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010 劣等種
しおりを挟むハイボ・ロード。
それはこの多種多様な種族が住まうノットガルドの世界にて、強者として広く認識されている種族たちの総称。
社会性に富み、個体性能に優れ、思慮深く、不必要な争いを好まず、人心卑しからず。
我々が対女神戦線を構築するにあたって、協力者として彼らを選んだのは当然のこと。
まんまとセミっぽいグランディア・ロードたちと協力体制を取り付けたわたしたちは、その勢いのままに、第二候補のところへと向かったのだが……。
砂ぼこりの舞う乾いた荒地にて、赤と黒の軍勢が正面からぶつかりあっている。
フルフェイスのヘルメットにライダースーツっぽいのがゾロゾロ。これが一般兵たち。
それらを率いるのは流線形フォルムの甲冑姿の個体。これがたぶん部隊長クラス。
どこぞの特撮ヒーローかよ! とツッコミを入れたくなるほどに、みなカッコイイ。
双方ともに同じような容姿にて、色だけがちがう。
そんな面々がはげしくやりあっていた。
拳が空を裂き、蹴りが大地を割る。
ガツンガツンと腹の底に響く鈍い衝突音が鳴るたびに大気が震える。
みんな体の表面がうっすらと輝いている。おそらくは身体強化の類なのだろうが、とにかくすさまじい体術の応酬。
どこのバトルマンガだよ! と心の中で叫びたくなるほどに熱い戦いが、そこかしこでくり広げられている。
みんなめっちゃ強い。
彼らはオービタル・ロードという種族の人たち。
もとの世界にて一番近いのはアリなんだと。つまりアリ人間たちだ。とにかく身体能力がえぐい。まんま昔の特撮ヒーローにて同じ昆虫ベースでも、セミとちがってしびれる容姿。戦う姿が絵になるおかげで、大迫力のバトルシーンの連続に目が釘付け。
いま手元にビデオカメラがないことが心底悔やまれる。
そんな連中の姿を戦場よりちょっと離れた丘の上から、まじまじと眺めつつ、わたしはしみじみ。
「ねえ、勇者ってほんとうにいるのかな?」
こいつらだけで世界平和、楽勝じゃねえ。
そう口にすると、ビスクドールがついと青い目をそらした。
どうやら実力的には申し分ないらしい。
「まぁ、でも、ハイボ・ロードってのは基本的に専守防衛ですから。よほどのことがないかぎり自国から出てこない、自己完結の引きこもりなんですよ」とルーシー。
そのわりには、オービタルのみなさん、いま外で派手にガンガンやりあっているんですけど……。
「あー、これは連中の恒例行事みたいなものですね。こうやって年に何回かやりあって、互いを磨き高め合っているようです。そりゃあたまには運動しないと体もなまりますし」
なるほど、このどつき合いは彼らの運動会みたいなものなのか。
それにしてもこんなのが、そこいらにいる世界を征服とか。
魔王もずいぶんと無茶をしやがったものである。
あと何気に上異種のハイボ・ロードって虫系ばっかりだな。
「そりゃあそうですよ、リンネさま。生物として優れた進化を遂げているのは昆虫と植物なのですから」
「えっ! 人間じゃないの?」
おどろくわたしに、逆に「えぇっ」と大袈裟におどろく仕草をみせたルーシー人形。
あれ? だって元の世界じゃあ、地球人類ってば「オレたち万物の頂点だぜ。霊長類最強、イエーイ!」とかはしゃいで、わりとやりたい放題だったもの。
「どうやらかなり認識に差があるようですね。いいですか、リンネさま。種類、多様性、環境適応能力、社会性、その他もろもろを考えれば、人間種なんて生物としてはかなり落ちこぼれですよ。そもそも無駄に環境破壊と戦争をくり返している時点で論外です。もしもリンネさまのもとの世界にて、宇宙の彼方から地球外生命体がコンタクトをとってきたら、人類はまず無視されるでしょうよ。関わり合いになってもデメリットしかありませんから」
年中盛っている出来損ないのサルとの交流なんてノーサンキュー。
それならまだ道端に生えているお花さんに話しかけたほうが、よっぽどステキ。
そこまで言い切ったルーシーさん。
あっちの世界もこっちの世界も、二つのアカシックレコードに自由にアクセスできる彼女からすると、人間種とはそういう位置づけらしい。
かなりの酷評。けれども、ふしぎと腹が立たないのは、自分でも心の内にて納得しているからであろうか。
とりあえずルーシーさんの言うとおりとして、ふと新たな疑問が浮かぶ。
だったら、なんでわざわざそんな劣等種を呼び寄せたんだろう? 送料だってタダじゃないよね?
異世界を渡ると勝手に発現するスキルはともかく、三千ものギフトを用意するのって、すっごくたいへんそうだし。
「おそらくですが、たぶん未完成、不完全ゆえかと」
「どういうこと? 出来損ないのほうが都合がいいとか」
「その解釈で間違いありません。ギフトやスキルなどを付与したり開花させるには、それを受け入れる余裕が必要になります。完全体に近い生命体ほど存在中に無駄なところなんてありませんけれども、その点、人間は中身スッカスカにつき、詰め放題」
「ってことは、勇者って基本的に人間種?」
「アカシックレコードの情報ではいちおうそうなっていますね」
なるほど、優秀だから選ばれたのじゃなくって、不良品だから選ばれたのか。だからポイポイ放出されたと。
特進クラスの一組二組の連中が知ったら、きっと泣くな。
よし、面白そうなので、機会があれば勘違いしている連中に教えてあげるとしよう。
と、そうこうしているうちに、オービタル・ロードの猛烈運動会もそろそろ終わりに近づいていた。
今回は赤組の勝利のようだ。
「さて、では挨拶に向かいますか」
「了解しました、リンネさま」
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