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115 竹姫

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 リスターナ領内の北部には厳しい環境と魔素の薄さから、デスゾーンとされている地帯がある。
 険しい山々、雑草もろくすっぽ生えていない荒地。
 来る者を全力で拒むかのような土地に、このたび竹林が出現した。
 バンブー・ロードからもらった黄金色の竹筒を埋めたら、翌日にはにょきにょきタケノコが生えてきて、山から吹くからっ風なんぞモノともせずにスクスク育ち、三日後には麓一面がわさわさ青竹におおわれていた。
 とんでもねー繁殖力! 十本あれば国を滅ぼせるという毒麦が、かわいく見えるわ!
 そんな竹林の中には、たおやかな竹のお姫さまが静かに佇んでいた。
 後ろ姿なんて、百人一首とかの絵柄にある麗しの十二単衣姿のまんま。
 竹浪人は、いかにも無骨にて竹竹して、まるで竹ほうきが着物を身につけていたかのような格好だったというのに、こっちの竹姫は随所に巧の職人技が光る美麗な竹人間。
 長い髪の毛とか一本一本が茶せんみたいに細い。
 顔も古風なべっぴんさん。
 それでもってつい先日、竹浪人にお誘いを断られたのは、べつにこちらに協力したくないとかではなくって、バンブー・ロードの生態による。
 てっきりあの竹浪人がバンブー・ロードなのかとおもいきや、それってばわたしの勘違い。アレってただの分体にて、本体はあの竹林そのものなんだとさ。
 そういえば竹って地下ですべて繋がっているとか聞いたことがある。
 だとすれば誘われたからとて、ホイホイと出かけることは無理。
 自分は行けないから代わりにと、派遣されたのがこのお姫さま。
 以降、竹姫と呼称を統一するが、そんな彼女の得物は青竹の薙刀。
 ちょいと腕前が気になったので、うちの自慢の鬼メイドのアルバと手合わせをさせてみる。

 槍を手にした鬼女と薙刀を持った姫。
 薙刀ってば実際のところ実戦武器としてはどうなのかなぁ、と考えていたけど刃先の動きが、まぁ、速いこと速いこと。
 上段の打ち下ろし、横の薙ぎ、突きにと多彩に変化。しかも攻撃の範囲も幅も広い。
 側頭部を狙ったかとおもいきや、すかさず転じて脛へと飛来する一撃。かとおもえば籠手を狙ったり、とにかく目まぐるしい。緩急自在にて手数も多く、息つく暇もない怒涛の連続攻撃。それでいてどこか舞踊のように動きがとっても優雅。
 これに竹特有のしなりが加わるので、まるでムチでもふるっているかのようにも見える。
 だというのに、そのすべてを捌いてみせるアルバの槍も見事なり。

「アルバってば、また腕をあげた?」
「はい、通常業務以外はたいてい富士丸のところでオービタルたちと混ざって汗を流していますので」

 いくら分体とはいえ竹姫はハイボ・ロード。
 それを相手にして一歩も引かないとか、アルバもずいぶんと逞しくなったものである。
 このまえも飛竜とかドラゴンを殴り倒していたっていうし。
 わたしの預かり知らぬところでスクスク成長しているよ。
 と、感心したところで、模擬戦を終了させる。
 だってせっかく生えそろったばかりの青竹が、ザクザク切り倒される姿は、あまりにも見るに忍びないもの。
 なおこの際に切り倒された分を材料にして、竹姫がいろいろとこしらえてくれた。

 ザル、カゴ、茶せん、茶しゃく、一輪挿し、尺八、しの笛、竹刀、弓、鹿威し、ほうき、釣り竿、柵、すだれ、オモチャ、竹炭、竹酢液、生薬、などなどがずらり。
 どれもこれも筆舌にしがたい逸品。ただ飾っておくだけでも銭がとれる。
 竹林内は癒し空間だし、いっそ庵でも造って並べておこうか。
 でもここって、よくよく考えたらバンブーの腹の中みたいなもんなんだよなぁ。
 そう考えるとちょっと。うん? そういえば……。

「ねえ、ルーシー。たしかノットガルド八不思議のひとつに、バンブーの超絶技巧とかいうのがあったけれども、ひょっとしてコレのこと?」
「はい、リンネさま。おめでとうございます。これにて八不思議のうちの六つを制したことになります。残りあと二つ、目指せ、完全制覇」

 ノットガルド名物、八不思議。
 その一、森の賢人グランディア・ロードは実在するのか!
 その二、伝説の戦闘種族オービタル・ロードは実在するのか!
 その三、死の乙女セレニティ・ロードの桃源郷は実在するのか! 
 その四、植人バンブーの超絶技巧!
 その五、世界三厄災の封印の地はいずこ?
 その六、ダンジョン、そのふしぎ。
 その七、女神交代劇の真実。
 その八、七つの月の大罪。

 一から四まではウチにぞろぞろいる。
 その五は富士丸くんが海の藻屑にしてしまった。
 その六のナゾは出禁と引き換えに解明済み。
 そして残りの七と八からは、地雷臭がぷんぷんしやがる。絶対に女神さま絡みの案件だよ。うかつにちょっかいを出したらダメなやつだ。
 完全制覇なんてめっそうもない。ここから先は意地でも関わらないようにしなくちゃ。
 とにもかくにもリンネ組に新たな仲間が加わった。
 バンブー・ロードの竹姫ちゃん。
 広大な竹林の奥にて、ひっそりと暮らすとっても無口な深窓のご令嬢?
 連絡用にルーシーの分体であるビスクドールを一体、進呈して友好の証とし、「今後ともよろしく」と固い握手を交わす。
 そしてタケノコ食べ放題の権利をも手に入れたわたしは、とりあえずルーシーに竹姫と協力してメンマ造りに着手するようにと命じるのであった。


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