66 / 298
066 塔攻略
しおりを挟む「これが試練の塔か……、間近でみると、たしかにデカい」
「ええ、途中から雲に隠れており、てっぺんがまるで見えませんよ」
内部がダンジョン化しており、お宝ざくざくとのウワサの塔。国中のどこからでも拝めるとあって、規模も相応にご立派。
まるで天地を繋ぐ柱のようにそそり立つ威容は、いかにも冒険心をくすぐる仕様だ。
異世界渡りの勘違い勇者とかなら、すぐさま「冒険だ」とか叫びながら突撃をかましそうな佇まい。
周囲には探索者の持ち帰るお宝目当てのバザールが自然発生しており、金やら欲望やら色欲やらが垂れ流されて、少々退廃的な雰囲気にて賑わっているという話。
けれども現在は塔の入り口が国軍によって封鎖されているので、火の消えたようなあり様にて閑散としている。
ひと昔まえのリスターナの主都を彷彿とさせる寂びれ具合にて、ひゅるりと吹く風でクズ玉がころころ。
塔の入り口に立つはサイボーグ乙女とお供の青い目をしたお人形さん。
ミランダさんちの子って言えば、ここまであっさり通してもらえた。美魔女おそるべし。
設置されてある石碑をしげしげ眺めてから、わたしが言った。
「面倒だし、たまさぶろうで上からショートカットってのは?」
「どうでしょうか。話に聞くところでは飛竜のチカラを借りたり、飛行魔法にて同様なことを目論んだ者もいたそうですが、みなあの雲に阻まれてダメだったそうですし」
どこまで飛んでも頂上はちっとも見えず、諦めたら、あっさり雲の外へと出られる。
中には意地にて三日三晩もがんばった人物もいたんだとか。でもそのド根性野郎は疲労困憊で帰るなり、こうつぶやいたそうだ。「こんなことなら、まじめに入り口から挑戦すればよかった」と。
「塔の内部の空間もおかしなことになってるって話だし、これは外部からのインチキ踏破対策もきちんと施されていると考えたほうが良さそうだね」
「そうですね。わたしが例のタワーマスターとかいう痛い人でも、きっと何らかの対策を施します」
「痛いといえば、この造りや雰囲気って、めちゃくちゃゲームっぽくない?」
「……言われてみれば、リンネさまのおっしゃるとおりかと。だとすれば、これはもしや」
そこから先は言わずもがな。
どこぞのバカ勇者のギフトだかスキルによる創作物との疑いが濃厚にて。
そうなると張本人は石碑に記されてあるとおりならば、最上階にいるということになる。
「えー、千階もおっちら登るのー。いくらなんでもダルすぎるよー」
わたしはたちまちやる気を失くした。
もう面倒なんで、いっそのことハイボ・ロード軍団を一気に投入すべきか。
オービタルたちとか、この手のお遊び好きそうだし。赤と黒の組にわかれて競争とかしそうだし。
「ちなみにいまのリンネさまのレベルでしたら、本気の走破で途中のすべてをフル無視すれば、二時間のタイムを切れるかと」
ルーシーはそう言ってくれたけど、やっぱりダルい。
マラソンとかしたくない。なにより痛い人の思惑通りに動くのがしゃくにさわる。
が、いくら駄々をこねたところでこの塔をどうにかしないと、ミランダさんとの約束が果たせないし、何よりガガガガの実が手に入らない。
しょうがないので、「よっこらせ」とわたしは重い腰をあげる。
そして「富士丸くん、カモン!」と言った。
すぐさま亜空間より姿をあらわしたのは異形の巨人。
ひさしぶりに手ずからにてゼンマイをギチギチ巻いてあげると、富士丸がたいそうよろこんだ。なにせここのところお世話はずっとルーシーの分体たちにまかせっきりだったから。そのうち気が向いたらデッキブラシで体を磨いてあげようかねえ。
そんなことをつぶやくと、富士丸のテンションマックス。
いい感じに温まったところで、その勢いのままにわたしは命じる。
「富士丸くん、必殺! 横一文字キック」
説明しよう。
横一文字キックとは、腰の回転を利用した、ただの横蹴りである。
ただし星砕きの拳を持つ巨人の蹴りであるからして、その威力はちょっと想像がつかない。一説によると足のチカラは腕の三倍に相当するとか。だから当たればだいたいの目標がペッキリ折れる。
瞳がピカリンと光り、「ウンガー」と雄叫びをあげ、気合一閃。
振り抜かれた富士丸の右足は、見事に試練の塔の根元を捉えると、そのまま爆砕。
そして根元部分が豪快にバックリと抉られた高い塔が、どうなるのかというと……。
「全員、退避ーっ! すぐに遠くへ逃げろ! なんとしても生き残れっ!」
塔一帯を封鎖していた駐留軍の隊長の絶叫にも似た決死の叫び。
何もかも放り出し、身一つで逃げ惑う人々。
現場大混乱にて、粉塵の中から聞こえるは阿鼻叫喚。
木こりさんが木を切るぜぃ、ヘイヘイほーとばかりに、ゆっくりと傾いでいく試練の塔。
わたしはあまりの惨状にしばし呆気にとられる。
だって、しょうがないじゃない。
千階もちまちま登って攻略とか、やってられっか! なによりわたしはレベル上げとかが必要なロールプレイングゲームとか、あんまり好きじゃないんだよ。裏技があったら迷わず行使するタイプだ。たまにゲームセンターに行ってもプレイするのは、もっぱら片隅の暗がりに置かれてある脱衣麻雀とか脱衣花札とかだけだ。いっしょにいった友人に「あんたはおっさんか」とか言われちゃたりもしたけど、巨乳をブルンブルンさせて戦う格闘ゲームの方がよっぽどエロいとおもうんですけどね。
「リンネさま、逆ギレしているところ恐縮ですが、少々、マズいことに塔が倒れていく方角がちょうどベリドートの主都の真上にて。このままだと確実にぺしゃんこですね」
「なっ! それを早く言ってよね。富士丸くん、必殺! 前蹴り」
説明しよう。
前蹴りは前蹴りだ。地味だけどたぶん最強。足の膝の関節とか狙うと皿がパリンと砕ける。
そして富士丸の蹴りだと、ほぼ高確率にてだいたいの目標が砕ける。
急遽、わたしの命令により、ドゴンと放たれる追加の激重な蹴り。
塔が倒れる方角をそらすようにして加えられた一撃によって、しなる巨塔。降り注ぐ石くれの雨。逃げ惑う人々が「ワー、キャー、ぎゃあ」とにぎやか。
でもおかげでどうにか主都壊滅の危機は脱する。
こうしてわたしの迅速かつ的確な指示によって、ベリドートの主都と多くの人命が救われたのであった。
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
630
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる