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006 残念なおしらせ
しおりを挟むいまは戦時下、よって物資は大切、いくらあっても困ることはない。
そもそも異世界のぽっと出の即席勇者に頼るぐらいにたいへん。
食糧やら物資不足やら価格高騰やら、いろいろあるから野盗が増えるんだよね? だったらやっぱり資源は貴重だとおもうの。
何よりモノに罪はない。
森でのファーストコンタクト。
あれは失敗した。考えなしに丸ごと焼いてしまったから。
ちょいちょいゲーム仕様なんだったら、敵を倒したらアイテムポロリもオマケしてくれればよかったのに。
でも今度は大丈夫。全員、キレイに始末した。おかげで戦利品はほぼ無傷で手に入る。吐しゃ物の汚れは洗えば落ちるから問題なし。
剣や武器の類はすべて没収。
鎧は質の悪い革製ばかりにて、ろくなのがなかった。よし、金具だけむしろう。
がさごそと懐を漁れば、コインが入った小袋がいくつか。全部まとめても袋がパンパンにならない。
「ちっ、しけてやがんなぁ」
「こんなものですよ、リンネさま。そもそも大金をもってたら徒党を組んで野盗なんてしませんから」
「それもそうか。まぁ、金属類は溶かせば再利用できるし、治安がちょっぴりマシになっただけでも良しとしますか」
ルーシーと仲良くせっせと回収作業に勤しみ、まとめてから亜空間に放り込んでいく。
あとで換金するなり、提供するなりするとしよう。
ようやく仕事を終えてから、わたしはちょいと首をかしげる。
「とはいえ、いかに戦争中でも、ちょっと治安が悪すぎない? かりにも王都への道すがらの街道筋。そこに百人単位ってのは、さすがに規模が大き過ぎるでしょう」
「言われてみればたしかに。しばらくお待ちください。こちらの世界のアカシックレコードにアクセスしてみますので」
言うなり青い瞳を閉じて、ガクリとうなだれたビスクドール。
ちなみにアカシックレコードとは、世界ごとのデータベースみたいなもの。
もちろん一般には非公開にて神のみぞ知る。
なのにそれにアクセスできるというルーシーさん。
富士丸といい彼女といい、じつはかなり高スペック。ギフト争奪戦のおりに、もう少し自己アピールをしていれば、絶対に売れ残ることはなかったとおもうのに。
ひょっとしたら優秀なのに面接とかで、失敗しちゃうタイプなのかもしれない。
ルーシー、三分ほどで再起動。
そしてとっても残念なおしらせ。
「どうやら事前に提供されていた情報と、現状にかなりの齟齬があるようです」
「へっ?」
「こちらの世界にて魔王が軍勢を率いて猛威をふるっていたのは事実ですが、それを起点としてただいま世界大戦の真っ盛りです。戦国乱世の群雄割拠にて、どこもかしこも戦争に明け暮れていますので、治安維持なんてやってる余裕がないところがほとんど。といった状況です」
「おぅ、そいつはひどい……。あっ! でも魔王はもう死んじゃったわけだから。戦争もじき終局に向かうんじゃないのかなぁ」
「いえ、それはありえません」
わたしの希望はルーシーにあっさり否定された。
魔王が消えたからとて、世界第一の勢力を誇る魔王軍そのものが消えたわけではない。
しばらく混乱こそは発生するが、いずれ後継者が台頭。もしくは内乱状態に突入? とにかく世界情勢は一層の混迷の度合いを深めるとのこと。
また共通の巨大な敵が消失したことが発覚すれば、これまでそちらに向いていた軍事力が次に向かうのは自国周辺になるそうな。
それに良くも悪くも戦争で回っていた経済が、いきなり日常体制に移行とかできない。
子どものケンカと違って、頭を倒したら即終了とはいかないのが大人のケンカ。外堀を埋めることなく、外野や周囲を放置して、いきなり本丸をドカンとやっても、終結にはつながらないらしい。
あまりのことにわたしは天をあおぎ「アウチ!」とさけぶ。
が、ルーシーさんからのとっても残念なおしらせの本番は、これからであった。
「じつは現在、この世界にはリンネさまを含めて三千人もの勇者たちがひしめいているようです」
はい? いまなんて言った。
チート勇者が三千人。
八十人でも多いんじゃないのかなぁ、とか思ってたのに。
だったら、わたし、いらないよね? 一人ぐらい足らなくても問題なかったよね?
「いるいらないはともかく、これは明らかに異常な数字です。この世界の女神が、いろんな次元からかき集めたようですが、問題なのはそれらを各国に分配するかのようにして、強制的に振り分けていることでしょうか」
ギフトとスキルを持つ異世界渡りの勇者たち。
それすなわち超人兵器なり。
それを世界中に均等に振り分ける。一見するとよさげだが、もたらす結果は最悪。
各国が強大な軍事力を安易に手に入れたいま、こと武力面に関しては条件がほぼ横並び。
単純な国力が優劣とはならない。小国が大国に媚びる理由もなくなり、また大国がこれまでどおりの立場ではいられなくなる。国家間の付き合いや、あり様が一変する。
弱者と強者の垣根が一気に消えた。
平等イコール平和なんぞではない。
ただでさえ混迷している時代に、さらなる混乱を加えるかのような行為。世界大戦が加速する。
ノットガルドを救うための勇者召喚が、これでは逆に世界をよりいっそう荒廃させ、破滅へと導く存在となりかねない。
「ここの女神さまはいったい何を考えているのかな?」
「現時点ではなんとも。ただ事前に情報を伏せて偽っていたことなどから、目的は不明ながら確信犯なのはまちがいないかと。こうなるとリンネさまも、今後の身のふり方を再検討すべきかと思われます」
「あー、このまま迎えと合流したら、そのまま国にとり込まれて軍事利用されちゃうもんね。さすがにそれはイヤかなぁ」
「なにをのん気なことを。お忘れのようですがリンネさまは魔王討伐者です。個人にて世界最強の武力を有し、レベルはほぼカンスト、全勇者の中でもぶっちぎりの存在なんですよ。ある意味、一番、次期魔王に近いのはリンネさまなのですから」
「まじでかっ!」
「バレたら面倒なことになるは必定。いまは逃げの一手ですね」
「よし、いまこそ富士丸で空をギューンと」
「いえ、それなら、たまさぶろうを推奨します」
「えっ、でもあの子、小さなサメのぬいぐるみだよ」
「まぁ論より証拠。とりあえず呼び出してくださればわかりますので」
言われるままに、たまさぶろうを召喚。
そしたら空間から超巨大な宇宙戦艦みたいなのが出現した。
全体のフォルムはジョーズ。ただし背中には艦橋がついており、あちこちに巨砲などの武装がゴテゴテ換装されてある。
とにかくデカい。全長百メートルぐらいはあるかも。
「えーと、これって、たまさぶろう?」
呆気にとられるわたしに、「イエス」とルーシー。
主人のレベルが大幅にあがったので、しもべのレベルもグングンアップ。もともと移動を補佐する機能を持ったぬいぐるみが、とんでも進化でこうなった。
感覚的には三輪車が最新鋭の軍艦になっちゃった、みたいな。
なんだか本当に宇宙の海もすいすい渡れそうだな。
えっ、渡れるんですか、そうですか。ははは、えらいぞ、たまさぶろう。
こうして宇宙戦艦「たまさぶろう」の艦長に就任した、わたくしことアマノリンネ。
しばし俗世から距離をとるべく、異世界の大空へと旅立つ。
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