってルーシーズの亜空間経由で、こっそり再訪。
照明が落とされた薄暗いリビング。
窓からカーテン越しに差し込むのは摩天楼の明かり。
そして床には脱ぎ散らかされた衣服と転がる空の酒ビンたち。
どうやら熟女二人は、これからの新生活を祝して乾杯としゃれこんだらしい。
にしても、きちゃないお部屋。
ふむ。旧知の女二人暮らしだと、なんら取り繕う必要がないので、本性むき出し本音全開生活にてこんなことになるのか。
そういえば女子高に通っていた友だちも、その魔窟っぷりについて熱く語っていたな。
あんまりな内容だったので、てっきり話を盛っているのかとおもっていたけれど、あながちウソでもなかったみたい。
男の目のない女の園の真実。
こっそり寝室をのぞいたら、二人はパンツ一丁にてベッドに突っ伏して眠りこけていた。
これまたとてもシルト王とリリアちゃんには教えられないよ。
よって本情報は一切秘匿するようにと、わたしはみなに厳命しておく。
部屋の片づけを済ませてから、夜の摩天楼へと踊り出すサイボーグ乙女とその旗下。
「じゃあ、手筈通りによろしくね」
合図で、三つの班へと別れて行動開始。
わたしが率いる第一班はオスミウムが誇る大図書館へ向かう。
アカシックレコードは膨大な知識を内包しているけれども、すべてをカバーしているわけではない。収容されていない情報も巷にはいろいろあるのだ。
ルーシーはこれを機に聖クロア教会が所蔵している書物を根こそぎ漁る気らしい。多元群体化による数の暴力にて、大図書館を蹂躙する気まんまん。
第二班はセレニティ忍軍と分体ドールたちによる混成チーム。
こちらにはオスミウム全土の調査と地図の作成を担当してもらう。
第三班は技術担当にて、第二班の調査結果をもとに、いろいろ裏工作を行う。爆破装置とか隠しカメラとか隠しマイクとか。
月明りを受けながらビルからビルへと飛び移り、ときには物陰に潜んで警邏隊をやり過ごし、シュタタタと目的地へ。
都の西区に位置する丸い塔。こちらがお目当ての大図書館。
地上三十、地下十階層を誇る英知の結晶。
先行していた分体たちが防犯装置の類をすべて解除していたので、わたしとルーシーは堂々と正面から入場。
一歩入るなり、ツンと鼻の奥にくるのは紙とインクの醸し出す香り。
ズラリと並ぶ棚、壁面どころか階段の側面にまでもところ狭しと書物が収蔵されてある。
見張りを残し、わたしたちは奥へと進む。
歩くほどにゾロゾロとふえていくビスクドール。
みな亜空間経由にて応援に駆けつけた者たち。それらが二百単位にて各階に散っていく。
担当階へと到達したら、そこからはローラー作戦を決行。
内容の精査は後回し。とりあえず超速読にて情報をひたすら蓄積する。
一階奥にある扉から地下へと通じる螺旋階段を下っていく。
この手の施設にて、表に出しずらいモノは地下というのがお約束だからという、勝手な思い込みにてわたしはズンズン降りていく。
と、ビンゴ!
地下八階の廊下にて、上階とは独立した警備システムがお目見え。
暗闇に幾筋もの赤い線。触れたら「ピーピー」鳴る、例のアレだ。
これもルーシーに頼んで、サクサクっと解除。
「さて、なにがあるのかなぁ」と棚を漁ってみれば、ここには聖クロア教会の歴代の法王の日誌が保管されてあった。
他人の日記とかを盗み見るのはマナー違反。
でもこれはあくまで調査の一環。だから仕方がないのだ。
気をしっかり持ち、手前勝手な屁理屈にて武装してから、いざ参る。
目をギンギンに血走らせて、鼻息ふんふん、ページをガン見。
集中集中集中……。
で、しばらくしてから、わたしはめちゃくちゃ後悔した。
うん、他人の日記なんて読むもんじゃないよね。
確かにこれは外部に出してはイケないものだ。ここには無限の闇が広がっているよ。
パタンと日誌を閉じたわたしは、元のところへそっと戻した。
地下九階に下りたら、またしても別の警備システム。
緑の光線が格子状に廊下を行き来しており、触れたら「ピーピー」鳴って、ついでにスパスタ細切れにされちゃう、例のアレだ。
ここにきてイッキにヤバさが増したな。
これまたルーシーさんに頼んでサクっと解除。
そんでもってこの階に保管されていたのは、いわゆる禁書というやつばかり。
またぞろ懲りもせずに、適当な本に手をのばす。
パラパラパラリラ……。
司祭を目指す若者たちの愛と青春の日々を描いたボーイズラブな内容であった。
表現もキレイなものだし、比喩もうまい。一見すると青春小説かと見紛うほど。禁書扱いされる意味がわからない。
「ねえ、ルーシー。ノットガルドって同性同士の恋愛とかご法度なの?」
「いえ、特に禁止はされていませんね。聖クロア教でも愛はひとしく愛であると説いています。もちろん国や種族にもよるのでしょうが」
「じゃあ、なんでコレが禁書なの?」
「どれどれ……。あー、コレは登場人物が実名だからですよ。実在する人物で妄想したのをそのまま書き連ねたようです。おそらくモデルにされた人たちからクレームでも入ったのでしょう」
どうやら最後に一筆「当作品はフィクションにて実在の人物団体とは一切関係ありません」との文言を入れ忘れたようだ。
しかしこのまま埋もれさせてしまうには惜しい出来だ。
リスターナに戻ったら、こっそり復元して再販してあげるとしよう。
地下十階。
大図書館の最深部。
これまでにお目見えした赤と緑に加えて青い怪光線。
動くモノみなシュバッと撃ち抜く青い閃光。
なかなか物騒な高出力にて、生身で受けたら爆散しそう。
もっともそんな御大層な仕掛けもルーシーがあっさり解除したけど。
そうしてその先でわたしたちを待ち受けていたのは、一冊の魔導書であった。
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