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009 優良種

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 現在、わたしたちはこっそりと地上に戻っている。
 場所はこの世界最大のゼノタイム大陸。
 ここだけで地球の六大陸をぜんぶ合わせたよりも、なおデカい。
 そんなところの南端には広大な樹海が存在している。
 バベルの塔みたいなごつい木が乱立しており、ここに生息するモンスターたちは、みな巨体にて、人外魔境が過ぎるあまり、ほとんどの種族が敬遠している地。
 絶賛活動中の魔王軍ですらもが近寄らないらしいので、よっぽどなのだろう。
 そんな場所にわざわざ足を運んだ目的は、とある種族と接触するため。
 ルーシーがいろいろ調べた情報を精査して、今後の方針を検討した結果、とりあえず協力者を集めようということになった。
 そしていくつか候補をあげたうちの、一つがこれから会おうとしている種族。
 世界はこんな状態だし、誰が敵で誰が味方なのかもわからない。
 同じ人間だからとか、同じ勇者だからとか、同じ世界出身だからとか、寝ぼけたことを言っていたら、きっと寝首をかかれ即昇天。そんなのは絶対にイヤ。
 だが何よりも女神がこんな状況を産み出した意図が不明という点が、わたしはこわかった。
 なんとなくだが、そこはかとない悪意のようなものが根底に漂っている気がする。
 となると最悪、ゆくゆくは女神とことを構える可能性も否定はできないわけだ。
 で、現状、ぶっちぎりの武力を誇るリンネ軍団だが、それでもルーシーは「むずかしい」と言った。

「腐っても相手は神ですから。この世界を大きな水槽に例えるならば、その中でせこせこ生きているのがワタシたち。そして水槽を外から管理しているのが女神イースクロアとなるわけです。水槽の中の小魚どもがいくらビチビチ跳ねたところで、あちらは痛くもかゆくもないでしょう」

 つまり現状では、わたしたちの拳はまだまだ性悪かもしれない女神さまには届かないということ。
 すべては相手の出方次第。この先どう転ぶかはわからない。
 だからこそ、もしものときに備えておきたい。
 かなわないかもしれないが、チャンスが巡ってきたときに、最高にして最強の一撃を放ち一矢報いるためには、力がいる、知恵がいる、仲間も欲しい。
 そのための協力者の選定。
 で、ルーシーが吟味に吟味を重ねた末に、第一の接触相手として選んだのが……。

「ぎちぎちぎち、ジー、ジー、ミーン、チチチ」

 鳴いているよ。
 夏でもないのに元気よくセミが。
 わたしはいま、二メートルほどもある大きなセミたちと対面している。
 彼らこそがルーシーが協力者に選んだグランディア・ロードと呼ばれる種族の人たち。
 見た目はまんまデカいセミだ。
 虫嫌いの人がみたら卒倒しそうな姿。わたしとて健康スキルによる神鋼精神がなければ、ちょっとヤバイかも。
 だがこう見えて、彼らはこの世界ではかなりの上位に位置する優良種とのこと。
 ノットガルドの世界ではじつに多種多様な人たちが文明を築き生活している。
 なお、ルーシー調べによって、残念ながらファンタジーの定番たる獣人なんてモノは存在していないことが早々に判明している。
 ワーウルフなムキムキ戦士とか、キャットなセクシーお姉さん、魅惑のバニーガールもいない。
 獣耳フリークには酷な世界なのだ。
 召喚された勇者のうちの何割かは、きっと慟哭したにちがいあるまい。
 そもそもな話、獣が人間の体を持つメリットが、この世界にはなかった。
 なぜなら魔法や魔力といった謎パワーが存在しているから。
 つまり五本指の手や腕を持つ必要性が乏しいのである。手で出来ることは魔法で代用できる。火も起こせるし、水も出せる、物質の加工も可能にて、テレパシーみたいな念話を使えば言葉や種族の壁もあっさり越えられる。
 人型である意味がないのならば、四つ足の獣は、そのままの形態の方が十全の力が発揮できるというもの。
 イヌやクマがいくら二足歩行をしたところで、かわいいけれども、しょせんは劣化ものまね。車で片輪走行しているようなもの。
 かなり人間に近いサルですらもが、あんな感じなのだから、当然といえば当然の帰結。

 で、見た目はセミだけど、とっても優秀なグランディア・ロード。
 思慮深く、知識が豊富にて、魔法を巧みに使いこなす、賢人として名高き者たち。
 でも無用な殺生や争いを嫌い、森の奥にてひっそりと暮らしていた。
 そんな方々が、手土産も持たずにいきなり訪問したというのに、わたしと対面するなり深々と頭を下げて、恭順の意を示す。
 協力うんぬんどころの話ではない。
 そのまま奴隷にでもなりそうな勢いにて、こちらがかえって困惑。
 すると彼らの代表者が念話にて、頭の中に直接、話しかけてきた。

《魔王を討伐し、宙からあらわれた恐怖の大王をも葬った貴女さまこそが救世主。どうか我々をお導きください》

 セミな見た目に反して、落ち着いた口調と渋い声音。
 どれぐらい渋いかというと、風呂上りにワイングラス片手にバスローブが似合うくらいの渋さ。
 どうやら彼らは優秀であるがゆえに、宙の上から迫る脅威をも察知していたみたい。
 それですっかりこの世の終わりだと、諦めていたところに、ふいにあらわれたのが宇宙戦艦「たまさぶろう」を駆るわたしであったと。
 あの目玉のお化けって、とんでもないヤツだったんだな。
 そりゃあカンストだとおもわれたレベルもガンガンあがるか。
 グランディア・ロードたちは、わたしどもの活躍の一切合切を感知していたようにて、訪問するなり平身低頭。
 おかげで楽に協力者をゲットできたわたしたち。
 とりあえず連絡用にルーシーの分体であるビスクドールを一体、進呈して友好の証とし、「今後ともよろしく」と固い握手を交わす。
 節々した見た目に反して、その手はちょっと柔らかくて温かかった。


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