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103 女優魂
しおりを挟む「あーあ、まんまと逃げられちゃったねえ。ミイラ男ブラックも聖騎士を名乗ってたし、三だの九だの言ってたから、少なくともあんな感じなのが最低九人もいるのか……」
いまさらながらの異世界転移物語のお約束的展開。
ナゾの敵っぽい集団の出現に、わたしは心底げんなり。
九人の強敵と白熱の異能バトルとかやりたくない。
よし、居所がわかったら富士丸くんかたまさぶろうにお任せしちゃおう。
「それはそれとして、どうしてあのようなウソを?」とルーシー。
彼女が言ってるのはミイラ男に対してわたしが行った身元詐称について。
まぁ、ふつうならばあそこでバシッと名乗るのが筋ってもんでしょうよ。
だがしかーし、わたしはそうは考えない。
「なんでって、どうしてわざわざ敵に正確な情報を与える必要があるの? カッコウつけてバカ正直に身分を明かして、リスターナのみんなに迷惑がかかったらたいへんじゃない」
特撮ヒーローが正体を隠しているのは、身元がバレたときに周囲のやさしい人たちに迷惑が及ぶから。
もちろんわたしはそんなご立派な存在ではないので、たんにバレたときのモロモロの面倒を回避するための手段として、ウソを吐いただけのこと。
えっ? ギャバナやアキラにめいわくをかけるのはいいのかって。
いいんだよ。
あそこは大国だしお抱え勇者が十一人もいるし、チカラも金も人財もありあまってるんだから。なによりライト王子もいるし、まぁ、だいじょうぶでしょう。
もしものときにはたっぷり恩を着せて助ける。
そして何かお礼をもらう。
アキラについてはべつにどうでもいい。っていうか、むしろナゾの組織に狙われろ。
それにしても我ながらの名女優っぷりであったわ。
あぁ、わたしは自分の才能がおそろしい。
クククク、あの不敵なミイラ男め。まんまと騙されおったわ。
この調子でメスライオンもといジャニス女王さまにも、「全部あのブルネット女とミイラ男ブラックがやったの」と訴えて、すべての罪をおっかぶせてやろうぞ。
ダメでした……。
メスライオンにウソが即行でバレた。
事件の裏で無事に閉幕したという国際会議直後にて、おそらくは心身ともに疲れているであろうタイミングを狙って報告に行ったのだが、女王さまってばむちゃくちゃ元気だった。気疲れのキの字もありゃしない。むしろシルト王成分をたっぷり補充して、肌がツヤツヤしていた。
しかたがないので殊勝な態度の名演技を交えつつ、それっぽいことをズラズラ並べたら、いきなり頭をむんずと掴まれて、そのまま握り潰されるかと思うぐらいにキリキリ締め上げられた。
なにせ街中で派手に立ち回ったものだから、目撃者多数につき情報筒抜け。
口八丁のウソ八百で誤魔化すには、いささか無理があったようである。
面と向かて「女王なめんな」と言われては、ぐうの音もでやしない。
ただし、王弟暗殺未遂事件の犯人を発見したことについては「でかした」とのお褒めの言葉を頂戴する。
新たな外敵の存在が明らかになったのは面倒だが、内敵がいないことがハッキリしただけでも、かなり助かったとのこと。
翌日になって改めてジャニス女王から呼び出しを受ける。
執事が招待状を持ってきたとかじゃなくって、出迎えの魔法騎士十名に問答無用でルーシーともども連行された。
てっきり高額の請求書でも渡されるのかとビクビクして出向いたら、ただのお茶会の誘いだった。
その席での話題はもっぱら先日の騒動の件について。
「それにしても聖騎士ねえ……。教会支部にも問い合わせてみたのだが、反応がいまいちでなぁ」とジャニス女王さま。
問題が問題なだけに、国の立場からすぐさま教会にことの真偽を問い質したそう。
その回答は「いるにはいるらしいのだが、よくわからない」という、なんとも歯切れのわるいもの。
べつにとぼけているとかではなくって、本当に知らないらしい。
教会支部が置かれるのは立派な国だけ。
リスターナのような辺境の小国なんて見向きもされない。
支部が設置されてあるということは、聖クロア教会側がラグマタイト国の実力を認めているということ。そんな場所に派遣される司祭もまた、教会内ではけっこう重要なお立場。国でいうところの外交官。組織の看板背負ってるようなもんだからねえ。
