109 / 298
109 張り子の虎作戦
しおりを挟む新たに現れた敵影、その数、なんと千!
「なんだアレは!」「見たことのない形状だ。鳥に似ているが」「頭に風車がついているぞ」「ヤツか、我々の仲間を襲っていたのは」
やいやい大さわぎしている艦橋内の騒ぎをよそに、わたしとルーシーだけはとっても静か。
「あれって、やっぱりゼロ戦だよねえ」
「どこからどう見てもそうですね」
「ひょっとしてアレを完成させたから、カーボランダムは大空の夢冒険に出発?」
「おそらくはそうかと。それにしても、アレが向こうの手にあるということは、背後には勇者がついていると考えて間違いなさそうですね」
「またか……にしても、いまさら感が拭えない」
「はい。当方ではとっくに廃棄済みですから。それに見たところ敵の機体性能は、以前に開発した品よりも四割近くも質が低いようです」
「まぁ、そのへんは仕方がないでしょ。ルーシーみたいに完璧なデータや図面がないんだから。でもそう考えるとたいしたもんだよね。一から自力で組み上げたんだから」
「その点は評価に値するかと。勇者たちの年齢を考慮すると、おそらくは専門家ではなくてオタクの類でしょうが、知識だけでなくきちんと計算できる頭脳をも持ち合わせているようです」
めずらしいことにルーシーが敵を褒めている。
じつのところわたしもけっこう感心している。
なにせウチのチートはインチキしまくりの上で成り立っているからね。
きっとギフトやらスキルの手助けは借りたのだろうけれども、それにしたって飛行機を自作して飛ばすだなんて、たいしたもんだよ。
「うーん、今回の騒動は腹立つけど、どのみち手加減する予定なんだし。よし、敵の勇者くんも生け捕りの方向で。処分は面接の上で決めよう」
「わかりましたリンネさま。みなにその旨を通達しておきます。ではそろそろこちらも」
「そうしよっか。では『張り子の虎作戦』開始」
わたしの合図によって、はるか上空にて戦場を見下ろす形にて待機していた宇宙戦艦「たまさぶろう」の直線式飛行甲板より、次々と飛び立つは銀色のデッカイエンピツっぽい飛行物体。
ぱっと見には全長三メートルにも満たない小型ミサイルにしか見えない。
でもこれこそがルーシーとグランディア・ロードたち合作の我が軍の最新鋭機。
空飛ぶエンピツこと「ハイエンドペンLG」である。
飛行機イコール翼だろ? という概念をあっさり捨てた翼なき飛行機。
いちおうは気持ちばかり小さなモノが本体後ろのほうにちょこんと付いているけれども、こいつの役割はただの転倒防止だ。丸い筒状ゆえにうっかりするとゴロゴロ転がるもので。
機体性能については、むちゃくちゃだ。
直角カーブもジグザク飛行もこなす。空中でドリフトとか百八十度ターンとか決める。垂直移動もできるからどこでも離着陸が可能。
さすがに全力飛行のセレニティ・ロード並みとまではいかないが、どうにか八割ぐらいまでならば喰らいつける機動性を誇る。
こんなむちゃな動きをするので操縦桿も特殊。
というか、ノーハンドル。あるのは機体とパイロットを繋ぐコードだけだ。穴にズブっと差し込むだけで思い通りに動かせる。
これらのことからもわかるように、乗り手のことはまったく考えていない。
でも問題はない。なにせ小さな機体に乗り込むのは、パイロットスーツ姿のルーシーの分体であるビスクドールたちなのだから。
そして万一にも撃墜されたり事故ったり体当たりしても、彼女たちならば即座に亜空間に避難するので安全安心。
よって乗り手の安全に配慮するようなやさしい機能も一切積んでない。
乗り手のことをまるで考えずに突き詰めた悪魔仕様。
その分だけごっそり空いたスペースには、やさしくない武器が満載。
