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067 タワーマスター
しおりを挟む試練の塔、完全倒壊。
それはもう盛大に根元からペッキリとキレイに折れた。
現時点にて死傷者数は不明。
ただし、塔は結構な高さにつき、その分だけ被害も広範囲に渡っている。それこそベリドートの国内をバッサリ横断する勢いにて。
かなりの瓦礫の山が量産され、塔の残骸がまるで万里の長城のよう。その撤去費用だけでもきっと莫大な金額になることであろう。でも掘ればお宝がザクザクでるのか?
あと塔ごと内部のモロモロがまとめて一括粉砕された影響にて、ひさしぶりにわたしの脳裏にキンコンカンとレベルアップの音。
まぁ、いつもとちがってすぐに鳴り止んだけど。
「わたしねえ、ずっと夢のタワーマンション暮らし、最上階で優雅に夜景を独り占めとか憧れてたけど。これを見たら、ちょっと考えさせられるわ」
「超高層建築は火事や地震がこわいですからね。どれほどしっかり対策がなされようとも、この世に絶対はありませんから」
「うん、やっぱり庶民は適当な高さのマンションあたりで、地に足ついて暮らすのが無難だよ」
「はい、それに高いところに住むと日常の上り下りがわりと億劫だとも聞きますし」
「なるへそ。そういえば生前にウチのじっちゃんも『二階とか屋根裏なんぞいらん。荷物をもって階段とか、年をとると億劫になるだけじゃ』とかよく言ってたっけ」
「新しい平屋のいい家って、欲しがっている人はそこそこいるんですけど、じつはあんまりないんですよね」
住居談義にてルーシー相手に自分がやらかしたことから、軽く現実逃避をするわたし。
救出作業やら、点呼やら捜索やら、被害の確認やらと忙しい駐留軍のみなさん。
災害現場の雰囲気にちょっと居たたまれなくなり、わたしたちは富士丸くんの手に乗って、その場を離脱。
ゴゴゴと背中のロケットにて空を征く。
目指すは遥か遠くにあるはずの試練の塔のテッペン部分。
いろいろ考えた結果、すべてをタワーマスターとか名乗っているヤツに責任転嫁することにした。だって、もとはと言えばこいつが元凶だし、こいつがヘンテコな塔を建てて調子にのらなければ、わたしがベリドートの地へと赴くこともなかった。富士丸の蹴りが炸裂することもなかった。
それにこの分だとヤツは、たぶんおっ死んでいるだろう。
こいつは都合がいい。死人に口なし。
すべての罪をおっかぶってもらうことにしよう。
試練の塔のテッペン部分は西の国境付近にあった。
ふぃー、危なかった。これでもしも国境をまたいで隣国にまで迷惑をかけていたら、さすがにちょいとしゃれにならなかったよ。
で、バッキバキに崩れている瓦礫を富士丸くんに漁ってもらったら、中から黒い箱が見つかった。
十五メートル四方の箱。
手でコンコンと叩いてみると、まるで鉄板のような感触。
しばらくペタペタと触って調べていたルーシーさん「これは結界の一種ですね」そしてわたしに向かって「一発ズドンとお願いします」
「なんで?」
「リンネさまの武器は特殊なんですよ。なにせ神さま印の一点モノ。理論や理屈なんかを説明するとむちゃくちゃ長くなるので省きますが、ひと言でいえばノットガルドの理から大きく逸脱しているんです。おかげでこちらの防御魔法とか結界魔法なんかは、紙くず同然」
いま明かされる驚愕の事実。
なんか剣と魔法のファンタジー世界のわりに、敵がやたらとサクサク死んでいくとおもったら、我が身にそんなからくりが!
というわけで、左人差し指のマグナムでズドンとやれば、パリンと黒い箱が割れて、中からめちゃくちゃ怯えている痩せぎすの若い男がお目見え。
ちっ、生きてやがったか。
いや、待てよ。いまならば誰も見ていない。ならばこのまま亡きものにして証拠を捏造三昧……。
などという、とってもイケないことを考えていたら、思惑が顔に透けて見えていたらしく、痩せぎすの男が真っ青になってガクブル。ついには恐怖に耐えかねてワンワン泣き出す。それはもう盛大に「ごめんなさい」と鼻水ズルズルにてグジグジ、上も下も大洪水。
わたし、その姿にドン引き。ルーシーはさり気に数歩下がっていた。
別れ話の際に相手の男に泣かれて、かえって女の気持ちが冷めたとかいう話があるが、この気持ちがそうなのかしらん。
他人のマジ泣きには、どうやら荒ぶる魂を沈静化させる効果があるようだな。
これを受けて、わたしもさすがにちょびっと反省した。
うん、お姉さん、思考がダークサイドすぎたよ。
とりあえず話は聞いてやる。やはり耳と言葉を持つ知性の生き物たるもの、まずは会話からだよね。
だから、そろそろ泣き止めとズドンと一発。
オマケが頬をかすめて、タワーマスターを名乗る若人は白目をむいて気を失いコテンと倒れた。
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