わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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025 トカードの勇者たち

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 パーティー後に、会場からくすねた果物の詰まったカゴを手土産に、勇者たちが住んでいるという城内の一角を訪ねたら、いきなり若い娘の悲鳴にてお出迎えされた。

「ひぃぃぃっ! ゴメンなさい、ゴメンなさい、どうか殺さないでください」

 面と向かって泣きながら土下座したのは、さきほどわたしたちを鑑定しようとして、ぶっ倒れた眼鏡女子のヨシミ。
 鑑定ギフトにてステータスをチェックしようとするも、当方との空前絶後のレベル差にはじかれて失敗。
 何も視えなかったけれども、何やらヤバイ気配はビンビンに感じたらしくって、一瞬にしてトラウマを魂に刻まれて現在に至ると。
 おもったより元気そうでなによりだが、これでは話も出来やしない。
 とりあえずバンバン床に額をぶつけて、狂ったように土下座をくり返し、えらいことになっている娘さんを止めようと、わたしは手をのばす。
 すると「ちょっと待ったーっ」と男三人女一人の四人組が登場。
 まるでスライディングでもするかのように、ヨシミとわたしたちの間に割って入るやいなや、こちらもそろって床に手をついての土下座スタイル。
 わたしのいた世界とはちがう次元から連れて来られたみたいだが、ひょっとして土下座ってのは全次元共通なんてこと、ないよね?

「ヨシミはわるくないんだ。オレが念のために調べておこうっていったから。だから殺るならどうかオレを殺ってくれ」

 そう叫んだのは短髪のガッチリした体格のタツヤ。
 この五人組のリーダー格の男子にて、熱血主人公感が全身よりにじみ出ている好漢。

「ちがうでしょ! みんなで決めたことじゃない。それに身代わりなら親友のこの私がなるわ」

 ポニーテールがゆらゆら揺れて勇ましいのは、細い眉毛がきりりとしているアイ。
 はきはきしたしゃべり方にて、粋でいなせな姉御って感じの美人さん。
 これに「しゃあねえなぁ、お前たちがいなくなったらみんな困るだろう? ここはオレが」と名乗りをあげたのが、カズキ。
 いささかクール気取りにて、ちょいと斜に構えた態度で天邪鬼っぽいくせに、こっそり裏で迷子の子猫とかにエサをあげちゃうタイプっぽい人。
 そして最後におずおずと「ボクが」と控えめに手をあげたのが、一番小柄にてぱっとみ女の子かと見紛うほどに華奢だけど、ちゃんとぶら下げてる男の子のリク。
 ショタ好きのお姉さま方ならば涎をたらし、全身全霊にて面倒をみそうな容姿にて、ぜったいに半ズボンが似合うはずだ。
 いきなりあらわれて四人でガヤガヤ「オレが」「私が」と、うるわしき庇いあい。
 ふむ、仲良きことは美しきかな。
 どうやらトカードは勇者クジにて当たりを引いたようだ。
 リスターナとは大違いである。うちの美中年の王さま、クジ運ないな。
 それに比べて娘のリリアちゃんは引きがいい。なんといっても、このわたしを街角にて引き当てたのだからな。今後、運に頼る局面になったら彼女を頼るとしよう。
 それにしてもギフトやスキルなんかの能力だけでなく、個人の人格とか人間関係もあったんだよなぁ。こりゃあ勇者プレゼントキャンペーンにて、あちこちで騒動が持ち上がっていると考えたほうがよさそうだな。
 きっとトカードなんてかなり幸運な方だと思うし、カズヒコの例もあるから外道堕ちしている奴もちらほらいそうな気がする。
 今後とも用心することにしよう。
 なんてことを友情劇場は拝見しながら考えていたら、すぐとなりで銃声が鳴った。
 犯人はルーシー。
 わりと短気な青い目のお人形さんが「いいかげんにしろ」と言わんばかりに、天井に向けてズドンとショットガンを発射。
 とたんに喧騒はやんだ。
 やれやれ、これでようやく落ち着いて話ができるね。

 お土産にもってきた果物をみなでムシャムシャしながら、異世界渡りの勇者六名プラス人形一体による裏懇親会。
 あらためて自己紹介の後に、誤解をといてからの、軽く情報のすりあわせ。
 それで発覚する衝撃の事実。

「えっ! ノットガルドに送られる際に、自分たちの世界の神さまから、丁寧に懇願されただけでなく、ギフトの選択では事細かな説明付きにてアドバイスをしてもらえて、スキルの運用とかについてもじっくりレクチャーされた……だと?」
「うん、そうなの。厳しそうな見た目の男の人だったけど、すっごく親切で。声もセクシーで。なんていうか、アレならイケるとおもった」

 自分のときとはえらい違いにて驚愕するわたしに、あやうくホレそうになったとヨシミ。メガネっ子の頬がほんのり紅くなっている。
 これにウンウンとうなづくアイ。
 あれは渋い、カッコイイよね、自分も将来はあんな男になりたい、などと感想を口々にもらすメンズたち。
 五人が五人ともに大絶賛。彼らの世界の神さまは、かなりイケてるダンディ神だったらしい。
 わたしのときなんて、チカンクソじじいだったのに……。
 なんたる次元間格差か! こちとら召喚の際に筆舌にしがたい恥辱を味わったというのに! しかも死のファイヤーダンスから始まる異世界生活。なのに片や青春キャピキャピ異世界ドキドキハイキングときたもんだ。
 衝撃の事実、あまりのことに愕然としているわたし。
 それを見上げるルーシーの青い瞳。
 ご主人さまの身を案じている風にみえて、その実、肩が小刻みにふるえてやがる。これは必死に笑いをこらえているだけだ。コンチクショーめ!
 あぁ、異世界に来てからこっち、心が一番のダメージを受けた気がする。


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