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047 イミテーションと最凶
しおりを挟むラストバトルで一対一。
いかにも観客受けしそうな熱い展開にて、会場内はおおいに盛り上がる。
これで三対一で袋にしたら、きっとブーイングの嵐だろう。
そういうことも見越しての勇者アキラの言動。
なんとも姑息な男だ。だけれども人心のくすぐり方を心得ていやがる。恋愛商法とかの営業をしたら、高い宝石とかバンバン売れそうだな。
光の剣を手に勇ましい姿はたいそう大衆受けするらしく、客席からはアキラさまコールにて、けっこうな黄色い声援。
さすがに空気を読んだのか、ルーシーたちが、倒れて白目をむきピクリとも動かないギャバナ側の二人の勇者たちの足首をつかんで、ズルズルとステージの外へ。
やや扱いが乱雑なのは、この展開に腹を立てているせいかも。
お人形さんたちは他にもなにやら人体を用いて実験したいことがあったようだ。
こうして舞台の上にはアキラとリンネの二人っきり。
きちんと訓練も積んでいるのか、剣を構える姿がさまになってる光の勇者さま。
そういえば先のリスターナとの戦場でも華々しい活躍をしたというし、殺ることはやってるんだよなぁ。
しかも影に隠れてこそこそしていたカズヒコとはちがい、堂々と矢面に立ちつづけていたわけだし、これは舐めると危険か。
「リンネくんは武器をかまえないのかい?」
対戦相手を気遣うとは、なんともジェントルマンなアキラくん。
これには拳を突き出し、「わたしの戦闘スタイルはコレだから」とだけ答えておく。
たぶん格闘系とかと勘違いしたのだろうけれども、それはこっちの知ったこっちゃない。
で、いきなり視界の中から消えたアキラ。
文字通りヒュンって消えたよ。
そして首の裏にチリリと感じたのは殺気。
ひょいと前かがみになったのと同時に、ブンと振り抜かれた光の剣が頭上を豪快に通過。
あれ? この交流試合では露骨な殺傷行為は禁じられているはずなのに、殺す気まんまんの一撃だったよね。
一刀のもとに首を刎ねる気ありありだったよね?
なのに彼ってば「さすがだ、救国の女勇者。よくぞこの一撃をかわした」とかふざけた言葉は吐きやがる。
抗議の意味を込めて審判をにらんだら、ついと目を逸らしやがった。
どうやら買収済みか、メローナ姫から何か言い含められたな。
ちょっとイラっときたけど、まぁ、許してあげる。宮勤めは辛いものね。ただしあとでライト王子には告げ口をするから。三ヶ月の減俸ぐらいは覚悟しろ。
アキラの姿が消えた直後に、光の軌道が走り、ふるわれるは戦慄の瞬撃の刃。
なるほど、光の剣は攻撃力に加えて移動速度も光のごとくあるようだ。
ピカと光ったら即攻撃。
うっかりまばたきして見逃したら、すぐに首ちょんぱ。
そのくせ見つめていたら、やたらとピカピカしているからまぶしくってしょうがない。
もっとも動きが直線的なので、落ち着いて発動時さえ見誤らなければ、それほど対処はむずかしくないかも。
神鋼精神による明鏡止水の境地にあるわたしは慌てない。だから彼の剣の軌道がよくわかる。
レベル補正もかなり効いているのだろう。そういえばいまのわたしって、レベルいくつなんだろう。ルーシーにきいても適当にはぐらかされるんだよねえ。口にするのもマズい数字なのだろうか。
まぁ、そのおかげでひょいひょいかわしているよ。光速っぽい必殺剣を。
が、それはそれとして、しょうしょう解せぬことがある。
光の剣は確かに強力な武器だ。彼自身もそこそこの鍛錬は積んでいる。
でもオービタルの体術とかに比べると、「フッ」と鼻で笑える程度。本物の武の神髄と接したわたしの目にはお遊戯にしか映らない。
そんなそこそこのレベルで、そもそも光の剣とは満足に扱えるような安い代物なのだろうか?
なんだか素人が手にしても、振り回される姿しか想像できないのだけれども。
そこんところどうなの。
よし、直接、当人にたずねてみよう。
「その光の剣ってギフト? それともスキル?」
「これかい、これは神さまからじきじきに手渡されたギフトさ。そしてボクのスキルは『羨望』だよ」
「?」
「ははは、ちょっとムズかしかったかな。つまりはみんなの憧れが集まれば集まるほどに、ボクは強くなるのさ。みんなの想いがボクのチカラになる。これこそ英雄の中の英雄、勇者の中の勇者にふさわしいとおもわないかい」
ベラベラと得意気に教えてれたよ、アキラくん。
つまり大歓声に包まれているこの状況下は、彼にとっては絶対的に有利ということ。
だからこそのこの余裕、そして自分のことを詳しく話したということは、はなからこちらの首を取るつもり。
おおかたメローナ姫ちゃんのリクエストかな。
いろいろ腹が立ってるし、子飼いの勇者を亡き者にして、ライバルの無力化をはかろうとか、そんなことを考えているのかも。
愛しの姫君からねだられたら、年頃の男子たるもの、そりゃあ刃に殺気もビンビンこもるというもの。
疑問が解けて、すっきりしたけれども、さて、困った。
アキラくんってば、ヒュンヒュン光速移動にて、ちょっと照準があわせづらい。
それに殺しちゃダメってのがめんどうくさい。わざと急所を外すのってムズかしい。
そこでわたしは考えました。
片足立ちにてトントン、軽くジャンプ。
プールあがりによくやるアレね。
すると右の耳穴からころりと出てきたのは小さな玉。けっして耳アカじゃないよ。乙女の名誉にかけて、そこんところは念を押しておくから。
で、こいつをポイっとステージの中央に投げる。
何だ? と調子にのってるアキラくんも注目。
石畳に接地と同時に発生したのは、超絶まばゆい閃光。
これって照明弾なのよ。ただし光度がかなりお高め。まともに直視するとちょっと目がヤバイレベル。
それをまともに見てしまった光の勇者アキラ、「目がっ、ボクの目がっ」と視力が粉砕。
安心しろ、たぶん、じきのもとに戻るはずだから。
いかに優れた武器を持ち、脅威の身体能力を誇ろうとも、急に視界を断たれてはそうそう思うようには行動できまい。
暗闇の中でも戦えるようになんていう、イカレた修行をしたイカれた大剣豪とかならばともかく、まぁ、ふつうはムリだよね。
観客らの多くも巻き添えを喰って、そこかしこからうめき声が聞こえているけれども、それは丸っとムシして、アキラにシュタっと近づくなり、前腕式警棒にて剣を持つ腕を殴打。
鈍い音を立て、ポキリと折れたひょうしに光の剣がカランと床に落ちる。
これをすかさずインサイドキックで蹴飛ばして、ルーシーがいる方へと滑らせる。
シャーッと向かってきた光の剣を、そのまま亜空間にストンと収納するビスクドール。
主従の阿吽の連携。
「グッジョブ相棒」と、わたしが親指をビシッと立てれば、ルーシーもビシッと立て返す。
テッテレー! ノラ勇者リンネは光の剣をまんまと手に入れた。
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