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111 地上での戦い
しおりを挟む「キシャー」
地上にて吠えて暴れていたのは、一頭の飛竜。
空の相棒として人気のある飛竜だが、見た目は小型のドラゴンにて、体長も五メートルを超える。魔法と物理耐性も高く、全身が筋肉の塊のような構造にて、たとえ地上に降りたとて、その脅威は健在。
轟! うなる尾の一撃をひょいとかわし、やや短めな前足の鋭いカギ爪をも避けて近づく。そんな相手を噛み砕こうと迫る大きなアギト。
その側頭部に右の拳をめり込ましたのは、鬼メイドのアルバ。
ひらりと長いスカートの裾が舞う。
たったの一撃にて、飛竜は白目をむいて、どぅと倒れた。
己の拳をふしぎそうに見つめるアルバ。
なにせ飛竜と言えば、たとえ魔族の猛者とて武器を手に最低でも三人が徒党を組んで当たるのが定石とされているような存在。いかに乗り手が不在、場所も地上にて、ビリビリ光線やバブル弾の影響でやや酩酊状態にあるとはいえ、とても素手で殴って倒せるような相手ではなかったはずだ。
ご主人さまより「生け捕りで」との命が下り、「えー」と内心ではちょっと途方に暮れていたアルバではあったが、そんな彼女につき従っていたオービタル・ロードたちは「だいじょうぶだから、やってみな」と拳での戦闘を提案。
勧められるままにやってみると、なんだか、あっさり倒せた。
富士丸の亜空間内にて、ずっとオービタルたちに混じって訓練に励んでいたアルバ。
しかもルーシーやグランディアたちから差し入れられた怪しげなドリンク類を、何の疑いもなくグビグビ飲み続けていた結実が、コレである。
「あれ、ひょっとして自分ってば、けっこう強くなってる?」
周囲があまりにも異常すぎて、我が身に起きた変化やら成長をまったく実感できていなかったアルバは、おおいに驚いた。
やんやと拍手をおくるオービタルたち。彼らにしてみれば一番末っ子の妹弟子が成長した姿を披露したようなもの。
そんな調子にて暴れる飛竜や抵抗するドラゴンをぶちのめしていくアルバたちを尻目に、ゴードン将軍率いるリスターナ軍の面々は、せっせと捕虜の荷造りに忙しい。
なにせ数が膨大にて、装備類を引っぺがし、縛りあげて拘束するだけでもひと苦労。
しかもボタボタと次から次へと上から落ちてくる。かといって後々の絡みもあるのであまり粗略に扱うわけにはいかない。
ちっとも終わりの見えない作業に辟易しつつ、ある兵士が言った。
「ゴードンさま、オレ、魔族があんなに強いってちっとも知りませんでした。ずっと北の聖魔戦線であんな連中を相手にしているとか、連合軍ってすごいんですねえ」
鬼メイドのアルバがリスターナ国にいる唯一の魔族。
それゆえに魔族イコール鬼女の図式が成り立つ。
だが彼は知らない。いまのアルバのチカラが準魔王級であるということを。これにLGブランドの得物を手にしたら、魔王を名乗ってもちっともおかしくない実力に相当するということを。そして主人であるリンネも知らない。いつの間にか自分のメイドが、ちがう意味でのスーパーなメイドになっていたことを。
こうしてまたひとつ辺境の小国リスターナに誤った知識が根付いていく。
それがわかっていても「あれは例外だ」と訂正しないゴードン将軍。こっちはこっちでちょいと気もそぞろ。
なにせ出がけに新妻と義理の息子に「お前たちの平和はワシが必ず守る」と勇ましく大見栄を切って出陣したというのに、フタを開けてみればコレである。
予定では張り子の虎作戦にて空からぼとぼと落ちてくるカーボランダム勢を、片っ端から愛用の大剣にて懲らしめるハズだったのだが、抵抗はほとんどなし。
なにせ素手で飛竜やドラゴンを倒す鬼女が暴れているもので。
おかげで仕事は楽だけれども、このままでは将軍としての威厳が保てぬ。
あと兵士どもにも示しがつかない。
なによりユーリスとモランにいいカッコウができない。
新しくできた可愛らしい息子から「さすがですお父さん」と羨望の眼差しを向けてもらえない。
新しくできた愛らしい女房から「さすがです、あなた」と尊敬と愛情のこもった目を向けてもらえない。
ついにこらえきれなくなった老将軍。周囲の制止をふりきって、愛用の大剣を抜くと残りわずかとなっていた飛竜の一頭へと単身突撃。
だが先にも述べたとおり、飛竜はけっして弱くはない。
横殴りの尾の一撃を出会いがしらに喰らって、ゴードンの身が派手に吹っ飛ぶ。
しかしケロリとしてすぐに立ち上がった。なぜなら彼の装備品はすべてLGブランドにて固められていたから。ユーリスとの結婚祝いに贈られた一式は特注品にてとっても頑強だった。
人間種族でありながら限りなく魔族っぽい体躯のゴードン将軍。雄叫びをあげながら「どんどんかかってこいや!」と弾ける。
「キシャー」と飛竜が吠えれば、負けじとゴードンも「くたばれ!」と叫ぶ。
尾っぽと大剣にて正面からガンガン殴り合う両者。
「高級品なんだから、殺しちゃマズいですってば」止めようとする部下たちの声は無視。ここぞとばかりに年寄りの特権を行使する老将軍。
そして呆れる周囲をよそに、ついにアゴ下へと強烈なかちあげの一撃を決めて、飛竜をノックアウトしたゴードン将軍が、「おっしゃー!」と勝ちどきをあげた。
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