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037 宿舎にて
しおりを挟むさすがは大国のギャバナ。
敗戦国の弱小使節団なんて、ろくすっぽお出迎えもしてもらえなかったよ。
というか日夜、各地からたくさんの訪問団がやってきているので、受け入れ施設周辺がそれらの人員や物資で大混雑。
なかにはリザードマンみたいな姿の種族もいた。アマケレルって名前の種族らしいのだが、鮮やかな青緑色をした鱗と尻尾がかっこいい。
いかにも水棲戦士って風貌ながらも性格は温厚で、主に漁や水産加工で生計を立てているとか。なんでも彼らの作った乾物は絶品らしい。これはぜひともお土産に買ってかえらねば。
そんな方々がこちらをチラチラ気にしている。
どうやらマントをすっぽり被って正体を隠している、護衛役のハイボ・ロードたちに反応しているようだ。本能的に「なんかヤバイのがいる」と察しているみたい。
専用窓口にて係の役人に訪問理由を述べて、書類を提出。
極めて事務的に手続きを踏んだのちに、交渉予定日は七日後になると告げられた。
滞在する宿舎は用意してもらえるらしく、費用もタダ。
のんびり観光でもしながら待っててくれってさ。
太っ腹だけど、徹底したビジネスライク。
リリアちゃんなんて、すっかり肩透かしをくらって、ほへぇと気が抜けちゃた。
随行員たちもなんだか複雑そうな表情。これでもいちおうは国の看板をしょっての来訪だったので、それも無理からぬこと。
まぁ、下手に粘着されていびられるよりも、こっちとしては楽でいいんだけどね。
この分だと交渉もサクサクと終わりそうだし。
あてがわれた宿舎は湖畔の出島の中にある、大きな五階建ての宿舎の二階の一角。
ちなみに上に行くほど内装が豪奢にて、もてなしも手厚く、それだけギャバナ側にとっても重要なお客様ということ。
このことからしてリスターナが、いかに舐められているのかは一目瞭然。
だが悔しいことに、そんな二階の部屋でも十分にいい造りであった。
圧倒的な国力の差をまざまざと見せつけられた格好にて、早くも官僚たちがちょっとへこんでいる。
よもや交渉に入る前に、こちらの心を折る算段か?
「いえ、たんに重要度に応じての区別でしょう」
空気を読まない青い目のお人形さんの発言に、官僚さんたちがガックリ肩を落とした。
二階風情の客は食事も一階の食堂にてその他大勢とまとめて。
わざわざ部屋にメイドさんなんて配置されていないのだ。用事があるときには一階の受付カウンターにて申し出るようにと入室の際に言われている。
仰々しく扱われるよりかは、気楽でいいけど、たとえ敗戦国とはいえ一国の姫君を遇するのに、これはいかがなものかとおもっていたけれども、当のリリアちゃんがまるで気にしていないので、わたしも気にしないことにした。
食事は食べ放題形式。どっさりと山のように用意された料理を、好きなだけ皿にとり、好きなだけ貪り喰らう。
扱いはわりとぞんざいながらも料理は多彩にて味もそこそこ。
ナゾの肉の塊とか料理人が目の前で焼いてくれるし、ケーキっぽいのも並んでいるけど、これらはもしかしたら異世界渡りの勇者発信の食文化であろうか。
が、肉はともかくケーキの出来はいまいち。
見た目の華やかさに対して味に深みがない。甘いけど、ただ甘いだけ。
それでもリリアちゃんなんかは「ウマウマ」言ってよろこんでいたけれども。
しょせんは学生レベルの知識チートでは、この辺りが限界なのだろう。
ふふふ、勝ったな。
なにせうちにはルーシーさんがいるからね。二つの世界のアカシックレコードにアクセス権限を持つ、正真正銘の究極知識チートが。
せいぜい大国の地位に胡坐をかいて余裕ぶっているがいいさ。じきにぶっちぎって泣かせてやるから。
なんてことを妄想しながら、みんなといっしょに肉をもぐもぐしていいたら、食堂の入り口の方が、ザワザワと。
なにごとかと目を向ければ、真っ赤な髪をしたドレス姿の若い女と、いかにも付き添いの騎士といった感じの茶髪の青年の二人組の姿があった。
「あれは……、メローナ・ル・ギャバナ! この国の第二姫ですよ。でもどうしてこんなところに?」
突然の赤髪の登場に動揺を隠せない随行員の一人がおもわずつぶやいた。
なにせここはペーペー客が利用する大衆食堂。
王族が姿を見せるような場所じゃない。
でもその理由はすぐに知れた。
「みなさまごきげんよう。なにか不自由はございませんでしょうか。もしも何かありましたら、この『メローナ』にすぐに申しつけ下さいませ」
やたらと自分の名前を強調するドレスの女。
とどのつまりは売り込みである。
上位の客をもてなすのは国の上位の者。
三男二女のうちの末妹である彼女には、なかなかそんな機会は回ってこない。手柄や実績を積む機会がないので序列もずっと末席のまま。そこでこのような草の根活動となるわけだ。
一見すると地味ながらも、民草のウワサというのはあなどれない。
ちょっと優しくして、笑顔をふりまき愛想よくして、親し気にするだけで、放っておいても自分の評判を高めてくれるのだから、広報活動としてはとっても美味しい。
そしてそんな活動をせっせと行っているということは、このメローナさんはとっても野心家とみてまちがいなさそう。
じっさいややツリ目にてキツそうな顔立ちをしているし、我も強そう。
そしてそんな彼女の隣に寄りそう男、この気配……。
「あれって、やっぱり勇者だよねえ。腰にさした剣から妙なチカラも感じる。ひょっとしてこれがウワサの光の剣? ということは、あれが例の」
向こうもチラリとこちらに視線を向けてきたから、わたしの正体にはすぐに気がついたんだろう。
でもとくに話しかけてくることもなく、そのまま姫と一緒に退室してしまった。
評判通りの人物だとしたら、できればこのまま関わり合いになることなく、お別れしたいところだけど。
不意の接近遭遇に少々驚きつつも、たらふくタダ飯を腹に詰め込んでから二階の自室へと戻る一行。
しかし部屋に入るなり、わたしたちを出迎えてくれたのは、お留守番のルーシーやハイボ・ロードたちに囲まれて、ベソをかきながら床に正座をさせられている長髪男の情けない姿であった。
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