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041 聖クロア教会

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 ギャバナ国滞在二日目。
 経費ホスト国側持ちにつき湖で舟遊び。優雅にクルージングとしゃれこむ。キラキラ光る水面を魔法で起こした風で滑るように走るボート。
 何気に一般的な魔法ってば初めて目にしたよ。なんだかファンタジーっぽくてよかった。
 お昼は浜辺でバーベキュー。食後には西瓜っぽい果物割りにてみんなで盛り上がる。
 サンセットビーチにてまったり過ごす。宿舎の広い大浴場にて羽を伸ばし、リリアちゃんと洗いっこなんぞをして入浴を堪能、後に就寝。
 まぁ、合間合間にちょこちょこと些末な問題はあったものの、気にしない気にしない。
 バカンス最高。

 ギャバナ国滞在三日目。
 観光でもして待ってろと上から目線で言われたから、経費ホスト国側持ちにつき街ブラを使節団一行で満喫。
 華やかな街並み、初めて目にする珍しい品々や種族、屋台がいろいろ出ててとってもにぎやか。お祭りみたいで楽しかった。
 食事は高級そうなレストランですます。調子にのってじゃんじゃん注文したった。領収書はもちろんギャバナへ。他人の銭で喰うメシは二割増しでウマい気がする。
 まぁ、行く先々にてちょこちょこ小さな問題は発生したものの、たいしたことでもないので、サクっと処理しておいた。

 ギャバナ国滞在四日目。
 宿舎の一階のカウンターにてちょっと嫌味をいわれた。
 ちっ、ケツの穴の小さい野郎だ。大国なんだから、レストランでの経費の額がちょっとばかし高くついたぐらいで目くじら立てんなよ。もっとも大量に酒類を頼んで、ビンごとルーシーの亜空間に放り込んでガメたから、金額がとんでもないことにはなってたけどね。
 やはり五十本は欲張り過ぎたか。今度からは三十本ぐらいにしておこう。
 あと、ここのところちょっとはしゃぎ過ぎたので、ここいらで一発、随行員らと会議っぽいのを開いて、気合を入れ直したいとリリアちゃんが言い出したので、わたしは邪魔にならないようにルーシーだけを伴い、昨日の街ブラにて気になっていた施設へと見学に行くことにする。

 目当ての施設は周囲の中でもひと際目立つノッポさん。
 街中にてそそり立つ姿は、塔というよりもビルといった方がいいのかもしれない。

「これが聖クロア教会の支部かぁ……。神さまの施設がおっ勃てているのって、どうなんだろうねえ」

 信仰のチカラにてカキ集めた財力にて建てられた建築物をまえにして、そんな軽い下ネタのジャブをかますと、わたしの胸に抱かれていたルーシーが「教会をみてそんな感想を口にされるのは、リンネさまぐらいですよ」と呆れた。
 そして門番をしている生真面目そうな教会の騎士からは、ジロリと怖い目で睨まれた。

「それにしても、どうして急に教会なんぞに行こうだなんて思ったのですか?」とルーシー。「教会なんぞ」と言ってる時点で、彼女もたいがい。
「いや、ちょっと。ほら、勇者召喚ってば教会が絡んでるって話だし」
「はい、どうやら女神イースクロアからの啓示で専用の使節団が各地をせっせと回って、あちこちで無節操に勇者をバラまいていたようですね」
「そうそう、それでずっと気になってたんだけど。でもリスターナには教会ってなかったじゃない」
「あー、それは国がショボいからですね。教会って基本的に大国にしか支部を置かないようですよ。運営だってタダじゃありませんから。費用対効果が見込めない場所に建てたところで経費がかさむだけで旨味がありませんしねえ。いくら信仰のための組織とはいえ、いろいろとお金がかかりますから。あとこのご時世、保安上の問題もありますし」
「そう考えると教会の支部がそそり勃っているのって、ある意味、国のステータスみたいなものになるのか」
「リンネさまの解釈でだいたいあっているかと」
「なるへそ、つまり教会は貧乏人相手には勃たないと」

 教会の門前で勃つだの勃たないだのという発言を人形相手に繰り返していたら、バタンと扉が勢いよく開かれる。
 姿を見せたのはいかにも神父さんっぽいローブ姿のおじいちゃん。
 顔を見せるなりニコリと熟練の笑みを向けられたので、こちらもにへらと愛想笑いを浮かべたら、なぜだか問答無用にて腕を掴まれ、そのまま建物内部へと連行される。
 そして礼拝堂にある女神像の前で、二時間近くも説法というか説教を聞かされるハメに……。
 やたらと貞操観念に関する話が多かったところから、どうやら門前での会話は神父さん的にはアウトであったようだ。
 しかし話はややクドかったけれども、言ってることはわりと真っ当。
 ちゃんとした神父さんで、ちゃんとした大人で、ちゃんとしたいい人だ。
 ふつうにおのぼりさん丸出しの小娘の身を案じてのお小言。
 超人兵器のチート勇者三千人を各地にて無料配布とかやらかす、メチャクチャな女神を信仰しているわりには、末端はマジメに生きている。
 なんだか考えていたのとちょっとちがった。
 いかにも歴史の裏から世界を動かすとか、国の中枢に取り入って意のままに操るとか、教義をねじ曲げて神の名を語ってやりたい放題とか、それはもう悪の秘密結社っぽいのを想像していたというのに……。
 えいっ、とひと息に踏み潰せばいいわけではなさそう。
 これはいささか目算が狂ったな。

 ようやくおじいちゃんの説教から解放されたときには、早や空が茜色に。
 ありがたいお話をいっぱい聞けたというのに、すごく人生を無駄にしたような気がするとは、これいかに?

「……まいったね、ルーシー。おもいのほかにまともだったよ」
「教会内部も装飾は最低限でしたし、主な費用は民の救済にあてているとか。かなり健全な団体です」
「となると余計にわかんないなぁ。言ってることとやってることが、どうにもチグハグ」
「勇者召喚の儀についてどう思いますか? ってストレートな質問をぶつけたら、神父さんもちょっと困った表情を浮かべていましたしね。どうやら諸手をあげての大賛成というわけでもなさそうです」
「うーん、これは一度、詳しく調査したほうがいいみたい。潰すのはいつでもできるから」
「ですね。ヘタにちょっかいを出して散り散りになって細分化。追い詰められたあげくに反社会的活動なんかに走られたら、目も当てられませんから」

 狂信化して各地で無差別テロとか、さすがに勘弁願いたい。
 とりあえず折りをみて、教会組織の中枢を調べてみようとの結論にて、その日は宿舎へと引き上げることにした。
 帰りがけに人影が途絶えて寂しいところを通りがかったら、ちょっとトラブルが発生。
 まぁ、いつものように片づけて漁っておいた。意外にも懐具合がよろしくて、ちょっと得しちゃったぜ。
 じゃらじゃら金色のコインのつまった袋を手に、ホクホク顔で戻ったら、宿舎の一階ロビーにて、マコトくんが待っていた。
 いっぱしに足を組み、こじゃれた風を気取って茶をすすっている長髪男の姿に、ちょっとイラっときた。


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