43 / 298
043 星宙の王子さま
しおりを挟むハイエンドペンLGマイルドが頭から敵の旗艦へ、ドカンと突っ込む。
ルーシーの操縦には一切の躊躇がなかった。
でもわたしはめちゃくちゃこわかった。
ほら、自動車の安全テストで、壁に衝突するショッキング映像があるでしょう? 木偶人形が衝撃でぐわんぐわんしちゃったり、フロントガラスを突き破って車外に放りだされたりする、アレ。
ずんずん迫ってくる船の側壁。さらにグンと加速する機体。
突撃をかます瞬間、あの映像がありありと脳裏に浮かんだね。
平気だからとか、安全だからとか関係ないの! ジェットコースターとか乗ったら誰だってこわいでしょ! あれと同じなんだから。
当然のごとくわたしはルーシーに抗議した。「だろう運転ダメ。かもしれない運転を心がけて」
すると青いお人形さんはこう言ったよ。「わかりました、次からは気をつけます」
「次もあるのかよ!」とわたしは心の中でビシッとツッコんだ。
よっこらせと機体の外へと降りれば、すでに周囲は大きなフォークみたいな槍を手にした首長族にかこまれていた。
それらを睥睨し、わたしはつぶやく。
「これがウワサのドラゴロート族か。なんか目が死んだ魚みたい」
白目の部分と黒い部分がくっきりしたドングリ眼。
だからそう称したのだが、身体的特徴についてどうこう言うべきではなかったとすぐに反省した。だって、みなさんむちゃくちゃ怒ったんだもの。
どうやらわたしは知らないうちに彼らの地雷を踏んでしまったらしい。
「ダメですよリンネさま。それはマナー違反です。彼らは空バカなんですから、よりにもよって水の中でびちびちしているのと同じにしたら、そりゃあ怒られますよ」
ルーシーにやんわりたしなめられた。
いや、あんたもさりげにヒドイこと言ってない?
でもわたしのときとはちがって、お人形さんの言葉には大きな拍手がパチパチ、口笛ヒューヒュー。
どうやら「空バカ」は彼らにとっての誉め言葉に相当するらしい。
うーん、異種族間交流ってムズかしいね。
まぁ、同じ種族同士でもケンカしまくっているから、それも当たり前か。
それはそれとして、なんか憎めないものがあるよね、ドラゴロート族ってば。
バカにされたらぷりぷり怒る。ちょっと褒められたらヒューヒュー口笛を吹いてよろこぶ。感情の起伏が明瞭というか、竹をスコンと割ったみたいな気質というか。
これが空に生き、空に恋焦がれ、空に夢中になっている空バカども。
今回はその想いがちょいと暴走しちゃったみたいだけど、そもそも飛竜とかドラゴンの面倒をちゃんとみている時点で、中味はけっこうまともだと思うんだ。
よく犬好きに悪い人はいないとか、猫好きに悪い人はいないとか言っちゃうペット愛好家っているでしょう。でもあれは正しくは「きちんとイヌやネコのお世話ができる人に悪い人はいない」だとわたしは考えている。かわいがるだけならば誰にでもできるから。
そういった理屈では、ドラゴロート族は悪い人ではないわけで……ムムム。
「ルーシー予定変更。無力化するだけで殺傷はナシの方向で」
「了解です。各員にも通達。麻痺弾とスタンガンにて対応します」
キリリと真顔にて従者に命じるわたし。
さぁ、ここから派手なドンパチの始まりだ!
なーんてことはいたしません。
だってここは船内なんだもの。つまりほぼほぼ閉鎖空間にて、これってガス類には最高の舞台。
よってわたしは右手の小指をピンと立てる。とたんに指先から大量に噴出したのは、怒れる鬼も腹がよじれるぐらいにケラケラしちゃう笑気ガス。
すぐさま乙女を中心にして広がる笑いの輪。
いい感じで場が和んだところで、床に転がり笑い死なんばかりに悶絶している面々の長い首筋に、ポンポンと判子でも押すかのようにスタンガンっぽい武器を押し当てるルーシー。
以降はこれのくり返しにて、サクサクと艦内を制圧。
そしてついにラスボスである敵の大将スコロ・ル・カーボランダムがいる部屋へと到着。
いかにもな面構えの扉をまえにして、わたしは左手の人差し指マグナムをズドンと一発。
扉に穴を開けると、そこに右手の小指を突っ込み、シューッ。
「あれ、ラストバトルは? 勇者との対決は? クライマックスシーンは?」とルーシーに言われたけど、「パス」と答えた。
だってさ、このあとにもいろいろとやることいっぱいあるでしょ。
落ちた飛竜たちやその操者とかの捜索やら保護やら、あちこちに大量に転がるゼロ戦の残骸の回収、もちろんそのパイロットたちの身柄も確保しないといけない。それから制圧したこの艦を含めてカーボランダム軍の面倒もみなくちゃならない。
とっとと戦後処理をすませて、お引き取りをしてもらわないと、いくらリスターナが食糧豊富とはいえ、これだけ大飯喰らいのごくつぶしどもを抱えていたら、すぐに干上がってしまう。こちとら辺境の小国なんだよ。大国の戦争遊戯につき合ってる暇もお金もないの。
「だから戦いません」と言い切ってから扉をあけたら、泣き笑いしながら槍をブンブンふりまわしてる男と床で白目をむいている男がいた。
寝ている方が勇者だな。笑い転げるあまり気を失ってしまったらしい。この分だとあまり戦闘向きではなさそうだね。ゼロ戦を組み上げたことからして技術チートの類かな。
で、元気な方がスコロ王さま。「おのれーっ、ヒヒヒ」「くそー、オレたちの夢はこんなところで、あはははは」とがんばっている。でも動くほどにガスの回りがよくなるから、余計に苦しくなるんだよねえ。
ほらいわんこっちゃない。
見ている前で、ついに耐えかねて槍を放り出す王さま。
続けて口から泡をふいてバタンと倒れた。びくんびくんと痙攣。なにやら危険な状態にてじきに動きをとめ、ついにピクリともしなくなった。
試しに口元に手をやったら、息をしてないっ!
どうしようと、わたし大慌て。いざとなったら人工呼吸とか心臓マッサージなんてまるで思いつけやしない。
するとルーシーが「おまかせください」
お人形さんは王さまの上に馬乗りとなり、その胸元にてスタンガンっぽいモノをバッチバチ。
これにてスコロ王さま、奇跡のカムバック。
やれやれ、最後の最後でビビらせやがって。
おかげでこっちの心臓まで止まりそうになったよ。
さて、お空の上はとりあえずこれにてひと段落。あとは地上の方か。
6
お気に入りに追加
637
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる