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002 元気に密輸
しおりを挟む地面に転がる十二の黒い塊。
すっかり焼け焦げてしまった男たちのなれの果て。
ひと差し指型火炎放射器。
悪魔の兵器と呼ばれるだけあって、すごい火勢だな。
高威力にてファイヤーダンスの見世物はすぐに終わった。
ひどいあり様だ。
汚物はどこまでいっても汚物にしかならないらしい。
あと使っておいてなんだけど、あえて言うよ。
こんなの発明して実戦投入とか、地球人類ってば、賢いけどバカだろう。
……にしても、焼死体をまえにしての、この不遜な態度。
我ながら、これはいささか異常が過ぎるのではなかろうか?
周囲に漂う臭気にフンと鼻を鳴らし、わたしは隣にいるルーシーに声をかけた。
「我、説明を求む」
「了解しました。まずリンネさまのスキル『健康』、これは文字通りの意味にて。いかなるときにも健やかにすごせる異能です。だから殺人、放火、焼死体程度では鋼どころか神鋼の精神はびくともしません」
ルーシーさんの言うとおり。
黒炭死体をまえにしても、わたしは平然としている。
生きながら焼かれるとは、まっこと悲惨な死に方である。
溺れて死ぬのは苦しいと何かの本で読んだ記憶はあるが、火にまかれて死ぬのも大概だな。
これほどの凄惨な場面を間近で直視しているというのに、心がまったく動じない。
うら若き元女子高生ならば、ここは一発、「きゃあ」と小粋な悲鳴のひとつでもあげるべき。
なのに悲鳴どころか、吐き気のひとつも感じないとはね。
いかに相手が野盗の類にて、森の奥で困っている女の子の姿を見つけるなり、股間を膨らませて、「げへへ、お嬢ちゃん、オレたちがたっぷりかわいがってやるぜ」「人形遊びなんぞより、もっとたのしい大人の遊びを教えてやるよ」なんぞと、刃物片手にほざいた下種野郎たちだとしてもだ。
男たちを自分の手で焼き殺したという事実を加味すれば、奇妙どころの話ではない。
これが健康スキルの効果……。
むむむ。スキルとはわたしが考えていた以上に、すごいものなのかもしれない。
「へー、ところで神鋼ってなに?」
「リンネさまの世界でいうところの、オリハルコンとかいう空想上の物質が適当でしょうか。とにかく何だかすごい金属のことです」
そうか、わたしの精神は神話級にカチンコチンなのか。
ははは、何を言われても動じない。
なぜならわたしは体も心も健康だから。
だからサクサク次の質問へいってみよう。
「なるへそ……、で、なんで指から火炎放射器? ひょっとして魔法とか?」
「そちらはリンネさまがもぎとった武器獲得の権利のせいです。ブツを密輸するために、体にいろいろ埋め込まれたようです。もとの世界の神さま、どうやらかなり無茶をしたみたいですね」
「人体に武器を仕込んでの密輸って……」
健康であるはずのわたしの精神がくらっと、やや揺らぐ。
それだけ話が大ごとだということなのだろう。
そういえばジジイのやつ、最後までルール違反がどうとかゴネていたな。
なのにルーシーは、さらにとんでもないことを口にした。
「なお健康スキル持ちの体に武器をいくつも埋め込むという暴挙をやらかしたせいで、リンネさまの体は、まるでアニメに登場するサイボーグ戦士のような状態なので、あしからず」
怪我も病気も毒もへっちゃら。
なんでもかんでも健康のひと言で片づけられる肉体と精神の持ち主。
武器密輸の一件がなくても、元からロボットもどきだったらしいと知って、わたしは心の底から悔やんだ。
どうしてあのとき、神さまを名乗るあのクソじじいを一発殴らなかったのかと。
ここは剣と魔法のファンタジーとのことだが、何の因果か、わたしだけSF仕様。
しかも初っ端から野盗でファイヤー。
とにもかくにも、こうして始まる異世界生活。
なお一方通行につき帰れないんですってば!
まったくもってロクなもんじゃねぇ!
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