神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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152 忘れられし女神編 それぞれの明日へ

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「うーん、この格好で実家に戻ったら、シスコン気味のお兄ちゃんが暴走しそうで怖いからやめとく。だからいまの場所でお願い。それにこっちの世界にも色々と繋がりが出来ちゃったしね」

 せっかくの提案だったけど、私はいまの世界を選ぶ。
 後悔は……、ちょっぴりあるさ。
 大なり小なり未練がタラタラとつきまとう。人生の選択なんてそんなもんだろ。スパッと割り切れたら、誰も苦労なんてしちゃいないよ。

 女神さまが両手をかざす。
 何もないはずの空間に、二つの大きな扉が向かい合わせに現れた。
 一つは師匠や王子らが待つ、私たちの世界へと通じる扉。
 一つは長い旅路へと赴く、女神シイハやルギウスたちが通る扉。

 笑顔で別れようとするも、どこか憂いを帯びた艶めかしい表情をみせる女神シイハ。
 なんでも自分という神の残滓すらもなくなった世界の先行きを考えると、どうしても、ということらしい。なんとも心配性な女神さまである。
 でもこんな女性だからこそ、神々を敵に回してまで闘ってくれたんだろうな。
 だから私は元気よく言ってやった。

「大丈夫だから安心して行きな。ほら、見なよ。あんたが守ろうとした世界の連中を。こんなにも逞しいんだから」

 開いた扉の向こうに待つヒトたち。
 大扉が繋いだ先はハムート国の陣営の中、そこにはイクロス王子やハウンド師匠ら、主だった面々が勢揃いしていた。

「じゃあね」

 扉を通り自分の世界へと戻ろうとする私に、女神シイハが声をかける。

「それじゃあ、お任せしますね」

 振り返ることなく黙って手を振って応える。
 私がみんなのところに戻ると、扉は静かに閉まって、空間に溶けて消えた。



「ただいまー」

 突然に大きな扉が現れたと思ったら、中からよく見知った白いワンピース姿の少女がひょっこり出て来たので、みんなが面喰らう。
 いち早く我に返り動いたのは、残念なことにジンとレプラの変態騎士コンビであった。
 包帯グルグルの体のくせして、奇声を発しながら遠慮なしに突進してくる二人。これを華麗にひらりとかわす。

「ヨーコ、その腕は」

 目敏いハウンドさんに早くも気づかれたので「師弟揃ってお揃いですね」とおどけてみせたら、横合いからラマンダさんにきつく抱き締められた。

「あぁ、なんてこと。可哀想に」

 バインバインの双丘が私の呼吸器を完全にふさぐ。あまりの圧に危く逝きかけたところを、救い出してくれたのはイクロス王子。

「無事……とは言い難いが、とりあえずよく戻った。その分ではケリがついたようだな」

 王子の問いにニパっと笑って肯定。
 と、ちょうどおやっさんも駆けつけてきたので、義手の制作をお願いしておく。あとバイクも。デュラハとの一戦に巻き込まれてお亡くなりになったので。

「まかせておけ。最高の義手をこさえてやる。ところでどんなのにする?」
「せっかくだし、なにか仕込みたいよね。剣とか魔導銃とか。ロケットパンチも捨てがたい」
「ロケットパンチ?」

 地面にしゃがみ込んで、どんなものかと落書きしつつ教えると、おやっさんの目がキラリと光った。
 私とおやっさんが、あーでもない、こーでもないと、義手制作談義に華を咲かせているうちに、まもなく世界大戦は終結する。

 ギガヘイルの首領および幹部連中は軒並み倒れ、主力は失われ残るは烏合の衆。
 残党狩りにも等しい殲滅戦にハムート軍は参加しなかった。すでに魔甲騎兵団が半壊状態であったからである。無事な機体が数えるほどという有様では、参加したくとも出来なかったのである。
 国としての武威は戦の最中に、イクロス王子やみなが嫌ってほど示したらしいので、とくに文句を云われることもなかった。
 というか、手柄総取りに近いので、これ以上は遠慮してくれというのが他国の本音みたい。

「これでちったあ、世界も落ち着くのかなあ」

 引き上げ準備に追われる面々を眺めつつ、やれやれと背伸びをする私。
 だというのに王子が不穏な言葉を口にする。
 
「一時的にはな。だがすぐにあちこちで騒動が起こるだろう」

 良くも悪くもギガヘイルの影響が残るんだそうな。
 ひとつは技術、怪人は死ぬと爆ぜたり泡となって消えちゃうので問題ないのだが、鹵獲された敵機や残骸、ゴーレムなんかから得られるモノはけっして少なくないという。モンスターを操る術があるらしいとも露見した。これらを巡る各国の思惑なんかもあって、世界は新たな時代を迎えることとなる。
 というのは王子の大方の予想。

「またまたそんなー」

 そう言って笑ってすませられないところが悩ましい。私が前にいた世界でも、科学の発展が新たな火種となる側面があったんだよねえ。
 女神シイハは去り、真なる意味にて神無き時代を迎えるこの世界の住人たち。
 はてさて、どうなることやら。


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