わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

文字の大きさ
上 下
93 / 298

093 魔法騎士の国

しおりを挟む
 
 魔法騎士という言葉の響きから、剣と魔法を巧みに操る騎士っぽい職業を連想するかもしれないが、実態は魔法主体で戦う兵士といったもの。なかには剣や槍などを手にする者もいるが、大部分は武器を所持せず、魔法がメインでの戦闘となる。
 敵を目の前にして、杖を片手にのんびり詠唱とかはあまりせずに、より実践に即した魔法の運用を極めた存在、それが魔法騎士。
 武闘派の魔法使いとでも考えておけばわかりやすい。
 これを名乗るには国の認可が必要とのことから、実力は折り紙つき。
 ノットガルドに数多ある国の中には、魔導研究にチカラを入れているところが少なくない。しかしその中でも対戦闘のみを想定し、これに特化しているとなると非常に稀だ。
 ふつうは国家運営における魔法の有効利用とか、他の使い道なんぞをいろいろ考えてしまい、ついつい研究の枝葉が四方八方にのびるもの。
 ラグマタイトのように国レベルでの一点突破主義に至っては、他に例がない。
 そんな国にて開催される五カ国連盟による国際会議に出席するために、ゆるゆる宇宙戦艦「たまさぶろう」にて空を征くリスターナの一行。

「リリアから話には聞いていたけど、これはいいねえ。なにより移動時間がほとんどかからないのが素晴らしい。一杯ひっかけているうちに到着なんて夢のようだよ。リスターナからラグマタイトに地上をまともに行ったら、往復で二ヶ月はかかっちゃうんだから。飛竜船でもあればもっと短縮できるんだけど、あいにくうちにはないからねえ」

 展望ラウンジにて雄大な空の景色をながめながら、グラス片手にそう言ったのはシルト王。
 初めてのたまさぶろうへの乗艦にたいそうご満悦。
 でもそれ以上に、余計なことを口にしないのが美中年の特筆すべき点だと、わたしは考えている。
 ふつうの権力者であれば、これだけのモノを見せられたら欲しがるか、囲いたがるか、恐れて警戒するか。
 なのに彼はあえて何も言わない。
 こちらがいろいろやる分には鷹揚。かといって何も考えていないわけではなくて、国にとって益となるかどうかの見極めはきちんとしている。それを踏まえての寛容さ。
 信頼して任せると口で言うのは簡単だけど、実際に行うとなると、これがなまなかなことではない。
 ぞんがい部下の手柄や名声に嫉妬する上司って多いもの。後輩の手柄を妬む先輩も多い。なかには自分の地位をおびやかす敵と認識して、排除へと動く性質の悪い輩もいる。大会社とかだと肉親同士で足を引っ張ったりといった話もあるらしい。
 誰だって心に大なり小なり闇を抱えている。
 それはきっとシルト王も同じ。でも彼はそれをきちんと理解し制御している。
 その上で過度に接触してくることもなく、適度な距離感を保ってくれている。
 ついつい、なあなあになりそうでならない。
 わきまえているなどと言うと、いささか上から目線が過ぎる物言いだが、つまり彼はそれだけ「大人」だということだ。
 プライベートでは散々な目にあっており、家庭人としてはさっぱり信用がないけれども、それ以外ではかなり信頼がおける人物にして、よき隣人。
 それがアマノリンネの中のシルト・ル・リスターナという男である。

 今回の国際会議、リスターナは王さま自らが使節団を率いてのご出馬。
 いろいろムズカシイ話もあるらしく、さすがに娘に丸投げはできなかった。
 そしてわたしが同伴している理由は、国際会議に際して、「各国一人だけ勇者を持参すること」とお便りに書いてあったから。
 ぞろぞろ連れて来られてはトラブルの素だからとは表向きの理由だが、これは完全にわたしを狙い撃ちしたもの。
 リスターナってば六名の勇者をトラブル続きにて相次いで失くしている。
 最後の一人であったカズヒコを倒して、しれっと後釜に座っているっぽいわたしは、要警戒対象というわけ。
 あちこちでちょいちょいやらかしているし、ギャバナ国での交流試合ではいちおう優勝もしている。これまでの過程で何人か勇者を抹殺しているし、泣かしてもいるし。
 まぁ、警戒されてもしようがないかな。
 なによりラグマタイトの炎の魔女王さまは、シルト王に本気惚れだという話だから、彼の身を案じてのことであろう。

 そんなことをつらつらと考えているうちにも、はやラグマタイトの領内へ。
 ここからはいつものごとく馬車の旅へと切り替え。
 で、ガタゴトとお尻をゆられて街道をゆく。
 景色は、まぁ、ふつうだ。
 野があり、森があり、山あり谷あり川あり、そして畑やら村やら街やら都やら。
 のどかな田園風景がやや多め。
 あとは人間種以外の種族の姿もちらほら。
 下半身がクモな人がのしのし歩いてるよ。あと半魚人みたいなのも見かけた。
 ルーシーによれば、アラクネっぽい種族がイモク。
 半魚人っぽい種族がザラメ。
 なおノットガルドには、おっぱいモロ出しバインバインのエロスな人魚はいない。すべてがこの魚人タイプとのこと。
 そりゃあ、人魚よりも魚人の方があきらかに利点が多いんだから、そう進化するわな。
 だって水陸両用なんだもの。

