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043 星宙の王子さま
しおりを挟む高級レストランでの会食後に、ちょいとお時間をもらって河岸をかえることにした。
わたしが二次会の会場に用意したのは……。
「これが我々の住む大地なのか。なんと美しく壮大な景色なのだ。だというのに我々は醜い争いを続けている。のみならず魔王はこんなにもステキな世界を破壊し蹂躙しようとしているのか」
緑と青の惑星を眺めながら、感無量なライト王子さま。
胸元から取り出したハンカチで、さりげなく目元の雫を拭う姿が絵になる。
ここは宇宙戦艦「たまさぶろう」の中にある展望ラウンジ。
壁際にはおしゃれなバーカウンターも完備。奥の棚に並ぶのはつい先日、高級レストランからガメた酒ビンたち。あいにくとバーテンダーはいないから手酌だけどね。
他にもビリヤードっぽい台とか、ムーディーな音楽が流れるジュークボックスっぽいモノなどもあり、ゆったりとした大人の癒し空間を演出している。
大国の王子さまに、いざとなったらどれくらいヤバイのかを、ちょいと教えておこうとここへお招きした次第。
が、さすがにライト王子は肝が据わっている。
驚きは隠し切れないものの、つとめて冷静を装っている。やっぱり出来る男はちがうね。
それに比べて、さっきから興奮したマコトが一人うるさい。
「なんでビリヤードがあるんだよ! なんでこんなロマンチックな音楽が流れてるんだよ! あこがれのカップルシートまであるし! ってか、なんで宇宙船? オレ、宇宙にはじめてきちゃったよ。あー、もう、わけわかんねえ。リンネの異能ってなんなんだよ? チートが過ぎるにもほどがあるだろうが」
「ええい、ギャンギャンとやかましい。なんでって、うちのルーシーさんが再現したからだよ。あとわたしのギフトは『人形召喚』、スキルは『健康』だ。どうだ、おそれいったか」ただし全身武器化なのはサイボーグ乙女の秘密。
「はぁ? なんでソレがこんな状況になるんだよ。うちにも知識チートが一人いるけど、まるで別物じゃねえか。アイツなんてこのまえ自作マヨネーズで腹を下してたっていうのに」
異国の地にて生卵に手を出すとか、なんと無謀な……。
聞けばギャバナにも英知を手にした勇者さまがいるそうな。
ただしそれはあくまで元いた世界の知識チート。
そして知識はどこまでいっても知識でしかない。
それを再現するには技術がいる、カネがいる、膨大な労力や時間もいる。
モノに歴史あり。
極端な話、プラスのネジ一本を再現するにも高度な背景が存在するのである。
耐久性のあるネジを制作するには、その材料となる良質な鉄がいるし、その素材を集めるところからのスタート。となれば鉱山なり鉱脈も見つけないといけない。
よしんばある程度の条件が揃っていたところで、これを実用化に耐える段階にまで押し上げて加工してから、ようやくといった具合にて、とってもたいへん。
しかもしかも元の世界ベースの知識であるがゆえに、こちらのモノとはかなりの齟齬があり、その辺の詳細なすり合わせも行われる必要がある。
あっちのコショウが、こちらでは別の名前で呼ばれていたりするから、アレがコレでどれがそれでと、いちいち照会していかなくてはならない。似て非なるモノも多数につき、検証するだけで、どれほどの時間がかかることやら。
本気で取り組んだら、それこそ国中の学者や研究者たちが総出でやっても、きっと数世代にも渡る大事業になるであろう。
よって知識チートでウハウハは、基本的に幻想である。
ましてや経験値の低い学生レベルではどうにもならん。
その点、うちのルーシーさんは完璧。
それこそ詳細な図面とかも手に入るし、なにより二つの世界のアカシックレコードにアクセスできるので、照会もワンタッチ・クリック。
これに加えて多元群体化による人海戦術、グランディア・ロードをはじめとする優良種たちの協力もあって、二つの世界をまたにかけたハイグレードな、「っぽいモノ」シリーズが着々と開発され続けている今日この頃。
「っぽいモノシリーズって何だよ!」
説明しろと言うからしてやったら、マコトくんがいっそううるさくなった。
意外にツッコミがはげしいな。
「冷蔵庫っぽいモノとか、エアコンっぽいモノとか、盗撮用の小型カメラっぽいモノとか、通信機っぽいモノとか、ライフルっぽいモノとか、そんな感じだよ。単純に再現してもつまらないからって、こっちの技術も積極的に取り入れて改良開発をじゃんじゃんした成果だよ。あと魔王はとっくに死んでるから」
わたしの発言を受けて、急に静かになったマコトくん。
ラウンジにムーディーな音楽が流れ、窓の外には星屑のステージにて七つの月が謳う。
そしてライト王子とマコトの目が点になっているのを見て、わたしはようやく自分の失言に気がついた。
おでこをコツンとして、テヘペロってやってみたけど、誤魔化せなかった。
「「魔王が死んでる? どういうことだっ!」」
ものすごい剣幕の二人の殿方に詰め寄られて、イヤンと観念したわたし。
モロモロを白状する。なお詳しい説明はルーシーに丸投げ。
青い目をしたビスクドールの口から淡々と語られる、現在の世界を取り巻く危機的状況の数々。
その結果、男二人は仲良くカップルシートに座り、しばし頭を抱え込むことに。
ふむ、この分だと二次会は長引きそうだな。とりあえず一杯やるか。
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