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108 ドラゴン

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 空飛ぶクジラを彷彿とさせるギャバナ空軍が誇る旗艦「オニックスマーブル」号。
 上部が楕円形をした風船にて、下部に船体がくっついた、いわゆる飛行船。
 構造や仕組みもだいたい同じ。ちがいは動力やら航行に風魔法を多用しているぐらいか。
 これに十ほどの中型の飛竜船と二百ほどの飛竜部隊にて、構成されているギャバナ空軍。
 この度の対カーボランダム空中大決戦において、リスターナに派遣された軍勢。
 その旗艦にお邪魔しているのは、わたしことアマノリンネとお供のルーシー。
 鬼メイドのアルバは地上部隊を率いるゴードンさんに預けてある。「たまにはカラダを動かさないとなまるから」って当人が志願したので。ついでにオービタルたちを百ばかりつけたので、あっちは問題なかろう。もしものときには富士丸くんに出張るように指示してある。
 他のリンネ組の子たちは遥か上空にいる宇宙戦艦「たまさぶろう」内にて待機中。

 飛行船ってば地上から見てると、なんとものんびりした乗り物だなぁという印象だったけど、実際に乗ってみると安定しているし、このゆったり感がいいね。
 なんとも優雅にて、空の景色を楽しむのには最適の乗り物だ。
 わたしはおおいに気にいったよ。
 あとはこれで視線の先にいる連中がいなければ、言うことなしなんだけどねえ。

 ただいまギャバナ空軍と大空にて対峙しているのは、カーボランダムが誇る空挺部隊。
 総数は……、とにかくいっぱい! 横一文字にずらーっといるよ。
 黒やら緑のウロコの飛竜たちがうじゃうじゃ。
 大きなドラゴンもぞろぞろ。
 中型の飛竜船だけでも百は下るまい。それに加えて砲門がニョキニョキ生えている大型の飛竜船もざっと見で二十はある。更にデカいのがたぶんカーボランダムの旗艦。
 おそらくは船の中にも多数の兵力を控えさせているだろうから、とんでもない大軍勢。
 兵力差を計算するのもめんどうになるくらいの大差。
 カーボランダム側が本気過ぎて、むしろちょっと引く。そして今頃はこちらの戦力の貧弱さを見てあざわらっているんだろうなぁ。

「ところでいまさらだけど、ノットガルドにドラゴンっていたんだ」
「いましたよ。腐っても剣と魔法のファンタジーですからね」
「それで、やっぱり強いの?」

 わたしの問いにルーシーはこう答えた。

「強いというよりも、バカですね」
「?」

 ドラゴンといえばファンタジーでは定番のボスキャラ。
 最強の一角を担う代表のような存在。
 大きなカラダ、全身をおおう固い鱗はいかなる攻撃をも跳ね返し、雄々しき翼で大空を征き、尾の一撃で山を砕き、爪や牙は鉄をもたやすく切り裂きかみ砕く。口より吐き出される炎はすべてを焼き尽くし、その目にギョロリと睨まれれば歴戦の猛者も震え上がる。
 なにもかもが規格外にて別次元の生物。世界の頂点に位置し、気ままに暮らす絶対暴君。
 これが、わたしが抱いていたドラゴンという存在。
 でも、ガッカリファンタジーであるノットガルドのドラゴンは、かなりオツムが残念らしい。
 大きなカラダのわりに、頭部が小さく首が長い。
 つまり頭への血のめぐりがいまいち。爬虫類っぽいせいか体温調節も下手くそにてさらに血のめぐりがわるくなる。そして血のめぐりがわるいことに加えて、その巨体ゆえに動くことがおっくうになり、わりとグータラ。
 脳みその大きさが必ずしも知能の優劣に直結するわけではないけれども、頭部が小さいゆえに中身も相応。そして血も足りない。ゴロゴロしてばかりであまり使わないから、発達するわけもない。
 だがこれを指してルーシーが「バカ」と評したわけではない。
 ドラゴンのバカさ具合は、そのザンネンな思考回路にあるとお人形さんは語る。

 肉をやる。「おまえいいヤツ。オレ、気に入った」
 さらに肉をやる。「おまえいいヤツ。オレたち、ブラザー」
 さらにさらに肉をやる。「おまえいいヤツ。オレたち、ファミリー」

 これがドラゴンの思考パターンの代表的例だそうな。
 とってもチョロイ。
 だから簡単に言うことを聞くので、オイシイ相手とおもわれがちだが、さにあらず。
 バカはカラダがとってもおおきい。おおきなカラダを維持するにはいっぱい食べなくてはならない。そりゃあ、もう、呆れるほどにパカパカ食べる。そしてバカは遠慮をしらない。彼らの脳みそに自重などいう殊勝な言葉は存在しない。
 つまり飼育するにはとってもエサ代がかかる。
 そのくせイマイチやる気がないから、その気にさせるのがとってもたいへん。
 その点、同じ大飯喰らいでも飛竜はよく働く。しっかりお世話をすれば懐く。信頼関係が成り立つので、単純な損得ではない絆が結べる。それこそが飛竜乗りの醍醐味にて、以上により各国でも飛竜が大人気。
 対してドラゴンを飼うのは道楽扱いされているのが現状。よっぽど余力がないととても手がでない。
 よって、わりと効率や費用対効果を重んじるギャバナには、飛竜部隊はあれどもドラゴンは一頭もいないのである。

「そっかー、ドラゴンくんはガッカリグループの一員か……。してお肉のお味は?」
「固くてとても食用には」

 尻尾のつけ根のあたりとかなんとなくウマそうだったのに、ざんねん。
 いいところナシだなとわたしが感想をもらすと、ルーシーも肩をすくませてみせた。
 そのタイミングで敵勢が動きだす。

「前方より敵影多数接近! うん? なんだ、アレは」

 見張り担当の声が戸惑っている。
 どれどれとわたしとルーシーもマイ双眼鏡にてチェック。
 するとそこにはプロペラを回しながらこちらへと向かってくる、ゼロ戦の大編隊の姿があった。


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