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085 鬼メイドのつぶやき。前編

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 わたしの名前はアルバ。
 第四氏族ダイアスポア出身の魔族の女にて、元魔王軍東方面第六部隊師団長、かつては槍働きにて「戦場の白雪」なんぞという、こそばゆい字名で呼ばれていたこともある。
 が、現在はリンネさまにお仕えするメイドである。
 いろいろあってのことだが、そこは私事ゆえに割愛する。
 わたしの仕事は主にリンネさまの身の回りのお世話をすること。
 はじめは失敗ばかりにて、ずいぶんと主人に迷惑をかけていたものだが、近頃では出来ることがずんずん増えていき、多少なりともメイドとしての自信もついてきたと思う。
 リンネさまに「お茶がおいしくなった」と褒められてときは、よろこびのあまりその場でちょっと粗相を働いてしまった。
 魔王軍時代は女というだけで、正当な評価が下されないことがしばしば。
 ずっと悔しい想いをしていたが、その反動であろうか。飾らない称賛がやたらと胸にぐっとくる。とはいえこれからは気をつけねば。
 この調子でリンネさまからドンドン褒められるよう、鬼メイド道を邁進する所存。
 そんなわたしだが先輩たちに比べると、まだまだ到底足下にも及ばない。

 リンネさまの一番の側近であるルーシー先輩は、なんだか、よくわらかないけどスゴイ方だ。
 見た目こそは小さなお人形だが、中身は超ド級。
 多元群体化とかいう能力らしいのだが、とにかくワラワラいる。それはもう見渡す限り視界を埋めつくすぐらいのワラワラ具合。あとだいたいどこにでも一体はいる。
 その全員が同等の能力にて、意識も同調しており、すべてを共有しているので、スゴイ先輩がますますスゴイ状態に。
 ルーシー先輩はとっても物知りだ。なんでも知っている。
 というか、知らないことを探すほうがたいへんなぐらいの英知の持ち主。
 それゆえに森の賢人と呼ばれる伝説の種族グランディア・ロードたちから、神のごとく崇拝されている。
 夜中にグランディアたちがコソコソと集まっていたので、何ごとかとおもいこっそりのぞいてみたら、先輩を模した石像を前にして集った全員が「うんだばだばだば、うんだばだばだば」とかいう奇妙な呪文を唱えながら、伏し拝んでいる姿を目撃する。
 ……まぁ、それほど慕われているということだ。
 ルーシー先輩は武器の扱いが巧だ。機械の扱いが巧だ。人心の扱いが巧だ。
 上司だけでなく部下までも巧に手の平で転がしている姿には憧れる。
 あれが出来る女というモノなのだろう。以前のわたしのクソ上司とはおおちがいだ。

 リンネさまの足として大活躍されているたまさぶろう先輩は、とにかくデカくて、速くて、もうよくわからないけれどスゴイ方だ。
 はじめて星の海に連れて行ってもらった時の感動を、わたしは生涯忘れない。
 どこまでも続く雄大な、けれどもどこか寂しい世界。
 そんな漆黒の中でも懸命にまたたく星たち。
 比べてなんとわたしはちっぽけな存在であろうか。
 思わずそんなことをポツリとつぶやくと、たまさぶろう先輩が「ビチビチ」尾をふる。
 あいにくと彼が何と言ったのかはわからないが、たぶん「クヨクヨすんなよ後輩ちゃん。オレもおまえも、そんな世界の一部なんだよ」とか言って励まされたような気がする。
 そんな戦艦な先輩は内部もスゴイ。
 木が薫る落ち着いた造りだというのに、そこには見たこともないような設備や兵器がごろごろ。ルーシー先輩の分体もワラワラ。
 展望ラウンジをはじめ、充実の施設の数々。
 この前あらたにリンネさま主導により「ダメになる部屋」なるものが新設された。
 興味本位でのぞいてみたが、あれはヤバい。名に恥じぬ強力なダメさが内部に満ち満ちていた。まるで堕落の花園。はっと気づけば軽く数時間が足っており愕然となる。アレは危険だ。だがそれでも足繁く通ってしまう魔性の魅力。
 リンネさまは怖い御方だ。ほんの戯れであんな危険な場所を産み出してしまうだなんて……。あぁ、我が主人のなんとおそろしくもたのもしいことか。
 他にも立派な客室とかいっぱいにて、死の乙女との異名を持つ伝説の種族セレニティ・ロードたちが、わりと艦内に入り浸っている。どうやら彼女たちは部屋に置かれてある二段ベッドというモノが気に入っているようだ。まえに「ほどよい圧迫感が心地よい」と念話で語っていた。さすがに伝説の種族ともなると感性もわたしなんかとはちがうらしい。
 大空を悠然と征くたまさぶろう先輩。
 そのたのもしい背中の乗り心地を知ったいまでは、もう飛竜やらラホースなんかではとても満足できない。
 というか他の乗り物を選択する意味がわからない。
 罪つくりな戦艦先輩である。

 後編につづく。


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