わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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048 交流戦、決着!

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 五分ほど経って、ぼちぼちみんなの視力が回復。
 そこで観客たちが目にしたのは、舞台上にて手首を抑えながらうずくまって、苦しんでいる光の勇者アキラと、それをぼへぇと眺めているわたしの立ち姿。

「なにが起こったの」「あの光はいったい」「まるで太陽が落ちてきたようだ」「どうなってる?」「おい、ギャバナの勇者が倒れてるぞ」

 ザワつく客席。
 それを横目に、ようやくアキラにも視界が戻ってきたよう。
 一番間近で接したがゆえに、回復も一番最後。

「あれ? ない、ないぞ! ボクの剣がっ! どこへ消えたんだ。わが手に戻れ、光の剣よ」

 あわてて叫ぶアキラくん。
 しかしその声に剣が応じることはない。
 いや、実際のところ、そんな自動返却サービスが実装されているのかは不明。
 よしんばあったところで、亜空間という別の次元へと旅立たれた彼の剣に帰宅は困難。
 いまごろは多元群体化したルーシーの分体たちの手によって、研究所へと運ばれ、よってたかってマッド科学な餌食にあっていることであろう。南無南無。
 もちろん、わたしたちは下手くそな口笛をピューピュー吹きつつ、素知らぬふり。
 そして光の剣を失ったアキラはガクッと弱体化。
 光の勇者が、ただの勇者に降格。
 それでも弱くはないよ。羨望スキルによって、みんなの声援をチカラに変えているわけだから、充分に強い部類に入るとおもう。今後ともまじめに勇者業に勤しみ、人民からの尊敬を一身に集め続ければ、いつかはかつての輝きを取り戻すことであろう。
 が、勝負は勝負。公衆の面前にて決着をつけねばなるまい。
 なので、心を鬼にしてつま先にて蹴り上げるトゥーキックを、その甘いマスクにお見舞いしようとしたら、そこで待ったがかかった。

「やめて! 彼はもう戦えないわ。ワタクシのアキラをこれ以上、傷つけないで!」

 髪の色とおそろいの真っ赤なドレスを着た、メローナ姫がここで乱入。
 まるで映画のワンシーンのような見事な駆けっぷり。
 あんた、ぜったいに練習しただろう? あんな動きづらそうな格好なのに、一発本番で出来るわけがない。
 駆け寄るなり、うずくまって苦しんでいる勇者を庇うかのようにして、こっちに涙目を向けてくる。
 たちまち完成する、想い人を悪代官から身をていして守る可憐な娘さんの図。
 まるで舞台演出のごとき、ばっちりなタイミングと立ち位置。
 正直、してヤラれたとおもったね。
 だってさ。会場中が、この一事でもって同情論にすっかり回れ右の雰囲気なんだもの。
 なんて女だ。自分の悪辣さを棚にあげて、とんでもない力技にて、ムリヤリいい話っぽくまとめやがった。
 このカップル、めちゃくちゃ性質が悪い。関わるほどにこっちがドンドン損するタイプだ。とんだ疫病神だよ。

 ……さて、ではここでちょいと考えねばなるまい。
 もしも、わたしが姫の懇願をムシして、アキラの顔面をトゥーキック。
 リスターナの評判ガタ落ち必至。
 もしも、わたしが「邪魔じゃ、ボケぇ」と姫をトゥーキック。
 やっぱりリスターナの評判ガタ落ちが必至。
 もしも、メローナとアキラの二人を仲良くトゥーキック。
 きっとリスターナの悪名が末代までの語り草に。
 ぐぬぬ、結論として、こちらは矛をおさめるしかない。
 試合に勝って、勝負に負けた。
 ような気がしなくもない。
 いちおう交流戦はわたしたちの優勝となったけれども、観客の記憶にはばっちり姫と勇者の恋物語が刻まれることに。
 なんか納得いかねぇっ!

 なお優勝の褒美として「望みはあるか」ときかれたから「できるメイドちょうだい」って言ったら、王さまに「ダメだ。うちでは法律にて人身売買を固く禁じている」と真顔で答えられた。その真意は「優秀な人材を手放す気はない」とのこと。
 しかたがないのでリザードマンっぽい種族アマケレルたちが作る、絶品の乾物を褒美に所望。
 その日のうちに宿舎に大きな箱で十もの乾物が届けられた。
 荷を届けてくれたのはライト王子の代理人のマコトくん。

「なぁ、光の剣なんてパクってどうする気なんだよ? 仮にもギフトだから他の奴だと使えないだろうに」

 受け渡しの際にマコトくん、つつつとこちらに近寄って来て、こっそり耳打ち。
 そうそう、いまさらだけどギフトってば、一度定着しちゃうと当人限定なんだよね。
 つまり「略奪ギフトで、お前のギフトを貰った」とかのインチキプレイは不可。スキルも同様。イカレポンチな女神さまも、さすがに最低限のセーフティーは設けてくれたようだ。

「あー、とりあえずいまは解析に回してる。ねえ、ルーシー、その辺どんな感じになってるの?」
「いい感じです」
「だそうなんで。やっぱり返却したほうがいいのかな?」

 わたしがたずねるとマコトは肩をすくめて首をふる。

「いや、それはべつにかまわないって王子が言ってた。バカによく切れる刃物を持たせておくほうが、よっぽど面倒だからって」
「ふーん、ところであの二人ってば今後どうなるの」
「とりあえずは様子見かなぁ。なにせ証拠がないからねえ。よしんば消えたヤツに関与していたとしても、これまでの手柄とせいぜい相殺だろうし。まっ、あの分だと今後とも適当に飼い殺しだろうよ。あのバカップル、外面だけはいいからな」
「うちとしては、こっちに火の粉が及ばなければべつに何でもいいわ」

 ざまぁ展開はナシ。
 ちょいとスッキリはしないけれども、なんでもかんでも都合よくはいかないもの。
 まぁ、オモチャは取り上げたから、前ほどヤンチャは出来ないだろうし、ギャバナ国としても手駒を減らしてまで正義を行使したところで、よろこぶのは他国ばかりなり。
 このへんが落としどころなのだろう。
 さて、明日は帰国。
 お土産もたくさん手に入ったし、交渉の成果も申し分なし。最後のバトル要素は余計だったけれども、とりあえず良しとする。
 こんな感じでリリアちゃん率いるリスターナ使節団のお詫び行脚第二弾は幕を閉じたのであった。


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