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華々しく婚約破棄するシーンを目撃した令嬢たちは……。
しおりを挟む六年間の貴族院での教育過程を終え、卒業式もつつがなくすみ、残すは卒業記念パーティーのみ。
歓談のあとのダンスも何曲か終わって、ほどよく場が熱を帯びてきたときに、事件は起きた。
「ディアンヌ・ド・クロムウェル、わたしはお前との婚約を破棄する」
王国の華と謳われる公爵家の令嬢に向かって、衆人環視の中にて暴挙を行ったのはライナー皇太子。彼のかたわらには、どこか男の庇護欲をそそる雰囲気の女性の姿があった。
皇太子の一方的な言い分に耳を傾ければ、なんでもディアンヌがたびたび、あの女性に嫌がらせをくり返し、あまつさえ命をも狙ったという。
なんという卑怯卑劣、そんな穢れた魂を持つ者は、とても王妃の座にふさわしくない。
よってここにきさまを断罪し、これをもって婚約解消とする。
「わたしは真実の愛を見つけた。我が隣にはこのイレーヌこそがふさわしい」
臆面もなく高らかに宣言する皇太子。
まるで舞台上の役者のよう。
けれども、この光景を目撃した令嬢方は、みないちように眉をひそめて……。
「どう思われますか? このたびの仕儀」
「どうもこうも、ディアンヌ様とあのぼんくらの婚姻は、そもそも王からのたっての要望であったと記憶しておりますが」
「長いこと対立が続く王家派と貴族派の雪解けとなるため、でしたかしら」
「ええ、なのにあの方ときたら。そのことを理解していらっしゃるのかしら」
「あの様子ではしてないのでしょうよ。そもそも真実の愛を見つけたとか、頭がお花畑にもほどがありますわ」
「さまざまな恩恵を受ける立場。その意味をまるで理解しておられない」
「あんなのが次の王ですのね。この国も先行きが危ぶまれますわ」
「いえ、その心配はないかと。たぶん、というかほぼ確実に内乱へ突入しますから」
「となれば、まちがいなく貴族派が勝つでしょうよ」
「あら、どうして? 息子はアレですけれども王はそこそこ優秀ですのに」
「次世代がアレなのに、誰が従うというの」
「あー、それに隣でほくそ笑んでいる女も下級貴族の出ですから、なんの後ろ盾もありませんわね」
「っていうか、人の婚約者を寝取る時点で論外でしょうに」
「よくもあそこに堂々と立てたものね。ものすごい面の皮の厚さだわ」
「対して国内最大派閥を抱える公爵家の姫君であらせられるディアンヌ様は、完璧な淑女。貴族院でもずっと成績はトップをキープしており才気煥発。見た目よし、家柄よし、人柄よしにて、まるで神々に愛されたような御方。どちらにつくかなんて考えるまでもありませんわ」
「ですわよねえ。っというか、むしろ今回の婚約破棄を歓迎している殿方も多そうですわね」
「その方々もこぞって彼女の下へと駆けつけるでしょうから、勝負は火を見るよりも明らか」
「あー、終わった。王家終わった」
「せめてラインハルトさまがご存命であらせられれば」
「本当にねぇ」
「出来のいい長男が落馬事故で亡くなり、出来の悪い次男が残ったのが運の尽き」
「やっぱり跡取りは大事よね。わたくしも肝に銘じておかねば」
「落馬事故といえば知っておりますか? じつは……」
「えーっ! あのウワサってば本当だったの」
ずっと宮廷に燻っていたとあるウワサ。
それは現王妃が先代王妃を毒殺し、その息子であるラインハルトをも亡き者にしたというもの。
これまではあまり大っぴらには話せなかった話題にて、ひとしきり盛り上がったお嬢さま方。
じきに一人が言った。
「さてみなさま、お名残りはつきませんが、この辺で失礼します。いろいろと準備を整えないといけませんので」
それを皮切りに「自分も」「わたくしも」とパーティー会場から続々と姿を消した貴族の子息子女たち。
婚約破棄を言い渡されたディアンヌ・ド・クロムウェルも、特に反論することなく颯爽とパーティー会場を後にした。
残ったのはライナー皇太子ほか、わずかばかり。
◇
卒業記念パーティーにて婚約破棄騒動が起こってから七日目。
王の願いもむなしく、王家派と貴族派の話し合いは決裂。
翌明朝、内乱が勃発するもわずか半日ばかりで終結。
クロムウェル公爵家率いる貴族派の大軍勢が、王城をとり囲みこれを無血開城。
己が不明を恥、責任をとって妃を刺し、自身も毒杯をあおろうとした王。
しかしクロムウェル公爵はそれを止めて、終生遠島を申し渡した。
そして……。
「やめろ! 離せっ! 無礼者っ! このわたしを誰だと思っている。この国の皇太子ライナーだぞっ!」
「いやーっ、どうしてわたしがこんな目に。ただ、しあわせになりたかっただけなのにーっ」
王都内の広場に二つ並べられたギロチン台。
真実の愛とやらで結ばれた二人は、生まれた時と場所はちがえども、最期は仲良く逝きましたとさ。
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