ハイエンドペンLG、総数三千。ちなみにLはルーシー、Gはグランディアの頭文字なんだって。なんだかプライベートブランドみたいだな。
それらが遥か天空より、降り注ぐかのようにして敵陣へと突っ込む。
銀のボディから最初に放たれたのは大量の煙幕弾。
ギューンと飛んで行ってはバフンと弾ける。
赤白黄色に青緑、いろんな煙がもくもくと戦場をおおい尽くし、とたんに視界がまったくきかなくなって、お空の戦場大パニック。
そこにルーシーエアフォースの第一陣、千機が真上から突入。
狙いは敵陣前方に展開されていたゼロ戦部隊。
猛スピードですれちがいざまに破壊光線が放たれ、ジュバッとゼロ戦の翼に大きな風穴を穿つ。射撃は正確無比にて、狙われたが最後、逃れる術はない。
翼を失った鳥はただのチキン。
突然、両翼を失い次々と墜落していくゼロ戦たち。
それに付随するかのようにして、空にパッと開いたのは落下傘。
これを見て、わたしは「へーほー」と感心せずにはいられない。
敵チームの勇者はパイロットの安全にもちゃんと気を配っていた模様。うちのマッドな開発チームとちがって、どうやらまともな感覚の持ち主のようだ。
続いてルーシーエアフォースの第二陣が突撃。
こっちの狙いは飛竜たち。とはいえ殺しちゃダメなので、ビリビリ光線にて痺れさせて行動不能にする。
へにゃりとなった飛竜たちがバタバタ落ちていくので、これに第一陣と協力してぽこぽこバブル弾を発射。
バブル弾とは目標に当たると大きな泡となって相手を包み込んでしまうモノ。
こいつに包まれるとポヨンプヨンとしたシャボン玉の中にいる状態になり、まるで絵本の物語の中に迷い込んだような感じになる。じっさいに怪しげなガスが内部に充満するので、それっぽい幻覚に見舞われて、ちょっとラリる。
でもその泡の膜のおかげで高所から落ちてもへっちゃら。
泡を解除するには専用の薬品を一滴たらすか、三時間ばかり待てば勝手にハジける。いちおう健康にはなんら問題ないとの話だが、一部、クセになるとの報告もあって、今後の運用には慎重を期したいところだ。
そしてルーシーエアフォースの第三陣が総仕上げ。
撃ちもらしをペロリとたいらげ、飛竜船らのどてっ腹に一撃を食らわし、まともな航行ができないようにしていく。
主力を失い、身動きもままならないところで、ようやくわたしことアマノリンネさんの出番。
「じゃあ、ちょっくら行ってくるから、またあとで」
ギャバナ空軍が誇る旗艦「オニックスマーブル」号の艦長さんに声をかけてから、いざ、出陣。
大空へと飛び出すは、ルーシーが操るハイエンドペンLGマイルド。
後部座席にて、わたしは小さくなってちょこんと三角座り。
この機体は特別製の二人乗りにて、わたしにもちょっぴりやさしいマイルド仕様。
どのへんがマイルドかというと、お尻のところに低反発の円座クッションっぽいのが敷いてある。ただそれだけだ。
うちの開発チームのメンバーたちは健康スキル持ちには、とっても塩対応なのだ。
贅沢は言わない。だからもう少し愛が欲しいです。
で、そんなわたしたちが向かうのは一番おおきくて立派な飛竜船。あれこそカーボランダムの旗艦。
もちろん狙うは大将と勇者の首。
よっしゃー、てっぺん、とったるぞー!
3
お気に入りに追加
637
あなたにおすすめの小説
城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
一人暮らしのおばさん薬師を黒髪の青年は崇めたてる
朝山みどり
ファンタジー
冤罪で辺境に追放された元聖女。のんびりまったり平和に暮らしていたが、過去が彼女の生活を壊そうとしてきた。
彼女を慕う青年はこっそり彼女を守り続ける。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる