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150 忘れられし女神編 ラストホープ
しおりを挟むドラゴンの首が吐いた獄炎が視界を埋め尽くす。
女人の腕が雷の魔法を放つ。
これらをなんとかかわし、懐へ飛び込もうとする。
すると女神の目玉がギョロリと動いて、こちらとバッチリ目が合った。
「げっ! しっかり捕捉されている、やばい」
瞬間には怪物の背中の翼がはためく。
暴風が巻き起こり、クルクル翻弄される黒猫の着ぐるみ。
これを巨大な蛇の尾がペシリと叩いた。
もの凄いチカラにて吹き飛ばされ、きりもみにて壁面のモニター群に衝突。
「ぐえっ」
次元の壁はよほど頑強らしくヒビも入らない。が、かわりにこちらのダメージがキツイ。
前言撤回っ! 余裕なんて全然ねぇー!
女神の細胞に想念がどっさりと注ぎこまれた合成獣は、通常の巨大モンスターとは比べものにならないくらいに強い。猫目ビームの直撃を喰らって、体をズタズタにされても気にも留めやしない。しかもずんずん再生しやがる。
「こうなったらダメ元で大技を試すしかない」
高速回転する黒猫の着ぐるみが突っ込む。「猫爪スピン・マキシマム!」
怪物が放つ炎や電撃すらをも巻き込んだ螺旋エネルギーの塊が合成獣の体を貫き、巨大な穴を穿つ。勢いのままに軌道を曲げて右上方へと旋回の後に、再び突撃。
今度は頭上から爪を突き立て、その半身を切り裂き抉る。
回転を止めて振り返ると、そこには苦悶し暴れている怪物の姿があった。
「やったの?」
期待を込めてつぶやいた、その次の瞬間、怪物の胸部にあった女神の顔が、突然、にゅるんと這い出した。かとおもえばグンとのびる。
かつてないほどの、もの凄い速度にて這い寄る。
首は黒猫の着ぐるみの左腕に噛みつき、勢いのままにこれをブチンと喰い千切った。
血は出ない。でも気が狂いそうなほどの激痛に襲われて、私は絶叫をあげた。
苦しむ私を尻目に、美味そうに口の中のモノをくちゃくちゃと咀嚼する女神の首。よほどお気に召したのか、恍惚とした表情にて目元を細めている。
じっくりと味わった後に、ごくんと喉を鳴らして呑み込む。「もう終わってしまった」とでも言わんばかりに、少し寂し気な顔をする首。だがすぐにこちらを見て、まだまだ残りがあることに気がつくと、ニタリと嬉しそうな笑みを浮かべた。
凄惨な笑みを前にして、蛇に睨まれた蛙のように萎縮してしまった私。
でも猫目は逸らさない。
たぶんここで心が折れたら、きっと負ける。
しばし睨み合う両者、だがついさっきまで余裕を浮かべていた女神の首が、突如として苦悶の表情を浮かべたかと思えば、本体へと逃げるように戻っていく。
怪物の体が震えている。
「なんだ、なにが起こったんだ?」
よほど苦しいのかジタバタと怪物の巨体が暴れている。
ドラゴン首や胸部にある女神の口もとからは嘔吐を繰り返し、目や鼻などから体液をダラダラと垂らしている。ついには形状を維持できなくなり、ドロリと輪郭が崩れ始めた。
私は自身の痛みも忘れて必死に考える。
散々に攻撃を加えても平気だった奴が苦しんでいる、その原因はなんだ? なにがあった? 直前までの自分と奴の行動をよく思い出せ。
………………奴は私を食べた。ひょっとしてソレが原因なの?
私の魂と体は子どもの神さま印の特別製。
おかげさまにて、こっちに来てから病気知らず。あのクソまずいカニ肉を喰っても、腹さえ下さなかった。
単純に胃が丈夫なんだとか思っていたけれでも、もしかしてそんなレベルの話じゃなかったのかもしれない。もしも耐性とか抗体とかまで魔改造が施されていたとしたら。
毒と薬は紙一重って、むかしお母さんが言ってたっけかな。
ちらりと怪物を見る。
腕一本であの苦しみよう。
もしも全身を喰ったら、どうなるのかしらねえ。
「あー、まいった。でもしゃあないか。まさかラストホープが自分の体だったなんて、予想外にもほどがあるよ」
子どもの神さまの話じゃあ、いかなる事情があろうとも親より先に逝くと地獄行きらしい。自殺なんてもってのほか。でもこの場合はどうなるんだろう。世界を救うために我が身を投げ出す行為も、自殺扱いされちゃうのかなあ?
さすがにそれはちょっと納得がいかない。
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