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015 勇者カズヒコ
しおりを挟む小さい頃から生き物を飼うのが好きだった。
図鑑片手に熱心に勉強し、出来る限りの世話もした。
だけれども、それでも朝になったら動かなくなっていることがしばしば。
ボクは生き物を飼うのは好きだけど、死んだものには興味がない。
だからさっさと捨てて、新たにべつのを飼う。
そのうちに、ふと、ある疑問が浮かんだ。
どうしてボクは生き物を飼うのが好きなのだろうか?
だからボクはボク自身をじっくりと観察した。
あるとき金魚を飼っている水槽を覗いていたときのこと。
水槽のガラス越しに映る自分の顔を見て、ようやくボクは気がついたんだ。
ボクは笑っていた。とても楽しそうに笑っていたんだ。
親の前や学校で見せるような仮面の笑顔ではない。あんなとりつくろったモノとはぜんぜんちがう笑み。心が解き放たれたときのみに浮かべられる顔。
自分でもおどろいた。ボクにこんな表情が出来るのかと。
そしてわかったんだ。
ボクは生き物を飼うのが好きなんじゃない。
生き物を支配するのが、その生殺与奪の権利を握ることが、たまらなく好きなんだと。
ノットガルドとかいう異世界へと転移させられるとき、ボクが選んだのはテイマーというギフト。これはモンスターを使役することができる能力。生き物好きのボクにぴったりだろ?
そして目覚めたスキルは影魔法。こちらは影に潜んだり、影にモノを出し入れしたりできるチカラ。
ギフトは女神さまからのプレゼント。
スキルは異世界を渡る際に己の内より発現するモノ。
願望や才能の発露だという話であったが、世間では陰気で根暗で不気味だとさんざんにバカにされていたボクには、相応しいチカラのような気がした。
リスターナという国に召喚されたのは、ボクを含めて六名の若い男女の勇者たち。
見た目こそは、みな似たような人たちだけれども、それぞれがちがう次元から駆り出された者たちであった。
自分の素性を知る連中と離されたのはボクにとっても好都合であった。
いろいろと殺りすぎて、すでに近所や学校で噂になっていたからね。
同じ立場ということもあり、勇者一同にて表向きは仲良しを演じる。
が、そのうちに一人の女の子の様子がおかしいことに、ボクはすぐに気がついた。
それでちょっと小突いたら、あっさり首をくくった。
精神が不安定なところに耳元にて「死んだら元の世界にもどれるよ」とのウソのささやき。
事件は突発的な自殺として処理されたが、内心でボクは笑いをこらえるのがたいへんだった。そしてしみじみ思ったものだ。
あぁ、ここではガマンする必要がないんだって。
元不良だかヤンキーだか知らないが、調子にのっていた二人は適当におだてたら、そのまま外へ「冒険だ!」と飛び出していき、案の定、あっさり死んだ。
いくらチカラがあろうとも、ゲーム感覚にて実戦に乗り出せば、早々に詰むことはバカでもわかりそうなものなのに。
彼らの愉快な最期が直接おがめなかったことだけが悔やまれる。
リスターナのカーク王子に取り入り、これをそそのかして国の実権を握らせ、戦争へと舵をきらせるのもさほど難しくはなかった。異世界渡りの勇者の肩書はとっても便利だ。
元の世界では小動物の命を、こちらの世界では他者の命を、そしてついには国の命をも操ることに成功したボクは有頂天だった。
が、ここで目障りとなったのが残り二人の勇者たち。
同じ境遇の若い男女。男はいかにも物語の主人公といった性格にて、女もまたそんな相手にころりとホレる安い女。
いい加減にうっとうしくなってきたので、情報を操作して、敵陣のど真ん中にて孤立させてやった。
派手に戦場で活躍していたせいか、よほど敵から恨みを買っていたらしい。
死体は十年は使い古したボロ雑巾のようなあり様であった。
その点、ボクは影魔法を駆使して極力矢面に立たないようにしていたので、安心。
そろそろカーク王子をそそのかして国で遊ぶのも飽きてきた頃。
王子がボクを繋ぎとめておくために、自分の妹をくれてやるとか言い出した。
正直、他の女だったら、聞く耳を持たなかっただろう。勇者というだけで股を開くようなクソビッチなんぞ、反吐がでる。
だけど彼女はちがう。
リリア・ル・リスターナという少女は、それだけの才媛であったのだ。
なにせボクの甘言には一切耳を貸さず、勇者の肩書にも転ぶことなく、良識でもって臆することなく、最後の最後まで戦争にも反対していた。
芯のある可憐な花。王族の中の王族。ダメな兄貴とは出来がちがう。
ゆえに彼女は早々にボクの本性にも気がついていたのだろう。
向けられる視線には、あきらかに嫌悪と敵意が込められていたのだから。
おもえばカーク王子も不憫な男だ。もしも腹違いの妹が彼女でなければ、あれほどコンプレックスに悩まされることもなかったであろうに。
でもそんなリリア姫だからこそ、自分の思い通りになったとき、どれほどのよろこびをボクにもたらしてくれるのだろう。
腕を切り落とせば諦めるのだろうか、足を奪えば意気地が萎えるのだろうか。
あの冷たい目が屈服する姿を想像するだけでイってしまいそうだ。
だからこそボクは王子の提案に乗ってやることにした。
あぁ、異世界生活はなんと楽しいのだろう。
こんな世界に招いてくださった女神イースクロアに、ボクは惜しみない感謝と賛辞を贈る。
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