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077 重症

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「リンネお姉ちゃんに、ドーンとまかしとき」

 威勢のいいことを言って、リリアちゃんとマロンちゃんを安心させてから、わたしはすぐさまギャバナへと宇宙戦艦「たまさぶろう」を向かわせた。

 ライト王子から聞いていたマコトが入院しているという病室に直行。
 そこには腕と肩、それから右足にグルグル包帯を巻いて養生している痛々しい彼の姿が。

「よう、わざわざすまねぇな」とマコトくん。

 その顔はおもいのほかに元気そう。しかし回復魔法とかを施されてこの状況だということは、実際はもっとひどかったということ。
 下手をしたら死んでいたかもしれない。
 なにせトレードマークの小汚い長髪がバッサリカットされているぐらいだし、よほど過酷な戦いであったのだろう。

「いや、これは医者のヤツに『ええい、汗と血で腕にまとわりついてうっとうしい。もう邪魔だから切るぞ』ってバッサリされただけだから」

 なんだ、まぎらわしいヤツだな、心配して損した。
 それにしても……。

「ボサボサ髪を切ったら、実はイケメンとかのお約束はナシか」
「まったくです、リンネさま。なんと不甲斐ない。トカードのヨシミさんは、眼鏡を外すと、じつにかわいらしかったというのに」
「しかも隠れ巨乳だったしね」
「どんだけ属性持ちなのかとおもいましたよ。アレは反則です」

 トカード国の五人の勇者のうちの一人。鑑定ギフトを持つ眼鏡女子ヨシミ。
 イケてる幼馴染み、イケてる友人たち、地味な黒縁眼鏡、素顔は美少女、たわわな胸、健気でおもわず守りたくなる系、異世界青春白書……。属性てんこ盛りにてファンタジーライフを謳歌している彼女。ノットガルドにきた異世界渡りの勇者の中でも有数の勝ち組。
 これと比べるのも気の毒だけど、つい、ね。
 露骨にガッカリしているわたしとルーシーの態度に、マコトが涙目になった。

「オレだって、ちゃんとしたらそれなりにイケてるかもとか、自惚れていた時期があったさ! やたらと鏡を意識したり、前髪いじったり。でも現実はこうなんだよ! いまいちは何をしたっていまいちなんだ。だからこその長髪、社会へのささやかな抵抗なんだよ」

 彼のいたもとの世界では、長髪はちょっとした不良ファッションだったそうな。
 次元かわれば文化もかわる。同じような環境だけれども、ちょいちょいちがう。やっぱり似て非なる世界なんだよなぁと、改めてしみじみ。
 わたしがそんな感想を抱いていると、青い瞳のお人形さんは言いました。

「抵抗? お風呂場の排水溝の流れでもじゃましているのですか? 掃除する方の身にもなってください。あれってヌルヌルしてめちゃくちゃ気持ちわるいんですから」

 このひと言がダメ押しになって、マコトくんがついに泣いた。
 お人形さんはまっこと容赦ない。
 だけれども慰めるのもめんどうくさいので、鬼メイドのアルバに命じて彼の口にムリヤリ「だいたいよくなるポーション」の入ったビンを突っ込む。
 このポーションはじつによく効く奇跡の薬。ただしゲロマズにて、飲めば失禁脱糞失神上等! 致命傷すらも回避するかわりに、大切な何かを失う。
 奇跡を得るにはそれ相応の対価が必要なのである。
 よって、すぐさま全員で暴れないように彼の体をガッチリホールド。
 腐っても勇者だからね。ふつうの人よりかはチカラも強いから。もっともいま彼の周囲にはふつうのヤツは誰一人いないけどね。
 そして勇者マコトは男としての尊厳と引き換えにケガが完治。
 自分が気を失っているあいだに、モロモロのお世話を鬼メイドにされて、その恥辱プレイの一部始終をばっちりわたしたちに目撃されたと知って、マコトくんは枕をダボダボに濡らした。



 ところ変わって、ここはライト王子の執務室。
 マコトくんのお見舞いをすませてからの来訪。
 あいさつもそこそこにさっそく何が起こっているのか彼の口より教えてもらった。

 ハマナク国はリスターナよりずっと西に位置する小国。
 その歴史は古く、礼節と騎士の国として、周辺にはよく知られている。
 王位は代々女王が継承。聖クロア教会の教えにも傾倒しており、敬虔な信者が多いことでも有名。そのせいかハマナクの女は慎ましやかで静謐を好み、男は質実な気質の者が多いという。

『嫁を迎えるならハマナク、婿を迎えるのもハマナク』

 そう言われるほどなんだとか。
 そんな国にも勇者が降臨する。
 その数三名。
 女神さまからの賜り物ゆえに、もちろんハマナクは国をあげて歓迎した。
 だが、しばらくしてから異変が起き始める。
 王城内から男の姿が消えた。それどころか主都からも男たちの姿が消えることになる。
 突如として女王より、すべての男たちに「出ていくように」との退去命令が下されたのだ。事実上のところ払い。もちろん良識ある臣下たちも、住人たちもこぞって反対した。
 だが命令が撤回されることはなく、それどころかまるで罪人のごとく、武力でもって追い払われることになる。子どもどころか赤子すらも容赦なく。
 そしてそんな無茶な真似をしていれば、治世はすぐに乱れる。
 ウワサは周辺国にも散らばった。
 これをうけてギャバナのライト王子もすぐに動く。
 現地に潜ませている駐在員と連絡をとろうとするも返事はなし。念のために複数忍ばせていたのだが、そのすべてと連絡がつかなかった。
 次に本国より情報収集のために人を遣わすも、そちらも戻らず消息を絶つ。
 この異変と勇者との関連性を疑った王子は、そこでマコトの派遣を決定する。
 霞となれるギフトと隠形のスキルを持つマコトは、命を受けてすぐさま現地に飛ぶ。
 そこで彼が目撃したのは異様な光景であった。


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