わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

文字の大きさ
上 下
41 / 298

041 聖クロア教会

しおりを挟む
 
 ギャバナ国滞在二日目。
 経費ホスト国側持ちにつき湖で舟遊び。優雅にクルージングとしゃれこむ。キラキラ光る水面を魔法で起こした風で滑るように走るボート。
 何気に一般的な魔法ってば初めて目にしたよ。なんだかファンタジーっぽくてよかった。
 お昼は浜辺でバーベキュー。食後には西瓜っぽい果物割りにてみんなで盛り上がる。
 サンセットビーチにてまったり過ごす。宿舎の広い大浴場にて羽を伸ばし、リリアちゃんと洗いっこなんぞをして入浴を堪能、後に就寝。
 まぁ、合間合間にちょこちょこと些末な問題はあったものの、気にしない気にしない。
 バカンス最高。

 ギャバナ国滞在三日目。
 観光でもして待ってろと上から目線で言われたから、経費ホスト国側持ちにつき街ブラを使節団一行で満喫。
 華やかな街並み、初めて目にする珍しい品々や種族、屋台がいろいろ出ててとってもにぎやか。お祭りみたいで楽しかった。
 食事は高級そうなレストランですます。調子にのってじゃんじゃん注文したった。領収書はもちろんギャバナへ。他人の銭で喰うメシは二割増しでウマい気がする。
 まぁ、行く先々にてちょこちょこ小さな問題は発生したものの、たいしたことでもないので、サクっと処理しておいた。

 ギャバナ国滞在四日目。
 宿舎の一階のカウンターにてちょっと嫌味をいわれた。
 ちっ、ケツの穴の小さい野郎だ。大国なんだから、レストランでの経費の額がちょっとばかし高くついたぐらいで目くじら立てんなよ。もっとも大量に酒類を頼んで、ビンごとルーシーの亜空間に放り込んでガメたから、金額がとんでもないことにはなってたけどね。
 やはり五十本は欲張り過ぎたか。今度からは三十本ぐらいにしておこう。
 あと、ここのところちょっとはしゃぎ過ぎたので、ここいらで一発、随行員らと会議っぽいのを開いて、気合を入れ直したいとリリアちゃんが言い出したので、わたしは邪魔にならないようにルーシーだけを伴い、昨日の街ブラにて気になっていた施設へと見学に行くことにする。

 目当ての施設は周囲の中でもひと際目立つノッポさん。
 街中にてそそり立つ姿は、塔というよりもビルといった方がいいのかもしれない。

「これが聖クロア教会の支部かぁ……。神さまの施設がおっ勃てているのって、どうなんだろうねえ」

 信仰のチカラにてカキ集めた財力にて建てられた建築物をまえにして、そんな軽い下ネタのジャブをかますと、わたしの胸に抱かれていたルーシーが「教会をみてそんな感想を口にされるのは、リンネさまぐらいですよ」と呆れた。
 そして門番をしている生真面目そうな教会の騎士からは、ジロリと怖い目で睨まれた。

「それにしても、どうして急に教会なんぞに行こうだなんて思ったのですか?」とルーシー。「教会なんぞ」と言ってる時点で、彼女もたいがい。
「いや、ちょっと。ほら、勇者召喚ってば教会が絡んでるって話だし」
「はい、どうやら女神イースクロアからの啓示で専用の使節団が各地をせっせと回って、あちこちで無節操に勇者をバラまいていたようですね」
「そうそう、それでずっと気になってたんだけど。でもリスターナには教会ってなかったじゃない」
「あー、それは国がショボいからですね。教会って基本的に大国にしか支部を置かないようですよ。運営だってタダじゃありませんから。費用対効果が見込めない場所に建てたところで経費がかさむだけで旨味がありませんしねえ。いくら信仰のための組織とはいえ、いろいろとお金がかかりますから。あとこのご時世、保安上の問題もありますし」
「そう考えると教会の支部がそそり勃っているのって、ある意味、国のステータスみたいなものになるのか」
「リンネさまの解釈でだいたいあっているかと」
「なるへそ、つまり教会は貧乏人相手には勃たないと」