聖騎士とは、そんな人物が首をひねるような存在ということになる。
司祭さまは「念のために本山に問い合わせてみる」と言ってくれたらしいけど、結果はあまり期待しないほうがいいだろう。
養生中の王弟アーク・ル・ラグマタイトとの線も脈なし。
そもそも彼は第九の聖騎士グリューネなる魅惑の女スパイと一面識もなかった。
がっつりとり込まれていたのはアークさんの身辺警護担当の者のうちの一人。
なんでも酒場で「あらステキなひと」と声をかけられ、気づいたらねんごろになっており、「わたし、あなたの職場をぜひ見てみたいわ。さぞや立派なのでしょうね」と言われて、すっかり鼻の下をのばしていた彼はホイホイと女を案内してしまったと。
びっくりするぐらいにしょうもないハニートラップ。
これにはわたしとルーシーもへそで茶を沸かすぜとばかりに、ケタケタ大笑い。
ジャニス女王も失笑を禁じえない。
が、ひとしきり笑ったあとに急に真顔になるとこう言った。
「たしかに阿呆な話さ。だが仮にも王族の警護をまかされるほどの魔法騎士が、そんな阿呆な手に落ちたとなると、こちらとしてはどうにも笑えないんだよ。うちはそんなヤツに魔法騎士を名乗らせるほど甘やかしてはいない」
ラグマタイトの魔法騎士は国が認めた者にしか名乗れない。
それだけ重き責務にて、実力だけでなく人格などにも優れていることが条件。
これをコロリと篭絡したという話に、何やら裏があると女王さまは懸念しているようだ。
そういえばリスターナのカーク元王子の周辺にも、気づいたら居座っていたという話だし、コレはひょっとしたらひょっとするのか?
「変幻自在の糸、こちらの動きを読むチカラ、そして用心深い王族や屈強な魔法騎士をも誑かす能力……、三つの異能持ち。対峙した際のあのただならぬ気配。ひょっとしたら聖騎士と名乗った連中は、みんながみんなそうなのかもしれませんね」
ずっと話に耳を傾けていたルーシーが物騒なことを口にした。
そんなバカなと言いたいところだけれども、黒いミイラ男も複数の異能を使っていたことからして、充分にありえるか?
ダブルチート持ちでもノットガルドではけっこうな規格外なのに、トリプルチート持ちまで登場とか、バランスブレーカーにもほどがある。
そう文句を言ったら「リンネさまにブーブー言う資格はありません」だってさ。
青い目のお人形さんがひどい。
「今後とも何かわかったらすぐに報せよう」とジャニス女王。
がっちり握手を交わし、ここに協力体制が成立。
だから緊急連絡用にとスマートフォンっぽい通信端末を渡してあげたら、メスライオンがにやりと笑った。
その表情を見て、わたしはまんまとダマされたことに気づく。
ここまでのもっともらしい会話は、すべてフラグ。
この女、端からこっちが本命だったんだっ!
なんてこった……、すまないシルト王さま。
わたしは初恋をこじらせまくっている飢えた恋愛モンスターに、超危険なアイテムを授けてしまった。
さっそく今夜あたりからバンバン攻勢がはじまるとおもうけど、どうかご武運を。南無南無。
暗躍する聖騎士と名乗る存在。
トリプルチートの真相。
ほくそ笑むメスライオン。
新たに仲間となった見えないお友だちのひがみちゃん。
教会との関係やら連中の目的など、ナゾばかりを残しつつ、それでも国際会議の方は無事に終了。
というわけで、そろそろラグマタイトをお暇するぜい。
ところでみんなは悪い事をしたら、その分だけ強烈なカウンターを喰らうってことをなんて言うか知っているかな?
そうだね、「因果応報」だね。
うんうん、やっぱり悪党にはそれ相応の報いがないと、マジメにやってられないよね。
そんなわけで、身元詐称をしたわたしにもキチンと天罰が下ったよ。
なにせ帰りに宇宙戦艦「たまさぶろう」に乗ってゆらゆらリスターナに向かっていたら、ぷるぷる振動する懐の通信端末。
誰からかとおもえばギャバナのライト王子。
若くして裏から国を支えている彼はとってもいそがしい。
そんな彼から連絡をよこすなんて珍しいと出てみれば、開口一番にこう言われたよ。
「先に謝っておくぞ。すまない、うちの妹が迷惑をかける」
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