「へー、大国でもないのにいろんな人たちがいてにぎやかだねえ」

 わたしが馬車の外をながめながら感心していると、シルト王さま「ここは昔から他種族の受け入れに積極的でね。ジャニス女王の代になってからは、それがいっそう増したという話だよ」
「それに紛争を嫌って、北方からこちらに流れてきた民も大勢いるみたいですよ、リンネさま」と王さまの言葉を引きついだのは、わたしの膝の上のお人形さん。
「となれば、今回の会議ではその辺も議題になるかもね。食糧支援とか、難民の受け入れとか」
「たぶんね。もっともいまのリスターナはリンネちゃんのおかげで、どちらも余裕があるから、ある程度は引き受けるつもりだよ。なにせ各国にはいろいろ迷惑をかけちゃったしねえ」

 シルト王さま、このへんのことはあらかじめ想定していたらしく、事前に宰相のダイクさんと協議の上で、ある程度の明確な数字で提示する準備を整えているらしい。
 そんなことを話しているうちに、わたしたちの乗る六頭立てのラホース馬車の前方に見えてきたのは、ラグマタイトの主都。
 ずんぐりむっくりとした中途半端な高さの円柱が平野の中にポツン。
 塔と呼ぶにはあまりに直径が太く巨大にて、そのわりには背が低い。
 しかし大きい……。
 ひょっとして主都そのものが一つの建物の中にすっぽり収まっている?

「なんともかわっているなぁ」

 ポカンとわたしが眺めてたら、そのずんぐりした巨大建造物から、なにやら真っ赤な隕石みたいなのが飛んできて、そのまま一行の前方にドカンと落ちた。
 衝撃にてびりびり地面がふるえる。熱せられた空気が焼けてむわんと膨らみ、まるでサウナの中にいるような息苦しさに、おもわず顔をしかめる。
 突然のことに混乱したラホースたち。ヒヒンと鳴いて暴れそうになるも手綱を必死にあやつり、どうにか御者が馬車を止めた。
 今回の外遊、警護の人員はリスターナの自前にて、うちのハイボ・ロードたちは上空にいる宇宙戦艦「たまさぶろう」にて待機中。
 さすがはゴードンさんがビシバシ鍛えているだけあって、警護の兵らはすぐさま陣形を整え王の乗る馬車を守り、警戒体制をとる。いい動きだ。
 念のためにルーシーもショットガンを手にとった。
 わたしもいつでもぶっ放せるようにと、左人差し指マグナムを用意。
 緊迫した空気に包まれた現場。
 そのわりにはシルト王さまだけは一人、とくにあわてる素振りもなく泰然自若。
 はて?

 落下の衝撃にて地面よりもうもうとあがる土煙。
 これをブンと乱雑な腕のひと振りにて消し飛ばし、なかからのそりと姿をあらわしたのは白銀の甲冑姿の金髪の女性。
 デカい、ゴードンさんと同じぐらいも背があるぞ。
 整った柳眉、くっきりとした目鼻立ちにて、全身から気焔がみなぎっており、甲冑姿にも関わらず、ひと目でわかる出るところが出て引っ込むところが引っ込んでいるダイナマイトボディ。
 わたしはかつてギャバナの第一王子イリウム・ル・ギャバナを、金色の獅子と称したことがあるけれども、こちらはまるで金色のメスライオン。
 しかもその身にまとう猛々しさはイリウムなんて小僧、目じゃねえ! それこそ背後に炎の大軍勢を率いているかのような錯覚をおぼえる。
 主都目前にて、まさかの炎の魔女王、降臨す。


しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

退役騎士の居候生活

夏菜しの
恋愛
 戦の功績で騎士爵を賜ったオレーシャは辺境を警備する職に就いていた。  東方で三年、南方で二年。新たに赴任した南方で不覚を取り、怪我をしたオレーシャは騎士団を退役することに決めた。  彼女は騎士団を退役し暮らしていた兵舎を出ることになる。  新たな家を探してみるが幼い頃から兵士として暮らしてきた彼女にはそう言った常識が無く、家を見つけることなく退去期間を向かえてしまう。  事情を知った団長フェリックスは彼女を仮の宿として自らの家に招いた。  何も知らないオレーシャはそこで過ごすうちに、色々な事を知っていく。  ※オレーシャとフェリックスのお話です。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

おめでとうございます!スペシャルギフトが当選しました!

obbligato
ファンタジー
ごくごく普通の少年陸人(リクト)は、床下で発見した謎の巻物によってまんまと異世界に飛ばされる(笑) 次々と現れる狡猾で横暴で冷酷無慈悲な敵を半強制的に仲間に加え、彼らとの生ぬる~い友情を支えに様々な困難を乗り越え奮闘する(※時には卑劣な手や姑息な手も使いながら)冒険カオスファンタジー。 ⚠主人公がチートで無双してハーレム作るなどといった王道展開は一切ございませんので、期待しないでください。 ⚠これは破格ファンタジーです。シリアスで手に汗握るような本格的なファンタジーではありませんので、閲覧は自己責任でお願いします。

冒険野郎ども。

月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。 あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。 でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。 世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。 これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。 諸事情によって所属していたパーティーが解散。 路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。 ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる! ※本作についての注意事項。 かわいいヒロイン? いません。いてもおっさんには縁がありません。 かわいいマスコット? いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。 じゃあいったい何があるのさ? 飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。 そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、 ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。 ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。 さぁ、冒険の時間だ。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...