わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

文字の大きさ
上 下
87 / 298

087 ダンジョンへ行こう!

しおりを挟む
 
 ギャバナ国での華々しい成果を引っ提げてのリスターナへの凱旋帰国。
 治安が守られ、食い物と経済が回ってきたおかげで、主都の中もずいぶんと活気が戻っている。
 おかげで正門から城まで見物客にてごった返し、ちょっとしたお祭りパレード。
 主役はもちろんリリアちゃん。
 皮肉なことにダメな兄貴の悪名のおかげで、妹の彼女が当たり前のことをしただけで民衆は拍手喝采。いいことをしようものならば、狂喜乱舞の大フィーバー。
 ましてや若い身空にて、今回の大国との交渉締結までまとめあげた功績によって、その人気は不動のものに。いまやトップアイドルへと成長。
 彼女は着々と女王へと道を歩んでいる。そろそろグッズ販売に乗り出すべきか。いちおうブロマイドとポスターは用意してあるけれども。千部ずつでは足りなさそうだ。よし、追加発注をかけておこう。
 なお、彼女の人気の裏でせっせと働いているわたしのことは公然の秘密。「なんか王さまに手を貸してるヘンな女がいるらしい」ぐらいの認識。
 だから一般には顔をほとんど知られていないので、堂々と街中を闊歩できるというわけさ。

 都民の視線がリリアちゃんの凱旋パレードへと向いているのを尻目に、わたしはルーシーとひさしぶりに街ブラ。
 最初に来たときとは雲泥の活気だけれども、大通りの商店の開店率はようやく七割といったところか。一等地だというのに、まだまだ閉じてるところや空き店舗が目立つ。
 商人たちは利に敏く、用心深い。いちど裏切ったリスターナをそうやすやすとは許してくれないから、こんなもんだろう。
 ノットガルドには冒険者ギルドはないけれども商業ギルドっぽいものはあるらしいので、そのうち接触を試みるのも悪くない。当方が誇る「っぽいモノシリーズ」をちらつかせれば、きっとパクリと喰いついてくるにちがいあるまいて。
 今後の展望なんぞを思案しながらトテトテ歩く。
 路地裏に腹を空かせた子どもたちの姿はない。
 じゃんじゃん収穫される小麦で、バンバン食い物をこしらえて、どんどん配布しまくっているからね。日持ちのするカチコチのパンだけでなく、白くふわふわのパン、あとパスタ類も好評だ。乾麺を優先して開発させたのは正解であった。インスタント麺もすでに試食段階に入っている。充分に国内にゆき渡ったら、今後は輸出にまわすとしよう。
 くくく、我ながらおそろしい開発スピードである。他の追随を許さぬぶっちぎり。
 ルーシー、えらい! 知識チート、万歳!
 喰いっぱぐれていた連中もまとめて雇い入れ、畑の管理、収穫から保管、物流、製造、その他もろもろにて従事させ、とりあえず生活の基盤は確保したから、当面はだいじょうぶだろう。
 もちっと国が安定して落ち着いたら、各々が好きな生き方を模索するといいよ。

 人形を抱いた若い女が、あえて寂しい裏通りを選んでトボトボ歩く。
 だが、ちょっかいをかけてくる不心得者はいない。
 先の賊狩りの効果が十分に発揮されているようだ。
 綱紀粛正のため、問答無用で殺処分にて、さらし首が効いたみたい。
 聞くところによると、巷では子どもがイタズラをすると、お母さんが「そんな悪い子は、王さまに首をちょん切られても知らないから」と言うらしい。
 するととたんに子どもは「ごめんなさーい」と本気泣きにてワビを入れてくるという、家庭内恐怖政治がまかり通っているのだとか。
 裏では密かに「首狩り王」と呼ばれ、恐れられているらしいシルト・ル・リスターナ。
 ごめんよ、美中年。
 そんなつもりはなかったんだけど、世間一般にはモロモロすべてが王さま主導ってことになってるから、いい評判もわるい評判もぜんぶ彼のところに押し寄せる。当人は「これぐらいへっちゃらだよ。責任ある立場とはそういうものさ」とか大人の余裕だったけど、たぶん表に出てるのなんて氷山の一角。裏の裏で何を言われてることやら。
 この分だと後世の歴史家とかに「中興の祖シルト王は、我が子に裏切られて変わられた。それまでの聡明さと果敢さに加えて、残酷さをも兼ね備えた恐ろしくも賢い王に」なんて、きっと書かれちゃうんだ。
 やんごとなきご身分だと、ひとのウワサも七十五日の法則は当てはまらない。
 リスターナの国が続くかぎり、いいや、それどころか滅んでも、たぶん他国経由にて長く語り継がれるんだから、たまったものじゃないね。
 せいぜい悪名はシルト王に背負ってもらい、リリアちゃんにはいい評判だけを残すように注意しないと。

「それにしてもギャバナから帰ったばっかりのせいかもしれないけど、リスターナってまだまだだねえ」
「そうですね、リンネさま」

 あちらの毎日お祭り騒ぎ状態を見てしまうと、こちらは完全に祭りの後にしか見えない。それも町内会レベルの。
 環境さえ整えれば、あとは勝手に隆盛するものかと安易に考えていたけれども、街づくりのシュミレーションゲームのようにはいかないか。
 国の運営や政治ってむずかしいね。独裁でもないかぎり、ちっとも物事がスムーズに運ばない。
 内側の苦労をのぞき見してしまったら、もう、安易に「職務怠慢だ」「仕事しろ! 税金ドロボウ」「やめちまえ! くそバーコード」とかとても言えやしないよ。
 そしてつくづく思うのは……。

「ダイクさんやゴードンさんもよくやってるけれども、やっぱり人不足が否めない」
「はい。騒動の折りに嫌気がさして優秀な人材ほど、早々に国に見切りをつけて出て行ってしまいましたから。残ってくれた人たちも主都より遠ざけられて散り散りにて、ほとんどが消息不明らしいですし。いずれ国がまともになったことを知れば、姿をあらわしてくれるかもしれませんが」
「でも、それだと時間がかかるよね? ならいっそのことコッチから探し出して、迎えに行くとか」
「狩りですか……、いいですね。各地の復興具合を見学がてら、ちょっと漁ってみますか。おもわぬ掘り出し物もあるかもしれませんし。ついでにあちこちに潜伏しているであろう膿も出し切ってしまいましょう」
「そうと決まればお城にいって王さまたちに相談だ」

 善は急げと、城へと向かって歩き出したわたしたち。
 次から国内行脚のぶらり旅編がはじまるよ。
 こうご期待。


しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

処理中です...