25 / 298
025 トカードの勇者たち
しおりを挟むパーティー後に、会場からくすねた果物の詰まったカゴを手土産に、勇者たちが住んでいるという城内の一角を訪ねたら、いきなり若い娘の悲鳴にてお出迎えされた。
「ひぃぃぃっ! ゴメンなさい、ゴメンなさい、どうか殺さないでください」
面と向かって泣きながら土下座したのは、さきほどわたしたちを鑑定しようとして、ぶっ倒れた眼鏡女子のヨシミ。
鑑定ギフトにてステータスをチェックしようとするも、当方との空前絶後のレベル差にはじかれて失敗。
何も視えなかったけれども、何やらヤバイ気配はビンビンに感じたらしくって、一瞬にしてトラウマを魂に刻まれて現在に至ると。
おもったより元気そうでなによりだが、これでは話も出来やしない。
とりあえずバンバン床に額をぶつけて、狂ったように土下座をくり返し、えらいことになっている娘さんを止めようと、わたしは手をのばす。
すると「ちょっと待ったーっ」と男三人女一人の四人組が登場。
まるでスライディングでもするかのように、ヨシミとわたしたちの間に割って入るやいなや、こちらもそろって床に手をついての土下座スタイル。
わたしのいた世界とはちがう次元から連れて来られたみたいだが、ひょっとして土下座ってのは全次元共通なんてこと、ないよね?
「ヨシミはわるくないんだ。オレが念のために調べておこうっていったから。だから殺るならどうかオレを殺ってくれ」
そう叫んだのは短髪のガッチリした体格のタツヤ。
この五人組のリーダー格の男子にて、熱血主人公感が全身よりにじみ出ている好漢。
「ちがうでしょ! みんなで決めたことじゃない。それに身代わりなら親友のこの私がなるわ」
ポニーテールがゆらゆら揺れて勇ましいのは、細い眉毛がきりりとしているアイ。
はきはきしたしゃべり方にて、粋でいなせな姉御って感じの美人さん。
これに「しゃあねえなぁ、お前たちがいなくなったらみんな困るだろう? ここはオレが」と名乗りをあげたのが、カズキ。
いささかクール気取りにて、ちょいと斜に構えた態度で天邪鬼っぽいくせに、こっそり裏で迷子の子猫とかにエサをあげちゃうタイプっぽい人。
そして最後におずおずと「ボクが」と控えめに手をあげたのが、一番小柄にてぱっとみ女の子かと見紛うほどに華奢だけど、ちゃんとぶら下げてる男の子のリク。
ショタ好きのお姉さま方ならば涎をたらし、全身全霊にて面倒をみそうな容姿にて、ぜったいに半ズボンが似合うはずだ。
いきなりあらわれて四人でガヤガヤ「オレが」「私が」と、うるわしき庇いあい。
ふむ、仲良きことは美しきかな。
どうやらトカードは勇者クジにて当たりを引いたようだ。
リスターナとは大違いである。うちの美中年の王さま、クジ運ないな。
それに比べて娘のリリアちゃんは引きがいい。なんといっても、このわたしを街角にて引き当てたのだからな。今後、運に頼る局面になったら彼女を頼るとしよう。
それにしてもギフトやスキルなんかの能力だけでなく、個人の人格とか人間関係もあったんだよなぁ。こりゃあ勇者プレゼントキャンペーンにて、あちこちで騒動が持ち上がっていると考えたほうがよさそうだな。
きっとトカードなんてかなり幸運な方だと思うし、カズヒコの例もあるから外道堕ちしている奴もちらほらいそうな気がする。
今後とも用心することにしよう。
なんてことを友情劇場は拝見しながら考えていたら、すぐとなりで銃声が鳴った。
犯人はルーシー。
わりと短気な青い目のお人形さんが「いいかげんにしろ」と言わんばかりに、天井に向けてズドンとショットガンを発射。
とたんに喧騒はやんだ。
やれやれ、これでようやく落ち着いて話ができるね。
お土産にもってきた果物をみなでムシャムシャしながら、異世界渡りの勇者六名プラス人形一体による裏懇親会。
あらためて自己紹介の後に、誤解をといてからの、軽く情報のすりあわせ。
それで発覚する衝撃の事実。
「えっ! ノットガルドに送られる際に、自分たちの世界の神さまから、丁寧に懇願されただけでなく、ギフトの選択では事細かな説明付きにてアドバイスをしてもらえて、スキルの運用とかについてもじっくりレクチャーされた……だと?」
「うん、そうなの。厳しそうな見た目の男の人だったけど、すっごく親切で。声もセクシーで。なんていうか、アレならイケるとおもった」
自分のときとはえらい違いにて驚愕するわたしに、あやうくホレそうになったとヨシミ。メガネっ子の頬がほんのり紅くなっている。
これにウンウンとうなづくアイ。
あれは渋い、カッコイイよね、自分も将来はあんな男になりたい、などと感想を口々にもらすメンズたち。
五人が五人ともに大絶賛。彼らの世界の神さまは、かなりイケてるダンディ神だったらしい。
わたしのときなんて、チカンクソじじいだったのに……。
なんたる次元間格差か! こちとら召喚の際に筆舌にしがたい恥辱を味わったというのに! しかも死のファイヤーダンスから始まる異世界生活。なのに片や青春キャピキャピ異世界ドキドキハイキングときたもんだ。
衝撃の事実、あまりのことに愕然としているわたし。
それを見上げるルーシーの青い瞳。
ご主人さまの身を案じている風にみえて、その実、肩が小刻みにふるえてやがる。これは必死に笑いをこらえているだけだ。コンチクショーめ!
あぁ、異世界に来てからこっち、心が一番のダメージを受けた気がする。
4
お気に入りに追加
637
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~
月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。
大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう!
忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。
で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。
酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。
異世界にて、タケノコになっちゃった!
「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」
いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。
でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。
というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。
竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。
めざせ! 快適生活と世界征服?
竹林王に、私はなる!

冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる