わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

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024 鑑定ギフト

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 リリアちゃん率いる使節団は、トカード側から国賓待遇の丁重なお出迎えを受けた後に、少し休憩を挟んでから交渉の席についた。
 話し合いの場にはあえて同席しなかったが、おもいのほかにすんなり終了。
 賠償として提示した鉱物が相手方の想像を超える量と質だったことと、ハイボ・ロードたちの存在、それにリスターナ側へと潜入している者からの報告によって、トカード側が事前にこちらの内情をある程度把握していたらしいことも大きかった。
 リリアちゃんが外交デビュー戦とはおもえぬしたたかさを見せたのも要因のひとつ。
 なにせリスターナは迷惑をかけた側。
 今回はお詫び行脚も兼ねているので、駆け引きすることなく、初手からペコリと頭を下げて正式に謝罪、ドドンと賠償を提示。
 のらりくらりとしたやり取りにて、イライラしながらの化かしあいの末に、ようやく落としどころを見つける外交の場では異例の対応。
 これを受けたトカード側、内心では了承するもあまり素直に応じては、国としての面子が保てない。
 だからほんのちょっぴりだけ、ゴネてみせた。

「そちらの謝意は伝わりました。ですがこれでは少々……」

 あわよくばのつり上げ交渉。
 本気で期待はしていない。あくまでリスターナ側から「今回はこれでどうか勘弁して下さい」と重ねて言わせるのが狙い。これによって「しょうがないなぁ」と上から目線にて許し、完全にマウントをとってからトカードは交渉締結としたかった。
 が、ここでリリアちゃんがシレっと言った。

「そうですか……。ですが当方も賠償として提供できる品には限りがあります。御覧の通りの窮状にて。また他国との兼ね合いもあります。もちろん出来得るかぎり誠意と誠実でもって対処させていただく所存ですが、交渉があとにズレ込むほどに……、その、少々言い方は悪いのですが『早い者勝ち』みたいなことに」

 これ以上、グダグダぬかしているとお前らの取り分が減るぞ。
 こっちとしては昔からの付き合いもあるし、とっとと仲直りしたいから、真っ先に交渉相手としてトカードを選んだことも、ちゃんと加味して判断してよね。
 暗にそんな意味が込められたリリアちゃんの発言を受けて、トカード側があわてて折れた。
 戦争なんて勝っても負けても出費がかさむ。損してばかりにて元が取れるケースの方が圧倒的に少ない。
 かといって荒廃している領土を割譲してもらったところで、やはり手間と出費がかさむ。
 中堅どころの国力にて、自国の開発で手一杯のところに、そんな土地をもらっても、トカード側としては持て余すだけ。
 その点、物資はいくらあっても困らない。ましてや腐る心配のない鉱物ならばなおさら。自国で加工して使ってもよし、他所に転売してもよし、投機目的で寝かしておくもよし。
 大量のブツの出所は気になるところだが、今回はこの辺が落としどころだと、トカードの代表は手を差し出す。
 これをリリアちゃんがしっかり握り返してにっこり笑顔、交渉の席は終了した。

 無事に戦後賠償の話し合いもすんで、国交も正常回復。
 トカード側が懇親会をかねた祝いの席を用意。
 華やかなパーティー会場にて、貴人らに囲まれながらも、如才なく立ち居振る舞うリリアちゃんを、壁の花と化したわたしとルーシーが見守る。
 警護にはオービタル・ロードとセレニティ・ロードの隊長クラスが一人ずつついているから、問題なかろう。
 わたしは手にしたグラスの中身の赤い液体をクイッと飲み干す。
 微炭酸の果実酒にて味はよい。口当たりは軽くアルコール度数は低い。苦手な人でも楽しめる品。まぁ、こんな場で下手にキツイ酒なんか提供して、酔っ払いが暴れたら、それこそ国際問題に発展しかねないから、当然か。
 もっともわたしは健康スキル持ちにて、いくらのんでも大丈夫。はたして酔えない酒に意味があるのかは判断がむずかしいところ。
 と、そのとき、パチンとわたしの周囲にて何かが弾けたような気がした。

「うん?」違和感を感じて、首をかしげるわたしにルーシーさん。「おや、何者かが我々に鑑定を試みたようですよ」

 鑑定とは対象のステータスなんかを覗き見できちゃう異能。
 通常の魔法とはちがいギフト扱い。
 つまり女神さまからチカラを授けられた者にしか使えない貴重な能力にて、これがあるだけで国に厚遇にて召し抱えられて、一生安泰が約束される。
 もっとも鑑定する者と対象との間に、あまりにもレベル差が開いていると、さすがに無理にてパチンと弾かれちゃう。
 で、どこのどいつがそんな鑑定を行使したのかは、すぐにわかった。
 だって会場を挟んだ正面の向かい側の壁際にて、口から泡を吹いて倒れていたから。
 周囲で「だいじょうぶか」と心配している四名の若者たち。
 明らかに他の者たちとまとっている雰囲気がちがう。異世界臭がぷんぷん漂っている。

「あー、アレがトカードの勇者たちか。なんか仲良し五人組っぽくて、ちょっとうらやましい」
「みたいですね。そしてあの倒れている女の人が鑑定ギフト持ちと。それにしても、よりにもよって、いきなりリンネさまを視るとは運のない」
「?」
「お忘れみたいですが、リンネさまは魔王討伐者です。あと宇宙からのナゾの侵略者も撃退しました。超優良種たるグランディア・ロードたちが絶望するような相手をも一蹴しているのですから、あそこで倒れている鑑定持ちとリンネさまとのレベル差なんて、空前絶後ですよ。これを鑑定するなんて、ミミズが砂漠のど真ん中で太陽を直視するようなもの。脳神経が焼き切れてないといいのですけど」

 いやはやルーシーさんってば、なんだか怖いことをおっしゃる。
 回復魔法とかあるみたいだし、きっと大丈夫だよね?
 とはいえ、知らないうちに迷惑をかけてしまったようだから、これはあとでお見舞いの品でも持って挨拶に伺っておくべきか。
 リスターナとトカードの今後の関係を考えれば、ここは大人の態度を見せておくが得策であろう。


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