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114 バンブー・ロード
しおりを挟むバンブー・ロードが住むという竹林はとても立派だった。
どれくらい立派かというと、茶色く枯れたヤツが一本もなくて、適度な間隔が維持されており、枝葉越しの柔らかな陽光が足元にまでちゃんと届いており、落ち葉でフカフカな地面がちっともジメジメしていない。うっとうしいヤブ蚊とかもいないし、風が通り抜けると青竹の清涼さがふんわり漂い、えもいわれぬ幸福感に満たされる。
ぶっちゃけ二時間ぐらい、ここでぼんやり立ち尽くしていたいぐらいには快適な空間。
三角座りならば三時間はいける。
だというのに、そんな静謐なる地の奥では、等身大アライグマと竹人形みたいなのが異種格闘技戦をくり広げていた。
でっかいベアーなアライグマ。
これがシャモンティーガーという、えらそうな名前のモンスターにて、造形はリアル志向。けっして着ぐるみ風とかデフォルメされたデザインではない。
見た目は愛らしいくせに性格が狂暴な森のお友だち。それをそのままおおきくしたような容姿。
かつて数多の幼子たちの夢と幻想を無残にも打ち砕いた伝説のケモノが、いま目の前にっ!
これと対峙しているのは竹人形っぽいヤツ。
こちらがバンブー・ロードみたい。
ゆらゆら青竹が竹の皮を着物っぽく粋に着こなして、まるで腕に覚えありなデキる浪人のよう。そいつが剣のように一本の竹をかまえている。
こう見えてロードの名を冠する、ノットガルドでも有数の優良種。
「なのにどうして竹?」とわたしが首をひねったら、青い目をしたお人形さんが教えてくれました。
「いいですかリンネさま。竹はその繁殖力、強靭さでは植物界随一。成長速度も環境適応能力もズバ抜けており、他の追随を許さないほど。そのくせアイデア次第で使い道は無限大。それはイコール彼らの未知の可能性をも意味しているのです。そんなわけで、彼らは植物系のハイボ・ロードになるべくしてなった存在なのです」
なんとなくわかったような、よくわからないような……。
でも確かに竹って放っておいたら、とんでもない状態になるよね。
雨後のタケノコと称されるのは伊達じゃない。
庭とかで放置していたらあっという間に征服されちゃう。ときには家の床下から出現して、部屋のタタミどころか屋根をも突き抜けるというし。
実際に、むかしむかしに忍び込んだあばら家が、庭どころか家の中もぜんぶ占領されていたっけか。
あとタケノコご飯最高。でもわたしはメンマも好きです。
そういえばお米がまだ完成していなかったな。いや、原種はとっくに見つけてあるんだけど、そこから品種改良がとっても難航しているのだよ。
なにせ美味しいお米が誕生するまでには、膨大な時間と試行錯誤、多くのお百姓さんたちの血と汗と涙と怨念と妄執がつぎ込まれているもの。
いかにルーシーやグランディアたちとはいえ、そこは一朝一夕とはいかないのだ。
そんなことを考えながら勝負の行方を見守っていたら、動きがあった。
じりじりと間合いをつめるシャモンティーガー。その両腕にはベアークロ―が標準装備されており、まるでカギ爪を装着した二刀流の忍者に見えなくもない。
竹浪人とアライグマ忍者の決闘。
ふいに足下を蹴りあげたのはシャモンティーガー。それによって地面の落ち葉が舞って、視界を塞ぐ。
これに紛れてその巨体が消えた。
いや、ちがう。奴はその大きなからだからは想像もつかないような俊敏さでもって、付近の青竹に飛びつくと、竹のしなりを利用して更に高く飛ぶ。タンタンタンと軽快に竹林の間を跳ねる跳ねる。
頭上をとられた形になった竹浪人。死角を抑えられたことを嫌い、すぐさま駆け出す。
ザザザと竹林を縫うように滑らかに移動していく。
しかしそうはさせじと、アライグマ忍者が上空を追走。
しばらく移動したのちに、急に立ち止まった竹浪人。
手にしていた青竹をしゃらんと抜き放ち、一閃。
周囲の竹たちがスコンパコンと断ち切られ、バサリと倒れる。
これにより上空にて竹を足場に跳ねていたシャモンティーガーは、急にはしごを外されたかのような状況に。
だがそれならそれでとばかりに、落下の勢いを利用して竹浪人へと天空から襲いかかるアライグマ忍者。
これを迎え撃たんとする青竹の剣。
二つの影が交差。
しばしの沈黙の後に、ドサリと地面に倒れたのはシャモンティーガーの方であった。
時代劇の一幕を見ているかのよう。
見事なお点前に、おもわずわたしとルーシーは「おーっ」とパチパチ拍手。
するとまるで「よせやい」とでも言わんかのようにして、竹浪人がカサカサ手をふり照れた。
じきにムクリとアライグマ忍者が起きあがる。
そして竹浪人からタケノコを両手いっぱい渡されると、ぺこぺこ頭を下げながら帰って行った。
どうやら敢闘賞のご褒美らしい。
ちなみにシャモンティーガーの好物はタケノコ。バンブー・ロードを相手にがんばると貰えるから、ちょくちょく勝負を挑みにきているそうな。
ノットガルドのアライグマさんは、わたしの元の世界のやつよりよっぽど愛想がいいらしい。あれでもうちょっと小さかったらウチの子にするのに。
で、肝心の対女神戦線への協力要請なんだけど、竹浪人には断られちゃった。
「自分はこの場所から動けないから」と念話で。
「その代わりと言ってはなんだけど」と渡されたのが、ちょうどわたしの両の手のひらに収まるぐらいの大きさの黄金色の竹筒であった。
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