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059 名台詞
しおりを挟む魔族領の端っこあたりに到着。
そこからは徒歩にてルーシーのみを連れてテクテク歩く。
わたしは学習した。
ノットガルド名物の野盗どもをおびき寄せるには、これが一番効果的。
釣りは生き餌にかぎる。なにせ喰いつきがちがうもの。それにルアーは扱いにはコツがいるから腕の良し悪しがモロにでるからな。
せっかくの出張だし、情報収集ついでにお土産も拝借してしまおう。
そんなことを目論んでいたら、さっそくヒィーット!
と思いきや、姿をみせたのはメイド姿の女人を追いかけ回す男たちの姿。
全員、頭に角が生えてるから魔族みたいだけど、美白肌のメイドさんってば背中を斬られたのか、青い血がポタポタ流れており、息も絶えだえなご様子にて、とっても苦しそう。
「おらおら、どうした、もう、鬼ごっこはおわりか? アルバさんよぉ」
「戦場の白雪さまも、武器を奪われ毒を盛られちまったら形無しだな」
「ひゃはははっ、これまでさんざんえらそうにコキつかわれたぶん、たっぷりとかわいがってやるぜえ」
「オレはまえから、お前をずっと狙ってたんだ。もうガマンの限界だぁ」
「おいおい、順番はクジで決めるって話だろうが。抜け駆けはゆるさねえぞ」
「このゲスどもが。くっ、殺せ」
飢えた五匹の野獣が女一人に群がるの図。
ただし全員魔族なんで体がデカい。なにせ三メートル近くもあるムキムキにて、まるでオークどもの寸劇を見せられているかのようだ。ちょいちょい動作がダイナミック過ぎて、見物客としてはどうにも気持ちが入り込めない。
そしていつものわたしであれば、速攻で救出に走ったのであろう場面なのに、それを躊躇させたのは襲われている当のメイドさん。
ぶっちゃけ格好が似合ってない。体のサイズがうんぬんではない。
極端な例えをすると、「働いたら負けでしょう」とか「親のスネ、超ウマ―」とかほざけるうらやましい身分の若者に、一流ブランドのビジネススーツを着せたときのような違和感。
いわゆる衣負けというやつ。
メイド服が真から似合うのは、それにふさわしい技量を供え職務に従事し、なおかつ誇りを胸に抱く者のみ。
女マッチョが着るなとは言わない。そんなメイドさんがいたってかまわないさ。
でも、これはちがうんじゃないかなぁ……。
なんていうかコスプレ以前にて、いまどきおおきなお友達向けの女優さんたちだって、もう少しきちんと着こなしているよ。というぐらいにイマイチ。
ひと目みるなりごっそりとヤル気を削ぐ姿。
それを少し離れたところで目撃したわたしはおもわず言った。
「リアル『くっころ』、はじめて見たよ」
「くっころ?」
青い目のお人形さんがコテンと首をかしげる。
「ありゃ? ルーシーが知らないことなんてめずらしいね。いいよ、お姉さんが教えてあげちゃおう。『くっころ』とは『くっ、殺せ』の略だよ。ファンタジーでは一度は聞いてみたい台詞の代表格だよ」
「……はぁ」
ちょっと得意げに教えたら、ものすごく気のないお返事。
ルーシーによると、いくら世界のデータベースであるアカシックレコードでも、あんまりしょうもないことまでは載ってないそうな。
正論すぎて何も言えやしないよ。
と、そんな会話をしていた娘とお人形さんを、魔族の男どもがついに発見。
「なんだぁ、こんなところに人間の女が紛れ込んでやがるぜ。まぁ、いいさ。順番を待ってるあいだ、オレはこのぺちゃぱ」
頭に三本の黒い角を生やしていた男の生命活動はそこで終了した。
わたしが神業のごとき早撃ちにて、左人差し指マグナムを放ったから。
ヤツは言ってはならぬ禁忌の言葉を口にした。だから頭を吹っ飛ばされてもしようがない。
ちなみにどのくらいの神業っぷりかというと、コンマどころかナノ秒単位の神速の世界。いまのわたしならばきっとあの伝説の男たちにも、早撃ちタイマン勝負で勝てるにちがいない。
そして友の罪は己の罪、もう、ついでだからと連座によって残り四名の脳天もぶっ飛ばした。
いきなりあらわれて、瞬く間に屈強な魔族の男どもを倒してしまった人間の女を前にして、メイドもどきは「あなたはいったい」とつぶやくも、ついに限界を迎えたのか、そこで意識を失ってしまった。
背中の傷がおもいのほかに深く、青い血がダラダラ。
さすがにこのままだとマズいと考えたわたしは、ルーシーに手当を命じる。
すると青い目のお人形さんは、亜空間より土色をしたナゾの液体の入ったビンをとり出した。表面にぷつぷつ不気味な泡が浮いている。
「それはドロ水? なんだか乾いた木の根みたいな異臭がぷんぷんしてるんだけど」
「失敬な! これは『だいたいよくなるポーション』です。グランディアたちとの共同開発で誕生した栄養ドリンクの副産物。味とニオイは最悪ですが、ケガや病気はだいたい治ります」
「その『だいたい』じゃない部分が、すっごく気になるんだけど」
「残念ながら現時点では、水虫とハゲは治りません。あれは手強い」
科学と魔導の英知が結集したルーシー研究所の面々をして、手強いと言わしめるとは、なんておそろしい。世の中の大人たちは、そんなモノと日夜戦いをくり広げていたのか。
よかった、わたし、健康スキルがあって。
「ほら、リンネさま。さっさと飲ませちゃうんで、暴れないように両肩をしっかり押さえてください」
飲んだら暴れるんだ。
そして暴れるぐらいにマズいんだ。
なんだか体の傷は治っても、心に深い傷を負いそうな気がする。
とりあえず「南無南無ご愁傷さま」と手を合わせてから、ガッチリ肩を地面に押し付けてホールド。
こう見えてレベルがとんでもないから、チカラもそこそことんでもないんだよね、わたしってば。
おかげでアルバとかいう魔族の女は逃げられない。
ルーシーに無理矢理、ビンを口の中に突っ込まれたとたんに、想像していた以上に暴れたけど、じきに気を失って静かになった。
だいたいよくなるポーションの効果はすごい。
傷口がしゅわしゅわ泡を吹いて、瞬く間に閉じていく。すぐに血もとまった。
だけれども、かわりに下半身が駄々洩れに……。
どれだけマズいんだよ。
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