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040 赤髪の美姫
しおりを挟む『ギャバナ女はその燃えるような赤髪と同じ情炎を身の内に宿している』
広大な湖を中心にして栄える大国ギャバナ。
なぜか昔からこの地では赤髪の女の姿がよく見られる。
そしてそんな女たちが総じて勇ましい気質とあって、先のような言い伝えが根付くことになったという。
そんな女たちが住む大国。
王妃ともなれば、それ相応の身分の者から選ばれる。
もちろん王の隣に並び立つのだから、それに足るだけのチカラが必要不可欠。
見目麗しいだけのお人形に務まる仕事と立場ではない。
側室にしてもそうだ。
国の中心たる王の周囲に侍るのに相応しいと認められた者だけが、王族に迎え入れられる。
個人の想い? 恋慕の情? 心配しなくともそんなものは、放っておいてもあとからついて来る。
大国の王、その重責を担うに足る男性が、魅力的でないわけがなかろう。
王妃や側室に選ばれるような女性が、魅力的でないわけがなかろう。
そんな人物がすぐそばにいて、何も芽生えないわけがなかろう。
とびっきりにいい男といい女が揃っていれば、あとはなるようになる。
ギャバナ国の王には現在五人の妻がいる。
王の妻たちには明確な序列がある。
筆頭はもちろん王妃。
なにせこの地位に選ばれるほどの、申し分のない器量持ちゆえに、他の追随を許さない。
以下は第一側妃、第二側妃といった順に続き、実力や影響力もまたその序列に準ずる。
そして四番目の側妃が、ワタクシことメローナ・ル・ギャバナの母親。ギャバナ女の誉れである赤髪が映える美しい人。
第四側妃という地位。
国中の才媛から選ばれた王の五番目の妻と考えるか、どうあがいても五番目にしかなれなかった女と考えるか。
人によっては五番目でもたいしたものだと褒めるであろう。
だが、母はそうではなかった。
たえず見せつけられる上位の女たちの背中。
家柄も、財力も、人脈も、知能も、美も才覚も、なにもかもがかなわない。
そういうものだと諦めてしまえれば楽になれたのだろうが、完全なる敗北を受け入れるには、母の自尊心はあまりにも高すぎた。
高潔なる蝶よ花よと、幼い頃より厳格に育てられたがゆえに、折れることを潔しとはしない。
たゆまぬ向上心は肥大化し、暴走し、やがて妄執へと変わる。
そしてそのすべてが娘であるワタクシへと注ぎ込まれることとなる。
たえず上だけを見て、そこへと向かって邁進する女を作ったのは、間違いなく母である。
ギャバナの現王には五人の子がいる。
王妃の産んだ第一王子イリウム・ル・ギャバナ。
第一側妃が産んだ第二王子ライト・ル・ギャバナ。
第二側妃が産んだ第一姫ビアン・ル・ギャバナ。
第三側妃が産んだ第三王子ドート・ル・ギャバナ。
第四側妃が産んだ第二姫メローナ・ル・ギャバナ。
三男二女の粒ぞろいにて後継者には事欠かず、国の未来は安泰だともっぱらの評判ではあるが、実体はそうでもない。
姉のビアンは生来の気質がおっとりとしており、いささか覇気に欠ける人畜無害な存在。
三兄のドートは逆に無意味な覇気が空回りしており、意気込みに実力が追いついてはいない愚物。
その点、長兄のイリウムと次兄のライトは自他ともに認める優秀さを誇る。
だがそれゆえに二人は何かと比べられる機会が多く、いつしか各々が派閥を抱えるようになり、次期後継の座を巡って対立が激化しつつある。
とどのつまり、いくら表面上は穏やかでも、少し中をのぞいてみたら激しい流れと渦が巻いている状況。
身内同士が争う。いかにも大国らしいことではないか。
やはり王族たるもの、たった一つのイスを巡って、肉親を蹴落とし、血で血を洗い、そこを目指すのが本能みたいなものであろう。
だったら、このワタクシが参戦してはいけないということもあるまい。
だが秘めた野心とは裏腹に、五番目の女の娘もまた、どこまでいっても五番手のままであった。
いつまで待っていても見せ場が回ってこない。チカラや存在を誇示できない。
邪魔者の足を引っ張るにしても、蹴落とすにしても、ある程度まで近寄れなければ、まるで手が届かない。
上へと這い上がるには何もかもが足りない。
このままでは適当に使い潰されたあげくに、他国に嫁に出されるか、降嫁させられるのがオチだ。
そんなのは絶対にイヤだった。
あるとき、聖クロア教会主導にて召喚の儀なるものが大々的に催される。
これによりギャバナ国は女神イースクロアさまより、十二名の勇者を賜った。
昨今の魔族の台頭、世情の危うさを危惧しての恩恵らしい。
ギフトとスキル、二つの異能を持つ超人兵器。
彼らの降臨は、自分には足りないモノを補う絶好の機会だと思えた。
王は異世界渡りの勇者たちに対して寛容でもって接する。
いざというとき、招集に応じてくれれば、あとは好きに過ごしていいとしたのだ。
これもまたワタクシには都合がよかった。おかげで接触しやすくなるもの。
だからとて誰でもいいわけじゃない。自分の野望を叶えるのに役立つ者でないと。
勇者クジは全部で十二。
外れクジは引きたくない。
だからじっくりと観察して吟味する。
すると注目していた二人が夜更けにそろって出かけるところを見かけた。
なにやら胸騒ぎを覚えたので、こっそりと後をつける。
そして目撃した。
光の剣が宙を舞い、首が刎ねられるところを。
それを成したのは勇者アキラ。
勇者が勇者を殺す、どうして? 何か個人的な恨みでもあったのだろうか?
あんまりにもふしぎだったので、つい理由をたずねたら彼はこう答えたの。
「邪魔だったから」
邪魔者は消す。
それは当たり前のこと。
だからワタクシは「そう、ならば仕方がありませんね」と言った。
すると彼は頬を染めながら、少しはにかんだ表情を見せたの。
これがワタクシと光の勇者アキラとの馴れ初め。
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