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026 異世界青春白書

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 一晩だけお城にお世話になって、帰国の途についたリスターナ使節団一行。
 行きと同じように帰りも途中から宇宙戦艦「たまさぶろう」に乗艦。空をゆるゆる征く。
 大任を果たしたリリアちゃんは、とってもいい笑顔。なんだかんだでやっぱり緊張していたのであろう。なにせ国の命運を背負っていたのだから無理もあるまい。
 使節団に随行した官僚たちもキレイに話がまとまって満面の笑顔。お詫び行脚の一発目としては文句なしに満点の成果。これを契機に他国との交渉もずいぶんと風通しがよくなるはず。
 警護兼示威担当のハイボ・ロードたちは、いつも通りクール。
 そしてわたしは一人、地味にへこんでいた。
 全身武器化し生身を捨てたサイボーグ乙女の目には、トカードの勇者たちの姿はあまりにも眩しすぎた。
 へへへ、いいよね、仲良し男女五人組。
 うれしはずかしグループ交際。
 恋と友情の青春劇場。
 各人いろいろと事情は抱えているそうだけど、それを差し引いたって充分にオツリがくるだろう。
 なんかムカツクからいろいろと暴露してやる。
 昨夜遅くまで盛り上がった裏懇親会にて、途中から酒をガブガブ飲ませて聞き出した情報を垂れ流してくれる。

 リーダーのタツヤは昔から幼馴染みの眼鏡っ子のヨシミが好き。
 ヨシミはそんなタツヤの気持ちにとっくに気づいているけれども、あえて気づかない鈍感なフリを通している。だって五人の時間を、みんなとの今を大切にしたいから。
 しかしグループ内には、そんなヨシミに好意を寄せている者が他にもいた。
 なんとアイはヨシミに対して、友情だけではない淡い気持ちを抱いている。同性なのに親友なのに、こんなのおかしいかな? でも……。
 自分でもどうしたらいいのかわからない。そんな切ないアイを静かに見守るのはカズキ。いつも自分は一歩下がったところから、みんなを見ている彼。でも本当はその一歩を踏み込むのが怖いだけの臆病者。
 意気地なしで不器用な自分の姿にアイを重ねるうちに、どうにも彼女のことが気になってしまって。
 で、ショタボーイなリクくんは、逞しくって頼りになる兄貴なタツヤに、羨望プラスな想いを秘めている。

 ったく、どいつもこいつもなんだよ! そろいもそろって青春しやがって!
 わたしなんてな、わたしなんてな……。

「ねえ、ルーシー。いまからたまさぶろうを反転させて、トカードの城を主砲でふっ飛ばそうかとおもうのだけど、どうかな?」
「ダメですよ、リンネさま。いくら悔しいからって、そんなことをしたらせっかくのリリアさんのお手柄が台無しです。それにアレはアレでいい弾避けに使えそうですし、せいぜい勝手に青春をさせておきなさい」
「ぐぬぬぬ、リリアちゃんのタメとあらば、ここはガマンするしかあるまい。お姉さん、嫌われたくないし」
「まぁ、それはそれとして次にお詫び行脚で向かう予定のギャバナ国の話が聞けたのは収穫でしたね」
「あー、この辺じゃあ一番デカい国で、お抱え勇者十一人。しかもリスターナのまともな勇者二人を戦場でぶち殺したとか言ってたっけ」
「追い詰めてボコったらしいですが、嬉々としてトドメを刺したのは同一人物にて。勇者アキラとかいう光の剣の使い手だとか」
「光の剣って、いかにもゲームのアイテムっぽいよね。それを片手に勇者業の英雄気取りとか。これはもう、完全に中二病を発症させているよ。面倒臭がプンプンする。あー、いやだいやだ」
「タツヤさんたちも口をそろえて彼には気をつけろと言ってましたし、大国は大国らしく内部がぐちゃぐちゃみたいですし。次はちょっとたいへんかもしれませんね」
「うーむ、となるとリリアちゃんも内心では不安かも。こりゃあ計画を前倒ししたほうがいいかもしれないね」
「そうですね。とりあえず戻り次第、準備を整えましょう」

 わたしとルーシーがそんな会話をしていたら、「お姉さまー」とリリアちゃんが笑顔で抱き着いてきた。
 ゆるふわ金髪の彼女の温もりに触れて、わたしのささくれだった心がどんどんと癒される。ものすごいヒーリング効果だ。
 対してこちとらカチコチのスレンダーにて、なんだか申し訳ない。

「何のお話をしていたのですか」
「えーと、次のギャバナ国への訪問のまえに、ちょっとしたイベントを挟もうかなって話」

 イベントと聞いて首をかしげたリリアちゃん。
 それを尻目にして密かにニヤリと笑みを交わす主従。
 そのタイミングにて「はっくしょん」とくしゃみをしたのは、遠く離れたリスターナの王城内の執務室にて、たまりまくっていた書類仕事に追われている王さまと宰相さんと将軍さんたち。

「なぜだろう。いま背中に悪寒が」とシルト・ル・リスターナ。
「おや、奇遇ですな。私もですよ」と宰相のダイク・スポート。
「ワシも」と将軍のゴードン・ランドルフ。

 三人揃って「イヤな予感がする」と口にした男たち。
 その勘が当たっていたことを痛感するのは、使節団が吉報を手に帰還した数日後のことである。


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