 教会の門前で勃つだの勃たないだのという発言を人形相手に繰り返していたら、バタンと扉が勢いよく開かれる。
 姿を見せたのはいかにも神父さんっぽいローブ姿のおじいちゃん。
 顔を見せるなりニコリと熟練の笑みを向けられたので、こちらもにへらと愛想笑いを浮かべたら、なぜだか問答無用にて腕を掴まれ、そのまま建物内部へと連行される。
 そして礼拝堂にある女神像の前で、二時間近くも説法というか説教を聞かされるハメに……。
 やたらと貞操観念に関する話が多かったところから、どうやら門前での会話は神父さん的にはアウトであったようだ。
 しかし話はややクドかったけれども、言ってることはわりと真っ当。
 ちゃんとした神父さんで、ちゃんとした大人で、ちゃんとしたいい人だ。
 ふつうにおのぼりさん丸出しの小娘の身を案じてのお小言。
 超人兵器のチート勇者三千人を各地にて無料配布とかやらかす、メチャクチャな女神を信仰しているわりには、末端はマジメに生きている。
 なんだか考えていたのとちょっとちがった。
 いかにも歴史の裏から世界を動かすとか、国の中枢に取り入って意のままに操るとか、教義をねじ曲げて神の名を語ってやりたい放題とか、それはもう悪の秘密結社っぽいのを想像していたというのに……。
 えいっ、とひと息に踏み潰せばいいわけではなさそう。
 これはいささか目算が狂ったな。

 ようやくおじいちゃんの説教から解放されたときには、早や空が茜色に。
 ありがたいお話をいっぱい聞けたというのに、すごく人生を無駄にしたような気がするとは、これいかに?

「……まいったね、ルーシー。おもいのほかにまともだったよ」
「教会内部も装飾は最低限でしたし、主な費用は民の救済にあてているとか。かなり健全な団体です」
「となると余計にわかんないなぁ。言ってることとやってることが、どうにもチグハグ」
「勇者召喚の儀についてどう思いますか? ってストレートな質問をぶつけたら、神父さんもちょっと困った表情を浮かべていましたしね。どうやら諸手をあげての大賛成というわけでもなさそうです」
「うーん、これは一度、詳しく調査したほうがいいみたい。潰すのはいつでもできるから」
「ですね。ヘタにちょっかいを出して散り散りになって細分化。追い詰められたあげくに反社会的活動なんかに走られたら、目も当てられませんから」

 狂信化して各地で無差別テロとか、さすがに勘弁願いたい。
 とりあえず折りをみて、教会組織の中枢を調べてみようとの結論にて、その日は宿舎へと引き上げることにした。
 帰りがけに人影が途絶えて寂しいところを通りがかったら、ちょっとトラブルが発生。
 まぁ、いつものように片づけて漁っておいた。意外にも懐具合がよろしくて、ちょっと得しちゃったぜ。
 じゃらじゃら金色のコインのつまった袋を手に、ホクホク顔で戻ったら、宿舎の一階ロビーにて、マコトくんが待っていた。
 いっぱしに足を組み、こじゃれた風を気取って茶をすすっている長髪男の姿に、ちょっとイラっときた。


しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

退役騎士の居候生活

夏菜しの
恋愛
 戦の功績で騎士爵を賜ったオレーシャは辺境を警備する職に就いていた。  東方で三年、南方で二年。新たに赴任した南方で不覚を取り、怪我をしたオレーシャは騎士団を退役することに決めた。  彼女は騎士団を退役し暮らしていた兵舎を出ることになる。  新たな家を探してみるが幼い頃から兵士として暮らしてきた彼女にはそう言った常識が無く、家を見つけることなく退去期間を向かえてしまう。  事情を知った団長フェリックスは彼女を仮の宿として自らの家に招いた。  何も知らないオレーシャはそこで過ごすうちに、色々な事を知っていく。  ※オレーシャとフェリックスのお話です。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

おめでとうございます!スペシャルギフトが当選しました!

obbligato
ファンタジー
ごくごく普通の少年陸人(リクト)は、床下で発見した謎の巻物によってまんまと異世界に飛ばされる(笑) 次々と現れる狡猾で横暴で冷酷無慈悲な敵を半強制的に仲間に加え、彼らとの生ぬる~い友情を支えに様々な困難を乗り越え奮闘する(※時には卑劣な手や姑息な手も使いながら)冒険カオスファンタジー。 ⚠主人公がチートで無双してハーレム作るなどといった王道展開は一切ございませんので、期待しないでください。 ⚠これは破格ファンタジーです。シリアスで手に汗握るような本格的なファンタジーではありませんので、閲覧は自己責任でお願いします。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...