わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

文字の大きさ
上 下
6 / 298

006 残念なおしらせ

しおりを挟む
 
 いまは戦時下、よって物資は大切、いくらあっても困ることはない。
 そもそも異世界のぽっと出の即席勇者に頼るぐらいにたいへん。
 食糧やら物資不足やら価格高騰やら、いろいろあるから野盗が増えるんだよね? だったらやっぱり資源は貴重だとおもうの。
 何よりモノに罪はない。
 森でのファーストコンタクト。
 あれは失敗した。考えなしに丸ごと焼いてしまったから。
 ちょいちょいゲーム仕様なんだったら、敵を倒したらアイテムポロリもオマケしてくれればよかったのに。
 でも今度は大丈夫。全員、キレイに始末した。おかげで戦利品はほぼ無傷で手に入る。吐しゃ物の汚れは洗えば落ちるから問題なし。
 剣や武器の類はすべて没収。
 鎧は質の悪い革製ばかりにて、ろくなのがなかった。よし、金具だけむしろう。
 がさごそと懐を漁れば、コインが入った小袋がいくつか。全部まとめても袋がパンパンにならない。

「ちっ、しけてやがんなぁ」
「こんなものですよ、リンネさま。そもそも大金をもってたら徒党を組んで野盗なんてしませんから」
「それもそうか。まぁ、金属類は溶かせば再利用できるし、治安がちょっぴりマシになっただけでも良しとしますか」

 ルーシーと仲良くせっせと回収作業に勤しみ、まとめてから亜空間に放り込んでいく。
 あとで換金するなり、提供するなりするとしよう。
 ようやく仕事を終えてから、わたしはちょいと首をかしげる。

「とはいえ、いかに戦争中でも、ちょっと治安が悪すぎない? かりにも王都への道すがらの街道筋。そこに百人単位ってのは、さすがに規模が大き過ぎるでしょう」
「言われてみればたしかに。しばらくお待ちください。こちらの世界のアカシックレコードにアクセスしてみますので」

 言うなり青い瞳を閉じて、ガクリとうなだれたビスクドール。
 ちなみにアカシックレコードとは、世界ごとのデータベースみたいなもの。
 もちろん一般には非公開にて神のみぞ知る。
 なのにそれにアクセスできるというルーシーさん。
 富士丸といい彼女といい、じつはかなり高スペック。ギフト争奪戦のおりに、もう少し自己アピールをしていれば、絶対に売れ残ることはなかったとおもうのに。
 ひょっとしたら優秀なのに面接とかで、失敗しちゃうタイプなのかもしれない。

 ルーシー、三分ほどで再起動。
 そしてとっても残念なおしらせ。

「どうやら事前に提供されていた情報と、現状にかなりの齟齬があるようです」
「へっ?」
「こちらの世界にて魔王が軍勢を率いて猛威をふるっていたのは事実ですが、それを起点としてただいま世界大戦の真っ盛りです。戦国乱世の群雄割拠にて、どこもかしこも戦争に明け暮れていますので、治安維持なんてやってる余裕がないところがほとんど。といった状況です」
「おぅ、そいつはひどい……。あっ! でも魔王はもう死んじゃったわけだから。戦争もじき終局に向かうんじゃないのかなぁ」
「いえ、それはありえません」

 わたしの希望はルーシーにあっさり否定された。
 魔王が消えたからとて、世界第一の勢力を誇る魔王軍そのものが消えたわけではない。
 しばらく混乱こそは発生するが、いずれ後継者が台頭。もしくは内乱状態に突入? とにかく世界情勢は一層の混迷の度合いを深めるとのこと。
 また共通の巨大な敵が消失したことが発覚すれば、これまでそちらに向いていた軍事力が次に向かうのは自国周辺になるそうな。
 それに良くも悪くも戦争で回っていた経済が、いきなり日常体制に移行とかできない。
 子どものケンカと違って、頭を倒したら即終了とはいかないのが大人のケンカ。外堀を埋めることなく、外野や周囲を放置して、いきなり本丸をドカンとやっても、終結にはつながらないらしい。
 あまりのことにわたしは天をあおぎ「アウチ!」とさけぶ。
 が、ルーシーさんからのとっても残念なおしらせの本番は、これからであった。

「じつは現在、この世界にはリンネさまを含めて三千人もの勇者たちがひしめいているようです」

 はい? いまなんて言った。
 チート勇者が三千人。
 八十人でも多いんじゃないのかなぁ、とか思ってたのに。
 だったら、わたし、いらないよね? 一人ぐらい足らなくても問題なかったよね?

「いるいらないはともかく、これは明らかに異常な数字です。この世界の女神が、いろんな次元からかき集めたようですが、問題なのはそれらを各国に分配するかのようにして、強制的に振り分けていることでしょうか」

 ギフトとスキルを持つ異世界渡りの勇者たち。
 それすなわち超人兵器なり。
 それを世界中に均等に振り分ける。一見するとよさげだが、もたらす結果は最悪。
 各国が強大な軍事力を安易に手に入れたいま、こと武力面に関しては条件がほぼ横並び。
 単純な国力が優劣とはならない。小国が大国に媚びる理由もなくなり、また大国がこれまでどおりの立場ではいられなくなる。国家間の付き合いや、あり様が一変する。
 弱者と強者の垣根が一気に消えた。
 平等イコール平和なんぞではない。
 ただでさえ混迷している時代に、さらなる混乱を加えるかのような行為。世界大戦が加速する。
 ノットガルドを救うための勇者召喚が、これでは逆に世界をよりいっそう荒廃させ、破滅へと導く存在となりかねない。

「ここの女神さまはいったい何を考えているのかな?」
「現時点ではなんとも。ただ事前に情報を伏せて偽っていたことなどから、目的は不明ながら確信犯なのはまちがいないかと。こうなるとリンネさまも、今後の身のふり方を再検討すべきかと思われます」
「あー、このまま迎えと合流したら、そのまま国にとり込まれて軍事利用されちゃうもんね。さすがにそれはイヤかなぁ」
「なにをのん気なことを。お忘れのようですがリンネさまは魔王討伐者です。個人にて世界最強の武力を有し、レベルはほぼカンスト、全勇者の中でもぶっちぎりの存在なんですよ。ある意味、一番、次期魔王に近いのはリンネさまなのですから」
「まじでかっ!」
「バレたら面倒なことになるは必定。いまは逃げの一手ですね」
「よし、いまこそ富士丸で空をギューンと」
「いえ、それなら、たまさぶろうを推奨します」
「えっ、でもあの子、小さなサメのぬいぐるみだよ」
「まぁ論より証拠。とりあえず呼び出してくださればわかりますので」

 言われるままに、たまさぶろうを召喚。
 そしたら空間から超巨大な宇宙戦艦みたいなのが出現した。
 全体のフォルムはジョーズ。ただし背中には艦橋がついており、あちこちに巨砲などの武装がゴテゴテ換装されてある。
 とにかくデカい。全長百メートルぐらいはあるかも。

「えーと、これって、たまさぶろう?」

 呆気にとられるわたしに、「イエス」とルーシー。
 主人のレベルが大幅にあがったので、しもべのレベルもグングンアップ。もともと移動を補佐する機能を持ったぬいぐるみが、とんでも進化でこうなった。
 感覚的には三輪車が最新鋭の軍艦になっちゃった、みたいな。
 なんだか本当に宇宙の海もすいすい渡れそうだな。
 えっ、渡れるんですか、そうですか。ははは、えらいぞ、たまさぶろう。
 こうして宇宙戦艦「たまさぶろう」の艦長に就任した、わたくしことアマノリンネ。
 しばし俗世から距離をとるべく、異世界の大空へと旅立つ。


しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。 大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう! 忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。 で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。 酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。 異世界にて、タケノコになっちゃった! 「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」 いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。 でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。 というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。 竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。 めざせ! 快適生活と世界征服? 竹林王に、私はなる!

冒険野郎ども。

月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。 あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。 でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。 世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。 これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。 諸事情によって所属していたパーティーが解散。 路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。 ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる! ※本作についての注意事項。 かわいいヒロイン? いません。いてもおっさんには縁がありません。 かわいいマスコット? いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。 じゃあいったい何があるのさ? 飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。 そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、 ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。 ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。 さぁ、冒険の時間だ。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

処理中です...