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045 交流試合

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 大きく立派な石造りの円形闘技場。
 ムキムキの闘士たちの姿がよく似合う雰囲気のある場内。
 貴賓席にはギャバナ王室を始め、各国のお偉方が鎮座。
 客席はつめかけた観客らで賑わっており、彼らが夢中になって見つめているのは、中央に設置された石舞台の上で行われている白熱の超人バトル。
 火だの水だの氷だのと、色とりどりな魔法が乱舞。
 派手な動きにて、舞台上をところせましと動き回っては、剣戟の音が鳴り響く。
 戦っているのは異世界渡りの勇者たち。
 その戦いの様子を、舞台袖にある控え席からぼんやりと眺めている、わたしたち。

「まさかの武闘会編突入……、どうしてこうなった」
「どうもこうも、ぜんぶメローナ姫のせいじゃないですか」

 わたしのボヤキにすかさず膝の上のお人形さんが答えた。
 そう、すべての発端は昨夜のパーティー会場での出来事……。

 リスターナとギャバナ、両国間での戦後賠償の話し合いも無事に決着し、国交も回復。
 これを祝して、夜にはパーティーが催されることとなった。
 急な予定ながらも、王家主催ともなれば、現在、この国に滞在中の各国のお歴々も参加することとなる。それに付随するかのようにして各国の勇者の姿もちらほら。
 いまや勇者は国力を示すアクセサリーのようなもの。
 持ち歩くことで示威行為となるので、平時の際にはわりと外交の場に連れ歩かれているんだとか。
 そんな華やかな席での壇上にて、一発目から王さまが挨拶がてら国の命運を背負い一人乗り込んできた勇敢なるリスターナの姫君を褒め称えたものだから、さぁ、たいへん。
 とたんに会場中の空気がザワついた。
 先の戦での遺恨は水に流し、今後とも両国は友好な関係を模索していくだけでなく、さりげなくリスターナが大国ギャバナの後ろ盾を得たことをも意味していたから。
 これは破格の待遇。
 大国の王にそんな真似をさせた姫君とはいったい?
 これにトカード国との交渉締結などの手柄もあり、俄然、リリアちゃんへの注目度がアップ。いずれ大輪を咲かせるであろう可憐な容姿とも相まって、株がストップ高状態。
 おかげでリリアちゃんは各国のえらい人たちに囲まれて、たいへんそうではあったものの、存分に顔と名前が売れた。
 ギャバナが早々に折れて、手を握った以上は、他がゴネることもなくなるだろうから、今後のお詫び行脚にとっても、どれほどプラスになったことか。国の代表としては文句のつけようのない大戦果。

「すっかり立派になって。お姉ちゃん、うれしい」

 ウチの子の晴れ舞台を見守りながら、パーティー会場の片隅にて、ルーシーとともに静かに壁の花と化しているわたし。 
 すると、ちらりとこちらに視線を送ってきたのはライト王子。
 その目が「この貸しは高くつくぞ」と言っていた。
 しっかり請求書を寄越しやがった。やっぱり喰えない御仁だねえ。

 が、この状況をどうにも受け入れがたい人物が会場内に一人いた。
 赤髪の第二姫メローナ・ル・ギャバナ。
 ただでさえ注目を集めるリリアちゃん。ナマイキで面白くないと考えていたところに加えて、今夜の出来事。
 片や外交を舞台にして華やかな活躍、片や冷や飯食い状態。
 もはや埋めようのない差を見せつけられて、手にしていたグラスを怒りのあまり握り潰すほどの屈辱を味わう。
 嫉妬の炎がメラメラ状態につき、すっかりヒートアップしたメローナ。
 その怒りの矛先が向かったのはリリアちゃん。
 ではなくて、なぜだかわたしのところ。
 なにせリリアちゃんってば各国のえらい人たちに囲まれており、王子たちの目もあって迂闊には近寄れる状況になかったから。
 メローナ姫としても、せいぜい作り笑いにて挨拶をするのが関の山。さすがにそんな場面でやらかすほどバカではない。
 しかしどうにも腹の虫がおさまらない。そこで怒りのはけ口をキョロキョロと探した結果、バッチリわたしと目があった。

