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046 アサシンドール

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 勇者の交流戦という名の品評会。
 各国のえらい人たちの視線がわりと厳しい。めちゃくちゃ情報収集する気まんまん。
 ノットガルドは厳しい世界。だからこそ、立場のある大人たちはみんな真剣だ。物見遊山で他国にきている阿呆なんて一人もいやしない。
 盛り上がっている会場とは裏腹に、げんなりしているわたしたち。
 だって、こちとら立場なんてないもの。まだまだ観光だってしたかったのに。
 名前を呼ばれたので、石舞台へとおっちら向かうリスターナの代表。
 交流戦は三対三の団体戦。
 個人戦をやっちゃうと性能がモロばれしちゃう。それは各国ともに都合が悪い。そこでお茶を濁すための集団戦闘。ごちゃごちゃ入り乱れていれば、ある程度は誤魔化せるし、勝っても負けても言い訳が立つ。それに実際の戦闘もだいたいこんな感じだしね。
 しかしリスターナには客分のわたししか勇者がいない。
 そこでルーシー、他一名の参加を認めてもらうことに。
 ちなみにこちらが選んだ最後のメンバーは……。

「わたしの火炎で燃え尽きるがいい!」
「わたしの冷気で魂まで凍えてふるえろ!」
「わたしの雷撃であなたをシビれさせてあげるわ!」

 一回戦の対戦相手は、なんとも勇ましい魔女っ子三人組だった。
 いいよね、ファンタジー世界で魔法が使えて。こちとら全身武器化のせいで、魔法の類はろくすっぽ使えやしねえってのに。
 黒いローブ姿の女の子たちが杖を片手に、うにゃうにゃ詠唱を始める。
 えーと……、すんごい隙だらけ。
 待っていてあげてもよかったのだけれども、ダルいのでやめた。
 わたしが右手をあげて合図を送るなり、彼女たちの眼前に振り下ろされるのは、亜空間からにょっきりと伸びた富士丸くんの剛腕。
 参加させるのはオービタルかセレニティでもよかったんだけど、いちおうは勇者の交流戦ということを踏まえて、ここは自前を選択。
 星砕きの拳を当てたら即死しちゃうので、ちゃんと当てないように手前を軽く小突くようにと事前に指示してある。
 それでも石のステージが粉砕しちゃった。
 円形の闘技場も震度五ぐらいの揺れに見舞われ、柱や壁にヒビが走り、客席からも悲鳴があがる。
 建物中にしっかり安全対策の結界が施してあるからと聞いていたのに、見かけ倒しにてぞんがい脆いぞ。これは耐震偽装の疑いアリ。
 そして魔女っ子たちはパンツ丸出しでそろって目を回し、一回戦は終了。
 なお三回勝ったら優勝で、ギャバナの王さまからご褒美が貰えるとのこと。
 壊れたステージは係員の土の魔法とかですぐに復旧。
 でも二回戦の対戦相手が棄権した。なんでも「まだ死にたくない」らしい。
 交流戦の手前、殺傷行為は禁じられているから心配しなくてもいいのに。

 決勝戦はお約束にて、光の勇者アキラ率いるチーム。
 彼らってばギャバナという大国に属しているわけだし、ここはそのお膝元。

「忖度すべきかな?」

 念のためにマコトくんを通じて事前にライト王子にお伺いを立てたら、「そんなものはいらん」ですって。この程度のお遊びで国の体面が保てなくなるほど、やわじゃないんだそうです。
 マコトくんは今回の交流戦は不参加。もともと隠密活動が得意なので、正面切ってのやりあいは苦手。霞化と隠形を活かし、背後からこっそりが彼の持ち味なんだとか。
 こちらとしても気をつかう接待試合をせずに済むのはありがたい。
 でも一つだけ困ったことがあった。

「えっ、次の試合で富士丸の使用を禁止、なんで?」
「すみません。なにぶん会場には各国の賓客が大勢いますので。どうかご遠慮下さい」

 審判団から深々と頭を下げられては、こちらとしても呑むしかあるまい。
 ただ、そうなるとうちに一人欠員がでる。
 かといってオービタルを入れたら、やっぱり闘技場が木っ端になるだろうし、セレニティを入れたら、フェロモンで道を踏み外す輩が続出の果てに肉団子が量産されてしまう。
 グランディアたちは争いごと自体を好まない。たまさぶろうくんは論外。
 さて、どうしましょう。



「キミは『光の勇者』たる、このボクをバカにしているのかい」

 決勝のステージに立つなり、こめかみをピクピクさせながらアキラが文句を言ってきた。
 べつにこちらとしてはバカにしているつもりは微塵もない。
 ただ女勇者の仲間が二体のお人形さんということが、彼のプライドをいたく傷つけたみたい。
 本体とその分体のダブル・ルーシー。
 いいじゃないか。
 ほら、一部のお客さんからは「かわいいー」「わたしも欲しい」「お母さんアレ買って」「お人形さんがんばれー」などという、あたたかな声援が聞こえてくる。ちゃんと需要があるのだよ。
 それにうちの青い瞳のお人形さんたちを、舐めてもらっちゃあ困る。
 そりゃあチカラや機動性、その他の規格外さは宇宙戦艦「たまさぶろう」や富士丸くんには及ばないものの、そのかわりに汎用性が半端ない。
 状況に応じて様々な武器を亜空間より召喚して戦う。その武器も日々急速に進化を遂げており、早やトンデモ性能に。
 もうマンガのレーザーガンやビームソードとか実用化一歩手前だぞ。
 それらを自在に駆使するアーミードールが弱いなんぞとあるものか。
 とくとその目に焼きつけるがよい。

「では、決勝戦、はじめ!」

 審判の合図でまず動き出したのはアキラの仲間たち。
 あんまり地味すぎて、ただの数合わせの引き立て役かと思っていたけれども、あれでも一応は勇者の端くれ、ギフトとスキルのダブル異能持ち。
 はたしてどんなチカラを見せてくれるのかとワクワクして見守っていたら、ステージの中程まで駆けてきたところで、パタンと倒れてそのまま動かなくなってしまう。
 あれ?
 何がどうなった?

「ワタシたちが後頭部にゴム弾をぶち込みました」

 しれっとルーシーズ。
 いやいやいや、あんたら一歩も動いてないじゃない。
 と、おもっていたらゴム弾が充填されたライフルを手にした腕を、無造作に亜空間に突っ込んだルーシーたち。
 とたんにステージ上にて転がる二人の勇者の真上から、銃口がにょっきりと出現。
 ダムダムと発射音が鳴り、気絶している勇者の肢体に追加攻撃。
 まさかの格闘ゲームではマナー違反の死体蹴り!
 ゲームセンターでやったら下手をしたらリアルファイトに発展するから、良い子は絶対にマネしちゃダメ! ゲームはルールとマナーを守って楽しもう。
 掟破りの亜空間殺法が炸裂して、早々に沈黙してしまった勇者二人。
 あまりの展開に会場中が静まりかえっている。
 そしてわたしも呆れている。
 いつのまにこんな器用な戦い方を覚えたんだ?

「リンネさま、夜は長いのですよ。不眠不休の身の上にて、エネルギーもガンガン。これで走り出さなければ、若い身空を持て余してしまいます」

 青い目のお人形さんってば、なにやらもっともらしいことを言ってるけど、これって事実上の防御不可にて、暗殺し放題なんじゃあ……。
 アーミードールが、いつの間にかアサシンドールにジョブチェンジ。
 だというのにアキラくんの心はまだまだ折れてない。
 しゃらりと鞘から抜き放たれたのは、まばゆい光を放つ勇者の剣。

「ふふふ、さすがだよ。決勝まで来るだけのことはある。さぁ、『ボク』と『キミ』と、どちらが真の勇者か、正々堂々と勝負を決しようではないか」

 ルーシードールズたちのことは、スパっとなかったことにして、いきなりそんなことを臆面もなく言い放つ光の勇者くん。
 この局面で、ずうずうしくも一対一で戦おうとか言い出しやがった。
 すごいぞ、なんて神経の図太さだ。伊達に「ボク勇者だもん」なる中二病を発症しているわけではないらしい。
 よかろう。そんな彼に敬意を表し、わたし自らが応じることにしよう。


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