わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

文字の大きさ
上 下
60 / 298

060 白雪のアルバ

しおりを挟む
 
 目を覚ました魔族の女の人が最初に発した言葉は「あれ? なんで服や下着が新しくなってるんだ」である。
 いくら三メートル近いとはいえ女性は女性だし、白目を向いて駄々洩れ状態にて放置はあまりにムゴすぎる。
 それによくよく見れば美白肌の美人さんだ。
 頭の一本角もスラリとしており、ユニコーンみたい。キリリと締まった切れ長な目元、アメジストの瞳もいい感じ。
 総じてカッコイイ鬼女といったところ。
 これだけ聞いたら「あれ? オレ、魔族でもぜんぜんイケるんだけど」とおもった、そこのアナタ! そう考えるのはいささか早計である。
 実際、わたしもちょっと思ったよ。だけれどもそれは即座にルーシーさんに否定された。
 そうは問屋がおろさないのが、ノットガルドという異世界。
 魔族っ子と夢のイチャコラとかありえない。
 だって魔族ってば卵生なんだもの。
 それもどこぞの大魔王的に口からグバッと出すタイプの。
 下世話な話、生殖器官とかモロモロが人間とはまるで別仕様。それはさっき自分の目で確認したからまちがいない。あれをどうにか出来る人間種族の男がいたら、そいつこそが真の勇者だ。

 えー、コホン。

 しょうしょう話が横道にそれてしまったので、ぐりんと軌道修正。
 それで先ほど助けた魔族の女性なのだけど。
 戦場の白雪とか男たちに言われていたところからすると、きっと戦士としても優秀なのだろう。「くっころ」の名台詞が似合うところからして、誇り高い女騎士とかだったら、恥ずかしさのあまりに、せっかく助けたというのにすぐさま己のノド笛をかっ切っちゃうかも。
 そこで急遽、ルーシータウンのみんなにお願いして彼女の採寸を行い、新たに衣装一式を仕立ててもらった。
 なおメイド服はロングスカートタイプだ。そしてガーターベルトは標準装備。下着はもちろん白一択のみ。

 目覚めるなり居ずまいを正した鬼メイド。
 きちんと背筋を伸ばした正座にて、「自分は第四氏族ダイアスポアのアルバ、すこし前までは魔王軍東方面第六部隊師団長を任されていた者だ」との自己紹介の後に、深々と頭を下げる。
 この所作や口調からもわかるとおり、彼女は生粋の武人。
 それがまたぞろ、どうしてメイドの格好なんかをしていたのかというと、追尾の者の目をくらますための変装であったという。
 表情を見るかぎり当人はいたってマジメに答えている。
 これを受けてわたしとルーシーは声を落としてヒソヒソ。

「マジか? あれじゃあ、かえって悪目立ちするだろう」
「リンネさま、どうやら彼女、少し残念な方のようです」
「どうしよう……。わたしが欲しいのは『できるメイド』であって『ドジっ子メイド』じゃないぞ」
「毎日お皿を何枚も割られてはたまりません。ここはリリースで」

 主従の意見はすみやかに合致。
 さっそく大自然に放出しようとした矢先に、アルバに機先を制せられる。

「御身に救われたこの命、もはや魔王軍の白雪は死にました。これからはただのアルバとしてリンネさまにお仕えします」

 お仕えしたいとか、お仕えさせて下さい、ではなくて、きっぱりはっきり断定。
 こちらの都合はまるっと無視の力業。
 なんという踏み込みの思い切りのよさ。絶妙のタイミングにて突きつけられた意志の刃に、こちらはつい反射的にコックリと頷いてしまった。
 こうしてリンネ軍団に鬼メイドという新たな仲間が加わった。
 そして身内となった以上は、当人の事情を知っておく必要があるわけで……。

 魔族には十二の氏族がいて各々に特徴がある。
 第四氏族ダイアスポアは武を重んじる一族。
 だから先の魔王とはいささか相性が悪かった。なにせ彼は情け容赦のない男にて、敵は赤子にいたるまで皆殺しが信条。嬉々として踏みつぶすような残虐な性質にて。あと男尊女卑も甚だしく、ついでに体臭もキツイとあっては魔族の女性層からの支持率はほぼゼロ。
 対するアルバは質実剛健を地で突っ走る性格。
 戦場ではその苛烈な槍働きと白い艶姿から「白雪」の異名をつけられるほどの猛者。
 武人ゆえに戦う術を持たぬ者を手にかける真似なんて決してしない。ましてや逃げ惑う女子供を襲うなど、とても承認できない。
 だから部下にも、その辺のことは終始徹底させていた。
 しかしこれを慕う者も多いが、これを厭う者もまた多い。
 不満が水面下にてチクチク溜まっていたところにきて、少し前に魔王が城や都ごと一夜にして消滅するという怪事件が勃発。
 当然ながら、この事態に魔王軍は混乱した。
 それでも各方面にて前線を維持し続けられたのは、指揮官たちの力量に頼るところが大きい。
 が、このようにマジメに頑張っている連中がいる裏では、密かに動き出している面々もいた。
 次期魔王の座を狙う者たちである。
 そんな者たちの目に白雪のアルバはどう映るか?
 優秀な将なので手駒として自陣に引き入れたい。
 優秀な将であるがゆえに敵に回すとやっかい。
 優秀な将だが、いささか融通が利かない。
 これらを踏まえて、ある一派が彼女をあえて切り捨て人身御供とすることで、その旗下の勢力を丸ごと取り込むことを画策。個よりも数を選んだという次第。
 適当な罪状をでっちあげての濡れ衣を着せ、地位を剥奪。開いたポストには即座に自分の息のかかった者を置いて、アルバから得物をとりあげ、毒を盛り無力化。
 囚われの身となり悲惨な末路を待つばかりであったところを、どうにか逃げ出したものの、先の襲撃の一件へと繋がる。

 尽くした組織に裏切られ、信じていた同僚や部下たちにも裏切られ、女というだけでこれまでのすべてを否定されたアルバ。
 なんか、もう、やってらんねえ。
 魔族? 戦争? 知ったこっちゃねえや。
 とヤケになってもしようがあるまい。
 自分の事情を語り終えたアルバは、実にさばさばした調子にて「これからは鬼メイド道を極める」とまで言い切った。
 この女武芸者、いささか思い切りが良すぎる……。


しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

処理中です...