43 / 298
043 星宙の王子さま
しおりを挟む高級レストランでの会食後に、ちょいとお時間をもらって河岸をかえることにした。
わたしが二次会の会場に用意したのは……。
「これが我々の住む大地なのか。なんと美しく壮大な景色なのだ。だというのに我々は醜い争いを続けている。のみならず魔王はこんなにもステキな世界を破壊し蹂躙しようとしているのか」
緑と青の惑星を眺めながら、感無量なライト王子さま。
胸元から取り出したハンカチで、さりげなく目元の雫を拭う姿が絵になる。
ここは宇宙戦艦「たまさぶろう」の中にある展望ラウンジ。
壁際にはおしゃれなバーカウンターも完備。奥の棚に並ぶのはつい先日、高級レストランからガメた酒ビンたち。あいにくとバーテンダーはいないから手酌だけどね。
他にもビリヤードっぽい台とか、ムーディーな音楽が流れるジュークボックスっぽいモノなどもあり、ゆったりとした大人の癒し空間を演出している。
大国の王子さまに、いざとなったらどれくらいヤバイのかを、ちょいと教えておこうとここへお招きした次第。
が、さすがにライト王子は肝が据わっている。
驚きは隠し切れないものの、つとめて冷静を装っている。やっぱり出来る男はちがうね。
それに比べて、さっきから興奮したマコトが一人うるさい。
「なんでビリヤードがあるんだよ! なんでこんなロマンチックな音楽が流れてるんだよ! あこがれのカップルシートまであるし! ってか、なんで宇宙船? オレ、宇宙にはじめてきちゃったよ。あー、もう、わけわかんねえ。リンネの異能ってなんなんだよ? チートが過ぎるにもほどがあるだろうが」
「ええい、ギャンギャンとやかましい。なんでって、うちのルーシーさんが再現したからだよ。あとわたしのギフトは『人形召喚』、スキルは『健康』だ。どうだ、おそれいったか」ただし全身武器化なのはサイボーグ乙女の秘密。
「はぁ? なんでソレがこんな状況になるんだよ。うちにも知識チートが一人いるけど、まるで別物じゃねえか。アイツなんてこのまえ自作マヨネーズで腹を下してたっていうのに」
異国の地にて生卵に手を出すとか、なんと無謀な……。
聞けばギャバナにも英知を手にした勇者さまがいるそうな。
ただしそれはあくまで元いた世界の知識チート。
そして知識はどこまでいっても知識でしかない。
それを再現するには技術がいる、カネがいる、膨大な労力や時間もいる。
モノに歴史あり。
極端な話、プラスのネジ一本を再現するにも高度な背景が存在するのである。
耐久性のあるネジを制作するには、その材料となる良質な鉄がいるし、その素材を集めるところからのスタート。となれば鉱山なり鉱脈も見つけないといけない。
よしんばある程度の条件が揃っていたところで、これを実用化に耐える段階にまで押し上げて加工してから、ようやくといった具合にて、とってもたいへん。
しかもしかも元の世界ベースの知識であるがゆえに、こちらのモノとはかなりの齟齬があり、その辺の詳細なすり合わせも行われる必要がある。
あっちのコショウが、こちらでは別の名前で呼ばれていたりするから、アレがコレでどれがそれでと、いちいち照会していかなくてはならない。似て非なるモノも多数につき、検証するだけで、どれほどの時間がかかることやら。
本気で取り組んだら、それこそ国中の学者や研究者たちが総出でやっても、きっと数世代にも渡る大事業になるであろう。
よって知識チートでウハウハは、基本的に幻想である。
ましてや経験値の低い学生レベルではどうにもならん。
その点、うちのルーシーさんは完璧。
それこそ詳細な図面とかも手に入るし、なにより二つの世界のアカシックレコードにアクセスできるので、照会もワンタッチ・クリック。
これに加えて多元群体化による人海戦術、グランディア・ロードをはじめとする優良種たちの協力もあって、二つの世界をまたにかけたハイグレードな、「っぽいモノ」シリーズが着々と開発され続けている今日この頃。
「っぽいモノシリーズって何だよ!」
説明しろと言うからしてやったら、マコトくんがいっそううるさくなった。
意外にツッコミがはげしいな。
「冷蔵庫っぽいモノとか、エアコンっぽいモノとか、盗撮用の小型カメラっぽいモノとか、通信機っぽいモノとか、ライフルっぽいモノとか、そんな感じだよ。単純に再現してもつまらないからって、こっちの技術も積極的に取り入れて改良開発をじゃんじゃんした成果だよ。あと魔王はとっくに死んでるから」
わたしの発言を受けて、急に静かになったマコトくん。
ラウンジにムーディーな音楽が流れ、窓の外には星屑のステージにて七つの月が謳う。
そしてライト王子とマコトの目が点になっているのを見て、わたしはようやく自分の失言に気がついた。
おでこをコツンとして、テヘペロってやってみたけど、誤魔化せなかった。
「「魔王が死んでる? どういうことだっ!」」
ものすごい剣幕の二人の殿方に詰め寄られて、イヤンと観念したわたし。
モロモロを白状する。なお詳しい説明はルーシーに丸投げ。
青い目をしたビスクドールの口から淡々と語られる、現在の世界を取り巻く危機的状況の数々。
その結果、男二人は仲良くカップルシートに座り、しばし頭を抱え込むことに。
ふむ、この分だと二次会は長引きそうだな。とりあえず一杯やるか。
6
お気に入りに追加
637
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~
月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。
大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう!
忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。
で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。
酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。
異世界にて、タケノコになっちゃった!
「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」
いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。
でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。
というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。
竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。
めざせ! 快適生活と世界征服?
竹林王に、私はなる!

冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる