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033 アーミードール
しおりを挟むひと仕事終えて、額に爽やかな汗を浮かべる黒髪の少年。
やりきった感にて、とってもいい笑顔。
血まみれのバットと地面のゴミは、そのまま放置でいいだろう。
「ありがとう、リンネさん。それから、これからお世話になります」
母親のユーリスさんともども、改めて礼をのべるモランくん。
善きかな善きかな、ここから先はお姉さんにまかせるがよい。
文字通り大船に乗ることだし、ドーンとね。
わたしのオヤジギャグみたいな発言にも、にこやかな笑みを浮かべてくれる母子。
そんな和気あいあいとした雰囲気のとき、たまさぶろうの艦橋から緊急連絡が入る。
「北より土煙が近づいてきます。おそらくは追尾の難民狩りの軍勢かと」
報せを受けたわたしは、ユーリスさんとモランくんを急いで乗艦させると、ルーシーと二人して荒野にて仁王立ち。
「どうなさるおつもりですか、リンネさま?」
「戦をするのはしゃあない。主義だの主張だの世の中には、相容れないモノがいろいろとあるからね。みんな仲良くが理想だけどむずかしいから。出先でヤンチャをするのも、まぁ、戦場特有の狂った空気とかがあるから、正直なんともいえない。でも管理する気も支配する気もなく、住人と土地をただ蹂躙するってのは、ちょいと見過ごせないかな。やってることが賊どもと変わんないし。あとその矛先がいつこちらに向かってくるかもわからないから」
「では、いつものように」
「うん。あっ、でも今回は連中が騎乗しているやつを持ち帰りたいから、そのつもりでお願い。適当に放しておいたら、なんか勝手に雑草とか食べてくれそうだし」
「ラホースですね、了解しました」
連中が乗っているのは、ウマっぽい草食のモンスターのラホース。
元は野生種だったのを飼い馴らし、品種改良されて現在に至る。
見た目通りに足が速い。赤だの青だの黄だのと多彩な色の種類の個体がいて、とくに毛並みが美しい個体だと、かつてお城と交換されたなんて話もあるんだとか。
ノットガルドでは移動手段のひとつとして広く定着しており、日々の営みに、戦のおりにと大活躍。
それが大量にタダで手に入る。あと軍属ならば装備品も期待していいよね。
そしてわたしたちは辛い草抜きから解放される。
いいこと尽くめじゃないか! 今日はなんだかステキな一日になりそうな予感がするよ。
ずらりと横一文字に並んで、地面にうつ伏せになっているのは、ルーシーの多元群体化したお人形さんたち。
全員の手にあるのは長距離用狙撃ライフルっぽい武器。
やたらと銃身が長くて物干し竿みたいな形状をしている。
フローティングバレルとか、ボルトアクションとか、二脚銃架のバイポッドとか、ルーシーがいろいろと説明してくれたけど、わたしはミリタリー系はさっぱり。
自分の体のギミックもいまいちよくわかってないしね。
だから開発も運用も全部ルーシーさんに丸投げ状態。
で、放置していたらこんな感じのアーミーなビスクドール軍団が出来上がっていた。
科学の落とし子と魔導が融合し、見た目こそは近代兵器っぽいけれども中身はまるで別物らしい。少なくとも並みの防御魔法とか魔法が施された装備類なんて、軽く貫通するって話だ。
どんどん武装が過激になっている気がするのだけれども、この先、何が起こるかわからない以上は、出来得る限りの準備を整えておくべきだ! とルーシーさん力説。
まぁ、言ってることは間違ってないし、ちょっと丸め込まれているような気がしないでもないけど、これでいいのかな?
「各員、射程に入り次第射撃を開始。ただしラホースと装備品は極力傷つけないように」
ルーシーさんの指示を受けて全隊員が「イエッサー」
そして銃口が火を噴き始めて、あっちでバタバタ、こっちでバタバタ。
おそろしい射撃精度にて、人形たちはただの一発たりとも攻撃を外さない。
いちおうは、わたしも右の薬指の狙撃ライフルと左の人差し指のマグナムを準備して、銃弾の嵐を潜り抜けてくるガッツあふれる猛者の到来を待ち受けていたんだけれども、ただの誰一人として弾幕を抜けてくることはなかった。
なお一方的な戦いは五分ほどで終了。
むしろお馬さんと装備品の回収のほうが、よっぽど時間がかかったぐらい。
だが労力に見合うだけの成果を得て、ホクホク顔にてわたしたちは艦に乗り込んだ。
あとわりとかしこいラホースたちは、とっても素直で可愛かったです。
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