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014 リリア・ル・リスターナ
しおりを挟む武器をもって、か弱い女の子を追いかけ回している時点で、死刑でいいよね?
無法には無法にて応じる、それがアマノリンネという女。
六人の追手のうちの五人の眉間を瞬く間に撃ち抜いた、わたしのマグナム。
言葉の響きがちょっぴり卑猥。
けれども一人だけとっさに照準をかわしたヤツがいた。
建物が密集した地形を活かし、壁から壁へとぴょんぴょん跳ねての立体高速移動。
じつに俊敏かつ軽やかな動き。ただのゴロツキとはおもわれない。どうやらプロが混じっていたようだ。
忍者か盗賊、はたまた暗殺者か。勢いのままに頭上よりこちらを強襲。
スゲーと感心しつつ、わたしは右ヒジを上空にむける。
パカンと開いたヒジの先。そして射出されたのは投網。
バサッと空中にて見事に開いて、いまにも降ってこようとしていた相手を捕獲。そして路地に蒼い閃光がビリビリ走った。
この投網、電磁網にて、高圧電流が流れる仕組み。巨大なイノシシも一撃で仕留める凶悪仕様につき、推定プロのゴロツキはそのまま天へと召された。
こうして悪は滅せられ、乙女の貞操は守られたのであった。
本来ならば、ここで「もうだいじょうぶですよ、お嬢さん」とカッコウをつけたいところだが、その前にわたしにはどうしてもやらねばならぬことがある。
「おし、ルーシー、とりあえず漁るぞ」
「了解です。網の中のは玄人みたいですし、これは期待できそうです」
そしてはじまる恒例の人間鉱山からの資源採掘。
だってモノには罪はないもの。チリも積もれば山となる。
そんなワケで救出した女の子そっちのけで、ガサゴソしていたら、いつの間にかその子まで手伝ってくれていた。
めっちゃ、いい子。
お姉さん、おおいに気に入った。
「あぶないところをありがとうございました」
フードを外した中からあらわれたのは、金髪ゆるふわ系の美少女。年の頃は中一ぐらいかな。まだあどけなさが多分に残るものの、将来、美人さんになることが確約されている。
個人的にはロリコンなんぞ全員地獄に落ちろ、もしくはモゲろ。
と思っているが、彼女相手に道を踏み外したのならば、それもやむなしと思えるぐらいに美少女。
そんなかわいい子猫ちゃん、お名前をリリア・ル・リスターナといい、なんとこの国のお姫さまなんだって。
で、さっき始末した追手の連中は兄から差し向けられたもの。
「家出をしたお転婆な妹を連れ戻しにきた、って雰囲気じゃなかったよね」
「はい、じつは……」
逃亡中の姫君は語る。
現在、国の実権を握っているのはリリアちゃんのお兄さんのカーク・ル・リスターナ。
二人は腹違いの年の離れた兄妹。正室の子がカーク、側室の子がリリア。
そしてこのお兄ちゃん、その出来がすこぶる残念。
それでも昔はそれなりに頑張っていたし、それなりに良識もあったし、それなりに妹にも優しかった。
それがおかしくなり始めたのは、この国が女神さまから勇者を賜った頃から。
異世界からやってきたという六人の勇者たち。
スキルとギフトを合わせ持つ超人たちによって、国の未来は明るいと、その時は誰もが思った。
でも勇者のうちの一人は早々に精神を病んで、自ら命を絶つ。
いかに異能があったとて、心までもが超人化するわけじゃないからねえ。急激な環境変化に精神が絶えられなかったというわけさ。ある意味、正常な反応ともいえる。
勇者二人は何をトチ狂ったのか、勢いのままに城壁の外へと飛び出し死亡。
いかにチカラがあっても何の訓練もしてない素人が、満足に戦えるわけないよねえ。たとえキチンと訓練を積んだとて、本番はまるで別物だろうし。殺るのを躊躇わない相手と覚悟なき者が対峙すれば、結果なんて火を見るよりもあきらか。
こうしていきなり三名もの勇者を死なせてしまい、心労がたたったのかリリアちゃんのお父さんにあたる王さまのシルト・ル・リスターナは倒れて病床に伏す。
そして長男のカークがかわりに権力を握るやいなや、国はこれまでの平和外交路線を一蹴。
勇者の武力を前面に押し出しての強硬路線へとひた走ることに。
目に余る暴走ゆえにリリアちゃんはなんとかやめさせようとするも、兄は聞く耳をもたない。良識派の家臣たちは次々に遠ざけられて、あとに残るは阿呆な奸臣ばかり。
病床の父は部屋に篭って面会にも応じてもらえず、八方ふさがり。
そうこうするうちに始まってしまった戦争。
はじめのうちは連戦連勝にて、景気がよかった。
だが無理な領土拡大にて方々にケンカを売ったツケは、すぐに回ってきた。
周辺諸国が連合を組んだのだ。
まず三人いた勇者のうちの二人が戦死する。
勝ちに驕っていたところを罠にはめられ、あっさり死んだ。一人になったところを複数の敵勢の勇者らにボコられたらしい。
で、唯一残った勇者に守られて、ほうほうのていで逃げ帰ったカークお兄ちゃん。
そこで猛省して、周辺国との関係改善に乗り出すなり、内政に尽力するなりすればまだ救いがあったのだけれども、死ぬほどの恐怖を味わったせいで、宮殿の奥にてガクブルしながら酒色におぼれる日々。
そして彼の権勢には欠かせない頼みの綱である生き残りの勇者を繋ぎとめておくために、なんと、かわいい妹をくれてやるとほざいたらしい。
「つまりリリアちゃんは、不本意な交際がイヤで、逃げだしたと」
「はい。あんな男、死んでもイヤです」
王族足るもの、真から必要とあらば国のために我が身を差し出すこともいとわなそうなリリアちゃん。
そんな彼女から蛇蝎のごとく嫌われている勇者くん。
いったい何をしたのやら。
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