わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

文字の大きさ
上 下
102 / 298

102 三番目と九番目

しおりを挟む
 
 ドサリと地面に落下したカラダ。

「あー、びっくりしたぁ」

 むくりと起き上がり、わたしがケロリと言えば「ぼんやりしすぎですよ」とルーシーにたしなめられた。
 そしてグリューネは切れた糸を手に「なんで平気なのよ! 首がちょん切れているハズでしょ!」と声を荒げる。
 あー、やっぱりさっきのイヤな感触ってば、斬糸系のモノだったんだね。
 糸を使っていろいろ出来そうだとは予想していたけれども、やっぱり出来たか。
 それにしても首を絞められたり、首を斬られるのってあんな感じになるんだ。
 これはあんまり気持ちのいいものじゃないね。
 それからグリューネからの抗議には「健康ですから」と正直に答えたら、「バカにするな!」と美女が地団太踏んでむちゃくちゃ怒った。
 女のキーキー声が耳に響く。
 あんまりうるさいので、そろそろ黙らさせようとしたら、指先を向けたはしから避けられる。
 そういえばグリューネにはこちらの動きを察知する、もしくは心を読むみたいな異能もあったんだったっけ。
 ということは糸の能力と合わせて二つ。
 これってダブルチート持ち。でも彼女は異世界渡りの勇者じゃない。だって勇者にあえばひと目でわかるんだもの。
 ムムム、聖騎士とはいったい何者?

 わたしが指先を向ければ、グリューネもさっと避ける。
 わたしがピクリと動けば、グリューネもピクリと動く。
 わたしがゆらりとすれば、グリューネもくねくね。

 一瞬たりとも気が抜けぬ。反応がわずかにでも遅れればズドン。迂闊に外せば手痛いしっぺ返し。
 当人たちにとっては手に汗握る静かな攻防がくり広げられる。
 ただし傍からみていると、とってもマヌケけなこの姿。
 なにせ若い女がふたりして街中で、だるまさんが転んだっぽいことをしているようにしか見えないもの。もしくは向かい合っての奇妙な創作ダンス。
 これをそばで眺めていた青い瞳のお人形さんは言いました。

「へったくそなコンテンポラリーダンスですね」

 説明しよう。
 コンテンポラリーダンスとは、色んなパフォーマンスやダンスのエッセンスをごちゃ混ぜにした、定義づけがなされていないヘンテコな踊りのことである。
 素人目には「?」の動きが多いものの、そこには類まれなセンスと確かな技量が込められており、見る者が見れば「へー」と感銘を受けちゃったりするかもしれない。
 やってる連中も「はたしてこれはダンスなのだろうか」と絶えず悩み続けているとか、いないとか。ハマるとダンサー人生を棒に振りかねない答えのない踊る哲学。

 外部からの冷静な指摘を受けて、我にかえった瞬間。
 グリューネとわたしことアマノリンネとの間に明確な差が生じる。
 自他ともに認める美女グリューネは、我が身を省みて、さっと頬を朱に染める。
 いい歳をした大人の女は、いい女であるがゆえに羞恥心に苛まれた。
 自他ともに認めるものぐさサイボーグ乙女は、我が身を省みて、とく何も感じない。
 健康スキルは乙女の体内から、とっくに羞恥心なんぞ排出してしまっていたのである。
 ごめん、ウソです。
 いささか見栄をはりました。もとからロクに持ってません。でなければノットガルドに転移される際の出来事にて、とっくに首をくくっていますから。
 羞恥心にてカラダが身悶えしたことによって、グリューネの動きがわずかに鈍る。
 そこをすかさず狙い撃つわたし。
 右肩を弾丸が貫通。
 勝敗を分かったのは、女としての尊厳の優劣であった。
 ランキング最上位女に底辺女が下剋上達成!
 だが、なぜだろう。ちっとも勝った気がしないや。自分の頬を伝うこの涙はいったい……。わたしは勝利と引き換えに、いったい何を失ったのだろうか。

「ほら、リンネさま。くだらないセンチメンタルジャーニーはあとにして、とっとと身柄を確保しますよ」

 とってもしょっぱい塩対応をするお人形さんに急かされて、「へいへい」と現実に引き戻らされたわたしは、倒れているグリューネへと近寄ろうとする。
 でもほんの二歩ほど踏み出したところで、ふいに視界が暗転。
 続いてあらゆる音が消失。何も聞えなくなった。
 無明無音。
 完全なる闇の世界。
 我が身に何かが起こったのかと考えるも、それは即座に否定。
 なぜならわたしは健康スキル持ちにて、状態異常なんてありえない。
 ならばと、チカラを込めて地面を蹴って飛び上がれば、すぐさまカラダは上空に到達。
 眼下には黒い球体の姿があった。

「あれに囚われていたのか、ルーシーは?」

 心配した矢先に、球体の脇からゴロゴロと横転にて脱出してきたお人形さん。
 わたしだけでなくルーシーもあっさり逃げ出せたということは、黒い球体に拘束力はない。あれはただの視覚と聴覚を遮断するだけの目くらましの空間ということか。
 もしやこれもグリューネの異能かと彼女の姿を探せば、倒れていたはずの場所には血の跡しかない。
 きょろきょろ探すと、離れた位置にて何者かにお姫さま抱っこされていやがった。
 その何者かは異様な風体の男。
 ひょろ長い痩身にて、全身を黒の包帯でぐるぐる巻きにしたミイラみたいな恰好。
 しかも顔にはのっぺら坊な白いお面。
 怪しさ満点どころではない不審者っぷり。

「グリューネ、今回はここまでだ。引き上げるぞ」
「放せ、ワルド! わたしはアイツを殺すっ」

 抱かれたまま暴れる女を平然と見下ろしている仮面の男。

「いい加減にしろ、ナンバーナイン」

 淡々とした口調にて男に数字呼びされたとたんに、びくりと肩をふるわせグリューネがおとなしくなった。
 この一連のやり取りの間中、わたしとルーシーは何もぼんやりとしていたわけではない。
 隙あらば一撃を見舞う準備はしていた。
 だが出来なかった。
 女を抱いたままの男が発するただならぬ気配が、それを許さなかったのである。
 グリューネがおとなしくなったところで、黒のミイラ男がこちらを向いた。

「オレは第三の聖騎士ワルド。きさまの名は?」

 じつに堂々とした名乗り。
 奇妙な見た目に反して、男は意外と礼儀正しい。
 そんな彼の名乗りに対して、わたしもまた堂々と答える。

「わたしはギャバナのアキラ。みんなはわたしのことを光の勇者と呼ぶ」

 これにはルーシーがコテンと小首をかしげるも、わたしは指を立てて「しーっ」

「ギャバナのアキラか。その名前、よく覚えておこう。ではさらばだ」

 言うなり彼らのすぐそばの空間が縦に裂けて、ワルドとグリューネがその中へと入って行く。
 裂け目はまるでチャックでも上げるかのようにして塞がり、二人の姿は完全に消えた。


しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冒険野郎ども。

月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。 あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。 でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。 世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。 これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。 諸事情によって所属していたパーティーが解散。 路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。 ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる! ※本作についての注意事項。 かわいいヒロイン? いません。いてもおっさんには縁がありません。 かわいいマスコット? いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。 じゃあいったい何があるのさ? 飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。 そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、 ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。 ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。 さぁ、冒険の時間だ。

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。 大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう! 忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。 で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。 酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。 異世界にて、タケノコになっちゃった! 「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」 いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。 でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。 というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。 竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。 めざせ! 快適生活と世界征服? 竹林王に、私はなる!

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...