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109 張り子の虎作戦

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 新たに現れた敵影、その数、なんと千!

「なんだアレは!」「見たことのない形状だ。鳥に似ているが」「頭に風車がついているぞ」「ヤツか、我々の仲間を襲っていたのは」

 やいやい大さわぎしている艦橋内の騒ぎをよそに、わたしとルーシーだけはとっても静か。

「あれって、やっぱりゼロ戦だよねえ」
「どこからどう見てもそうですね」
「ひょっとしてアレを完成させたから、カーボランダムは大空の夢冒険に出発?」
「おそらくはそうかと。それにしても、アレが向こうの手にあるということは、背後には勇者がついていると考えて間違いなさそうですね」
「またか……にしても、いまさら感が拭えない」
「はい。当方ではとっくに廃棄済みですから。それに見たところ敵の機体性能は、以前に開発した品よりも四割近くも質が低いようです」
「まぁ、そのへんは仕方がないでしょ。ルーシーみたいに完璧なデータや図面がないんだから。でもそう考えるとたいしたもんだよね。一から自力で組み上げたんだから」
「その点は評価に値するかと。勇者たちの年齢を考慮すると、おそらくは専門家ではなくてオタクの類でしょうが、知識だけでなくきちんと計算できる頭脳をも持ち合わせているようです」

 めずらしいことにルーシーが敵を褒めている。
 じつのところわたしもけっこう感心している。
 なにせウチのチートはインチキしまくりの上で成り立っているからね。
 きっとギフトやらスキルの手助けは借りたのだろうけれども、それにしたって飛行機を自作して飛ばすだなんて、たいしたもんだよ。

「うーん、今回の騒動は腹立つけど、どのみち手加減する予定なんだし。よし、敵の勇者くんも生け捕りの方向で。処分は面接の上で決めよう」
「わかりましたリンネさま。みなにその旨を通達しておきます。ではそろそろこちらも」
「そうしよっか。では『張り子の虎作戦』開始」

 わたしの合図によって、はるか上空にて戦場を見下ろす形にて待機していた宇宙戦艦「たまさぶろう」の直線式飛行甲板より、次々と飛び立つは銀色のデッカイエンピツっぽい飛行物体。
 ぱっと見には全長三メートルにも満たない小型ミサイルにしか見えない。
 でもこれこそがルーシーとグランディア・ロードたち合作の我が軍の最新鋭機。
 空飛ぶエンピツこと「ハイエンドペンLG」である。
 飛行機イコール翼だろ? という概念をあっさり捨てた翼なき飛行機。
 いちおうは気持ちばかり小さなモノが本体後ろのほうにちょこんと付いているけれども、こいつの役割はただの転倒防止だ。丸い筒状ゆえにうっかりするとゴロゴロ転がるもので。
 機体性能については、むちゃくちゃだ。
 直角カーブもジグザク飛行もこなす。空中でドリフトとか百八十度ターンとか決める。垂直移動もできるからどこでも離着陸が可能。
 さすがに全力飛行のセレニティ・ロード並みとまではいかないが、どうにか八割ぐらいまでならば喰らいつける機動性を誇る。
 こんなむちゃな動きをするので操縦桿も特殊。
 というか、ノーハンドル。あるのは機体とパイロットを繋ぐコードだけだ。穴にズブっと差し込むだけで思い通りに動かせる。
 これらのことからもわかるように、乗り手のことはまったく考えていない。
 でも問題はない。なにせ小さな機体に乗り込むのは、パイロットスーツ姿のルーシーの分体であるビスクドールたちなのだから。
 そして万一にも撃墜されたり事故ったり体当たりしても、彼女たちならば即座に亜空間に避難するので安全安心。
 よって乗り手の安全に配慮するようなやさしい機能も一切積んでない。
 乗り手のことをまるで考えずに突き詰めた悪魔仕様。
 その分だけごっそり空いたスペースには、やさしくない武器が満載。

 ハイエンドペンLG、総数三千。ちなみにLはルーシー、Gはグランディアの頭文字なんだって。なんだかプライベートブランドみたいだな。
 それらが遥か天空より、降り注ぐかのようにして敵陣へと突っ込む。
 銀のボディから最初に放たれたのは大量の煙幕弾。
 ギューンと飛んで行ってはバフンと弾ける。
 赤白黄色に青緑、いろんな煙がもくもくと戦場をおおい尽くし、とたんに視界がまったくきかなくなって、お空の戦場大パニック。
 そこにルーシーエアフォースの第一陣、千機が真上から突入。
 狙いは敵陣前方に展開されていたゼロ戦部隊。
 猛スピードですれちがいざまに破壊光線が放たれ、ジュバッとゼロ戦の翼に大きな風穴を穿つ。射撃は正確無比にて、狙われたが最後、逃れる術はない。
 翼を失った鳥はただのチキン。
 突然、両翼を失い次々と墜落していくゼロ戦たち。
 それに付随するかのようにして、空にパッと開いたのは落下傘。
 これを見て、わたしは「へーほー」と感心せずにはいられない。
 敵チームの勇者はパイロットの安全にもちゃんと気を配っていた模様。うちのマッドな開発チームとちがって、どうやらまともな感覚の持ち主のようだ。
 続いてルーシーエアフォースの第二陣が突撃。
 こっちの狙いは飛竜たち。とはいえ殺しちゃダメなので、ビリビリ光線にて痺れさせて行動不能にする。
 へにゃりとなった飛竜たちがバタバタ落ちていくので、これに第一陣と協力してぽこぽこバブル弾を発射。
 バブル弾とは目標に当たると大きな泡となって相手を包み込んでしまうモノ。
 こいつに包まれるとポヨンプヨンとしたシャボン玉の中にいる状態になり、まるで絵本の物語の中に迷い込んだような感じになる。じっさいに怪しげなガスが内部に充満するので、それっぽい幻覚に見舞われて、ちょっとラリる。
 でもその泡の膜のおかげで高所から落ちてもへっちゃら。
 泡を解除するには専用の薬品を一滴たらすか、三時間ばかり待てば勝手にハジける。いちおう健康にはなんら問題ないとの話だが、一部、クセになるとの報告もあって、今後の運用には慎重を期したいところだ。
 そしてルーシーエアフォースの第三陣が総仕上げ。
 撃ちもらしをペロリとたいらげ、飛竜船らのどてっ腹に一撃を食らわし、まともな航行ができないようにしていく。
 主力を失い、身動きもままならないところで、ようやくわたしことアマノリンネさんの出番。

「じゃあ、ちょっくら行ってくるから、またあとで」

 ギャバナ空軍が誇る旗艦「オニックスマーブル」号の艦長さんに声をかけてから、いざ、出陣。
 大空へと飛び出すは、ルーシーが操るハイエンドペンLGマイルド。
 後部座席にて、わたしは小さくなってちょこんと三角座り。
 この機体は特別製の二人乗りにて、わたしにもちょっぴりやさしいマイルド仕様。
 どのへんがマイルドかというと、お尻のところに低反発の円座クッションっぽいのが敷いてある。ただそれだけだ。
 うちの開発チームのメンバーたちは健康スキル持ちには、とっても塩対応なのだ。
 贅沢は言わない。だからもう少し愛が欲しいです。
 で、そんなわたしたちが向かうのは一番おおきくて立派な飛竜船。あれこそカーボランダムの旗艦。
 もちろん狙うは大将と勇者の首。
 よっしゃー、てっぺん、とったるぞー!


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