「そうだ! 主人がだめなら飼ってるペットをイジメちゃえ!」

 おそらくそんなしょうもないことを思いついたのだろう。
 嬉々としてルンルン。光の勇者アキラくんを侍らし、取り巻きをズラズラと従えて、わざわざ会場の隅っこにいるわたしのところにまでやってくるんだもの。

「ごきげんよう。リスターナの勇者さま」

 挨拶もそこそこに、世間話にかこつけてネチネチとイヤミを織り交ぜてくるお嬢さま。
 追従しては一緒になって嘲笑しつつ、こちらを貶めようとしてくる周囲のご機嫌とりたち。
 口々にいかにアキラが素晴らしい勇者であるかを褒め称え、地味にこちらをディスってくる。
 べつにこの程度の口撃を受けたとて、わたしの神鋼精神はビクともしない。
 それよりもちょっと気になったのが、アキラのこと。
 話だけ聞いてると、彼ってばこの国ではいちおう勇者の中の勇者みたいな扱いになっているみたい。ルックスも整っているし、光の剣ってのもかっこいいからね。いかにも勇者さま然とはしている。先の戦ではリスターナの勇者二人を倒しているのも大きいね。
 もっともそれは詳しいことを知らない世間一般だけのこと。
 トカード国の五人組はそろって「ヤバイ、気をつけたほうがいい」と言っていたし、ライト王子やマコトくんもまるで信用していない。それどころかかなり疑念を抱いているような素振りさえあった。
 なんでも現在、行方不明となっている十二人目の勇者の失踪に関与している疑いが濃厚なんだとか。
 おっかないねえ、湖の底とかに沈んでなければいいのだけれども。
 で、メローナ姫としては自慢の「ワタクシの勇者」をどうしてもひけらかしたいわけだ。
 けれども肝心のわたしは終始、「へー」だの「ほー」だのと気の抜けた対応。隣のルーシーに至っては途中でそれさえもヤメてしまったものだから、姫さま、ますますご機嫌ななめ。
 おかげで場の空気がどんどん濁って険悪に。
 これを見かねたのが、一人の小さなチョビヒゲのおっさん。
 見た目は人間っぽいけど肌の色が紫のシソの色。なんでもポストーンとかいう種族にて、小柄だけれども数字に強くて頭のいい人が多いんだとか。ちょいちょいあちこちの国の中枢にも出身者が採用されているそう。
 ナクラさんと名乗ったこの御仁は、現在ギャバナよりもずんと遠方にあるミロナイトという国に勤めてらっしゃるんだと。今夜のパーティーには外交官としての参加。
 そんな彼が場を盛りあげようと言った余計なひと言が、姫のハートに火をつけちゃう。

「いやあ、それにしてもこれだけの数の勇者たちが勢ぞろいとは壮観ですなぁ。みなさまどれほどお強いのか。こうなると誰が一番なのか、ちょっと気になるところですなぁ」

 良いラホースが揃っていれば、どれが一番足が速いのか競わせたくなるもの。
 ちなみにラホースってのはウマみたいなモンスターのことね。
 それを勇者になぞらえて、話題としただけのこの彼の発言に、メローナ姫がおもいのほかに喰いついた。
 あげくに「だったら戦わせてみればいいじゃない」と言い出す。その心は「どうせうちの光の勇者が勝つけどね。ふふふ」である。すごい自信だ。
 ふつうであれば、酒の席でのこんな戯言、実現はしない。
 が、そもそも対象となっているのが、ふつうではない存在である異世界渡りの勇者たち。
 だからこそみんな知りたかったのだ。
 自分のところで面倒をみている超人兵器の性能を。
 よそのところにいる超人兵器との能力差や相性を。
 今後、本格的に運用するにあたって、そのへんのことをきちんと把握して利用していかないと、それこそリスターナの二の舞になりかねない。
 そんな大人の事情やら各国の思惑やらがからまって、急遽、開催が決まってしまった勇者たちの交流戦。
 やれやれである。


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