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065 人喰いの塔
しおりを挟むそれは何の前触れもなく、突如として姿をあらわしたという。
ベリドートの国中から見えるほどの、高さを誇る天空の塔。
あまりの高さゆえに、途中から雲に隠れてしまい頂上付近を地表から確認することは不可能。
だが何階建てかは判明している。
一階部分の唯一外部と通じている入り口付近にある石碑に、こう刻まれてあったから。
『ここは試練の塔。挑戦する者たちの勇気を試し、武を示す者には数多の富をもたらす場所なり。我はタワーマスター、最上階である千の地にて汝の訪れを待つ』
なんとも胡散臭い煽り文句。
それに千階って、いくらなんでもタワーマンションが過ぎるだろう。
だからしばらくはみな、遠巻きに眺めるばかりであった。
そのうち好奇心に負けた一人の男が、「ちょっとだけ」と塔の内部に足を踏み入れる。
本当にちょっとだけのつもりだったので、装備は必要最低限で日帰り予定。
そして予定通りに彼は帰ってきた。ただし袋一杯の宝物を担いで。
一人での探索だったし、内部は見た目よりも広く、階ごとに迷路だったり森だったりと空間がおかしなことになっているし、モンスターもウロウロ。
それでも十五階ばかし登っただけで、この収穫。
ウワサはまたたく間に国中へと広まった。
塔の内部がお宝の山だとわかったとたんに群がる人々。
すっかり欲に目がくらんで、競うようにして塔へと足を踏み入れての探索ざんまい。
実際、ホクホク顔で戻る者多数につき、それらが持ち帰る宝物によって経済も潤うから、国側としてもしばらくは静観の構えをとる。
が、その様子がおかしくなってきたのは、探索者たちが百の階へと到達したあたりから。
そのまま行方不明となる者が続出しはじめたのである。
塔は上の階に登るほどに危険度が増すものの、その分だけ旨味も増す。
このへんのバランス調整が絶妙にて、ついつい「もう少しだけ」「あとちょっとだけ」という気にさせられる。
ならば百階以下だけに留めておけばいいものの、それが出来ないのが欲望というもの。
やめられない、とまらない。
その結果、行方不明者というか、たぶん死んでる人がずんずん増える。
いつしか試練の塔は、別名「人喰いの塔」と呼ばれるようになっていた。
十人中六人が戻らないとかいう事態が頻発すれば、さすがに国としても看過できない。
そこで王は、軍を派遣し塔の入り口を一時的に封鎖。
兵士による正規の調査隊を発足し、これに塔内部の探索を命じるが……。
「そして誰もいなくなった、と?」
「そうなのよ、リンネちゃん。第一次、第二次と調査隊が相次いで行方不明になっちゃって。次あたりにウチの子の一人が巻き込まれそうなの。もう心配で心配で」
人当たりのいい美魔女ミランダ。その高すぎるコミュニケーション能力によって、わたしは速攻で攻略された。いまではルーシーともに「ちゃん」づけである。
「なるほど、事情はわかりました。ですがベリドートにも勇者がいたはずですが、そちらの投入は検討されなかったのですか?」
「あー、うちの勇者さまってば二人だけだし、あんまり荒事に向いてないのよねえ。それにいくらチカラがあるからって、まだ子どもをそんな危険なところに向かわせるのも、どうかと思うし」
ルーシーの質問には、そう答えたミランダさん。
ベリドート、良識的な判断をするいい国だった。
めっちゃまともだよ! ライト王子のところが信頼するのもわかる気がする。
もっともその代わりにわたしに突撃しろというのは、いささか解せぬが。
「それはわたしも心配したのよ。でもライトくんが『アイツを殺れるやつがいたら、むしろ見てみたいぐらいだ』ってお手紙で太鼓判を押してくれているから」
こちらに伺う際にライト王子から持たされた親書にて、リスターナの女勇者について大絶賛してあったのだという。
ほほぅ、ついにツン王子がデレたか。
だが、それは少々困ったなぁ。だってわたしはサイボーグ戦士乙女なんだもの。気持ちはうれしいけれども、あなたの愛には答えられない。それがリンネの運命なのだから。
でもお手紙の内容は気になるので「そこんところ詳しく」とミランダさんにせがんだら、美魔女は目をついとそらし言葉を濁した。
どうやらわたしの勘違いだったようだ。
褒めていはいるんだけれども、きっといい褒め方じゃないな、これは。
まぁ、いいさ。まともな国に貸しを作っておくのは悪くない。リスターナと良好な関係を築いてくれたら御の字。それにカカオっぽいガガガガの実も大量に欲しいし。
「えっ? あんなのでいいの。でもアレってラホースのエサぐらいにしか使い道がないって聞いたけど。刻んで混ぜて与えると毛艶が良くなるとかなんとか。なんならキレイな大きな宝石とか用意できるわよ。それにきっと王さまからも褒美がでるだろうし」
こちらの希望を伝えたら、ミランダさんのこの反応。
しめしめ、ガガガガの実の有効利用はまだ実現されていないと。もしくは発見しても実用化にはいたっていないことが、これで判明。
おもわずニヤリとほくそ笑むわたしとルーシー。
この後に発生する莫大な富をおもえば、光るだけの石ころなんぞどうでもいいわ。
それに人工ダイヤぐらいなら、オービタル・ロードがその辺の小石を手に、「ふんぬ」と気合を入れたら、もの凄い握力にて圧力ギュッギュッでポコッって出来るから。その気になったら毎分三十個は余裕で製造できるね。だからいらない。
美魔女から事情をきいて、商談が成立したところで、わたしたちはさっそく例の塔へと向かうことにした。
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