わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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106 勇者ツバサと空の王

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 飛竜やドラゴンたちの一大生息地を領有するカーボランダム。
 その大国は空に浮かぶ巨大な島にあった。
 空と共にあり、空と共に生きる者たちの国。
 その国のことを知ったとき、失敗続きですっかり意気消沈していた僕はとても興奮した。

 小さい頃は紙飛行機ばかり作っていた。
 風を受けてスイスイ飛ぶ姿を見ているのが、楽しくってしかたがなかった。
 やがて興味は空飛ぶ機械の飛行機へと移って、高校生になる頃には立派なオタクになっていた。
 だから異世界であるノットガルドへと渡る際に求めたのも、空に関するチカラ。
 でもあいにくとそんな都合のいいギフトはなかった。
 だからよくよく考えた末に神さまから「シュミレーション」というチカラをもらうことにした。これは数値や設計図などのデータを頭の中で処理してシュミレートできるというもの。一人コンピューターみたいな能力。直接的な戦闘能力ではないけれども、使い方次第ではかなり有利にことが運べるはず。なにより僕の願いを叶えるのに必要だとおもったからこその選択。
 世界の壁を超える際に発現するスキルは才能や願望に左右されるとの話だったけど、こちらは「風力操作」というものであった。
 風を操ったり流れを読んだりする。がんばれば天候を左右することも可能。
 これもまた使い方次第でいろいろ出来そうだけれども、僕の夢を叶えるのに役立つであろうからおおいに満足する。
 僕はずっと空を手に入れたかった。
 両親にツバサと名付けられたせいか、ずっと翼を持つ者への憧れがあった。鳥が羨ましくってしようがなかった。
 その想いがいつしか飛行機へと向かい、これを操縦したいと考えるのと同等以上に、これを造りたいと渇望するようになっていく。

 ノットガルドには魔法があり、僕には風力操作のスキルがある。
 だからすぐに空を自在に飛べるかとおもったけれども、それは考えが甘かった。
 もとから飛行魔法はあるものの、魔力量との兼ね合いや、空中での姿勢制御など課題が多く、とても僕の体力や魔力量で扱えるシロモノではないことが、早々に判明する。
 レベルをあげれば強くなり魔力の総量も増えると言うから、戦闘もがんばってみたけれども、あいにくと僕のギフトとスキルはあまりそっち方面には向いていない。
 ゲームのようには都合よくはいかず、寄生プレイや安直な手段は通用せず、どこまでも個人でがんばるしかない。
 そもそも僕自身の性格が荒事に向いていない。
 ろくすっぽ運動もしてこなかったツケがここにきて重くのしかかり、レベル上げもままならず、早々に召喚先の国からも愛想をつかされた。
 そんなときにカーボランダムのことを知った。
 行ってみたいと思った。
 だからおずおずと「国を出たい」と申し出たら、あっさりと了承された。
 たとえ戦えなくともギフトのシュミレーションは国家運営や軍事戦略において、かなり有益だ。
 だがそれも信頼と実績という土台があったればこそ。
 えらい学者先生が唱えるからこそ、みんなはその意見に耳を傾ける。
 積み上げてきたモノがあるからこそ、鑑定師の言葉を信じてみんなは品物に価値を見出す。
 どこの馬の骨ともわからない者が、路上で声高に叫んだところで、だれも気にもとめやしない。社会的地位があるはずの政治家先生たちの演説すらもが、ほとんど無視される。
 いくら正確なことを演算処理にて導き出したとしても、土台がない相手が信用されるわけもなく、また強固な土台を築くには相応の労力と時間が必要。
 ぽっと出の異世界渡りの勇者で、他人と接するよりも好きなモノとばかり接してきた僕に高いコミュニケーション能力があるわけもなく、上手にプレゼンテーションもできやしない。
 ただの学生であったがゆえに、周囲から認知され正しく理解される重要性についてまるで気づけなかった。
 とどのつまり、僕は異世界デビューを失敗したのである。

 そんな僕が不慣れな長旅を経て、無事にカーボランダムへとたどり着けたのは、かなり運によるところがおおきい。実際、なんども危ない目にあった。イヤな光景もたくさん目にした。北方では魔族が暴れており、各地で戦争が起こっているということを、まざまざと見せつけられ思い知らされた。
 それでも僕は空の国を目指した。
 そしてようやくたどり着いてから、ハタと気がつく。
 空への渇望から、心のおもむくままにやってきたまではよかったのだけれども、その先のことは何も考えていなかった。

「これからどうするかな……。飛竜乗りを目指すべきか、でもアレって操縦するのにもの凄い技術や体力がいるんだよなぁ。運動音痴な僕にはむずかしいか。飛竜船の船員ならどうかな、でも」

 飛竜船の港が見下ろせる丘の上にて三角座りをしつつ、ぼんやりと飛竜やらドラゴンたちがふつうに飛び交っている光景を眺めながら、これからのことを思案していたら、不意に影が差した。
 見上げた先には一頭の紅い飛竜。
 緑や黒いのはよく見かけるけれども、この色は珍しい。
 とてもキレイな個体だ。
 おもわずそうつぶやいたら、「なんなら乗ってみるか?」と声が降って来る。
 それは紅い飛竜の背にて手綱を握っていた男の声であった。
 やや長めの首に、白目の部分と黒い瞳孔部分がくっきりとした瞳、カラダの端々に露出しているウロコ、ドラコロート族だ。
 腕のいい飛竜乗りは必ずといっていいほどこの種族にて、空は自分たちの故郷であると公言してはばからない者たち。
 男性に勧められるままに飛竜の背にまたがった僕は、大空の雄大な景色に感嘆するばかり。

「どうして僕を誘ってくれたのですか?」

 ためらいながらたずねると彼はこう答えた。

「ずいぶんとシケたツラをしてやがったからな。そんなときには空を飛ぶにかぎる」

 これがカーボランダムを統治する若き王スコロ・ル・カーボランダムと、僕こと勇者ツバサとの出会い。
 僕たちは不思議とウマがあった。空という共通の話題にておおいに盛り上がる。
 スコロ王は僕がこの地に来た理由を聞いて、豪快に笑う。
 そして僕が抱く夢を知ると、「おもしれえ、気に入った! オレが援助してやるからやれるだけやってみろよ。そしていつかオレの飛竜とおまえの飛行機とでいっしょに飛ぼうぜ」と言ってくれた。

 それからは王の言葉に甘えて研究開発に没頭し、ついにあの日の約束を僕たちは叶えた。
 それと同時にカーボランダムは新たな空戦力をも手に入れる。
 飛竜やドラゴンたちはたしかに強力かつ有力ではある。
 だが育成と訓練に膨大な費用と時間がかかり、なにより性能が乗り手の才能によるところがおおきい。
 それゆえに貴重なので、おいそれとは実戦投入されないのがノットガルドの常識。
 でも僕が開発した飛行機はちがう。
 きちんと訓練さえ積めば、たいていの者に扱える。生産も資源さえあればいくらでも可能。数が揃えられるし、個体差がほとんどないので、編隊飛行などの行軍活動では飛竜たちよりも格段に優れている。なにより機械は疲れを知らない。
 新たな翼を手に入れたスコロ・ル・カーボランダムは声高に宣言する。

「時は満ちた。いまこそすべての空を我らの手に! まずはギャバナを落とす。あそこは資源の宝庫だからな。そして戦力のよりいっそうの拡充をはかり、世界中の空へとはばたくのだ」


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