22 / 298
022 狩りの時間
しおりを挟む山脈の地下の工事現場にて朝の挨拶をすませたわたしは、その足で表へと向かう。
お供はスズメバチっぽい種族のセレニティ・ロードたち。
これからリスターナ国内を巡っての、楽しい狩りの時間。
獲物は世情不安につけ込んで、あちこちから流入してきた賊どもだ。
なにせ現在、リスターナは賊どもの拠点多数、悪党の巣窟と化しているので。
原因は周辺国との軋轢と武力差。
よそには超人兵器のおっかない勇者たちがいる。それだけで体制側の機運が盛り上がる。これすなわち悪党どもには、とってもとっても肩身が狭くてやりづらい。うっかり悪事が見つかろうものならば、たちまち勇者のギフトとスキルでお仕置きされちゃう。
その点、リスターナは手痛い敗戦にて国力だだ下がり。
不況のどん底にて職場としてはあまり旨味こそないものの、治安の維持に注力する余裕もないので、安全安心にて我が物顔で闊歩できる。
だからここに拠点を置いて、近隣諸国にてお仕事に精を出し、ヤバくなったら逃げ戻る。
というのが、最近の野盗どものトレンド。
これを放置していたら、いつまでたっても国が立ち直れない。そして下手をするとこれを口実に討伐隊との名目で進軍されて、そのまま居座られる可能性も大。
そんなことになったら、これからこの国であんなことやこんなことをたくらんでいるわたしたちにとっては、とっても都合が悪い。
よって障害はすみやかに排除するべし。
これより治安回復、財源および人財を確保する。
財源は連中がため込んでいる盗品類や装備品などを根こそぎ漁る。
罪と人を憎んで、モノを憎まず。
活きのよさそうな人財は、そのままセレニティたちにお手伝いの報酬として与える約束。彼女たちの種族の繁栄のために、悦楽地獄にて死ぬまで腰をふってもらう。
表に待たせていた宇宙戦艦「たまさぶろう」にゾロゾロと乗艦。
全員が乗り込んだのを確認してから、出発進行。
カモフラージュ機能によって周囲の景色に溶け込んだ宇宙戦艦「たまさぶろう」がゆるゆると空を征く。
高度は低め。あんまり高い所を飛んでたら賊どもを見落としてしまうから。
速度に関してはこんなところで本気を出したら、地上が暴風に襲われて壊滅しちゃうから。
「右前方、森の廃村にて目標捕捉」
報告を受けたわたしが狩りの開始を告げる。
次々と艦の昇降口より宙に躍り出ては降下をはじめるセレニティ・ロードたち。
スズメバチっぽいクノイチさんたちは空も飛べるので、パラシュートなしでもへっちゃら。
魔法と背中の羽を駆使した飛行術にて、流星のごとく降り注いでいく彼女たちの勇姿。
強襲される側からしたら悪夢以外の何ものでもないな。
そして始まる蹂躙劇。
あれほどの降下速度だというのにセレニティたちは無音にて着地。そこから一足飛びに手近なターゲットに接触。おそらく相手は自分がどこの誰に何をされたのかも、ろくろく気づくことなく、意識を狩られることになる。
まるで時代劇のごとく、シュッ、ストン、ガク、ってな具合に。
伝説級の種族と人間種族の野盗くずれ。
勝敗は目に見えており、すぐに決着がついた。
実際のところ、戦闘時間よりもリサイクル可能な資源の選別の方が、よほど時間がかかったぐらいだ。
ちゃっちゃと回収作業を済ませる。
「この調子でサクサクいってみよう」
わたしの合図で再び出発するたまさぶろう。
こんな感じにて国内の上空をうろちょろ。
しらみつぶしにした結果、賊は一掃されることとなり、七日ほどでリスターナの国内の治安はほぼ回復。
なお退治した賊の数は二千五百を超えた。
そのうちセレニティたちのお眼鏡にかなったのは四百ほど。選り好みはしないって話のわりには、そこそこ男ぶりのいい品を選んでいたような気もするが、まぁ、いいだろう。
で、残りはすべて殺処分。
えっ、それって残酷すぎやしないかですって?
いやいやいや、外道を二千人以上も食わせてやるぐらいならば、わたしは主都の路地裏にいた虚ろな目をした子どもたちの腹を満たすよ。
刑務所を作って放り込むにしたってタダじゃない。
年間、どれだけの労力と金を垂れ流すことになるか。あげくに出所後にすぐに再犯とかされたら目も当てられないよ。
でも命の問題だし、いちおう頼れる相棒のルーシーにも相談はしたんだよね。
そしたらビスクドールはこう言ったよ。
「収容して再教育? ふつうの子育てですら正解がわからないと、世の親御さんたちが日々頭を悩ませているというのに、ヤンチャが過ぎたゲスな大人の教育なんてどうしろと? そんな方法、二つのアカシックレコードのどこにも記載されていませんよ」
いや、教育って本当にむずかしいね。
たとえ重労働を課したところで、穴掘りならオービタル・ロードたちがいるので間に合ってる。きっと他の土木建築でも同じこと。それどころか下手に導入したらかえって足を引っ張られかねない。
無駄、ムダ、むだ、のオンパレード。
なら、やっぱりその分の予算や物資を子どもたちに回す。
やや短絡的思考かもしれないけれども、ギリギリでも一線を越えずに踏みとどまっている者と、あっさり越えてしまう者だったら、わたしは前者に手を差し伸べたいから。
応援ありがとうございます!
4
お気に入りに追加
630
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる