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149 忘れられし女神編 次元回廊
しおりを挟むそこはふしぎな空間だった。
巨大な螺旋回廊がどこまでも続いている。そんな中をゆっくりと落ちていく。
落ちると思えば落ちるし、止まろうと思えば止まれる。でもやっぱり進んでいる。浮かんでいるのに沈んでいる。意識と体感に奇妙なズレがあって、なんだか落ち着かない。
壁面にはびっしりとテレビのモニターのような画面が無数に連なり、その一つ一つにて様々な光景が映し出されている。
いろんな世界、いろんな時代、いろんな文明、いろんな姿の人々、一家団欒などの生活の一部分を切り取ったかのような場面もあれば、思わず目を背けたくなるような凄惨な戦争が繰り広げられている場面もあった。なかには何も映し出されていない画面もある。アレは滅んでしまった世界なのだろうか。
「すごい……、ここが次元の狭間なんだ」
SFなんかではお馴染みの並行世界とかいう設定。選択のたびに絶えず世界は分裂を繰り返して無限に増えているとかいう話もあったけど。
この膨大な数を突きつけられたら、あながち間違ってもいなかったみたいだね。
小難しい理屈とかをすっとばして真理に辿りついちゃうんだから、ヒトの持つ想像力って、本当にたいしたもんだわ。
と、感心ばかりもしていられない。
先に来ているはずのアイツはどこ……っと、見つけた!
自分より遥か下の方にて蠢いている怪物を発見。
私は手足をすぼめて体を棒状にし、矢のごとくギューンと加速。ひと息に距離を縮める。充分に目視できるところまで近寄ったところで、猫目ビームを一発放つ。
光線が走り、ヘドロのような体の一部を貫通し破壊するのに成功した。
「よし! 同じ次元に居合わせさえすれば、こっちの攻撃が通るぞ」
目論み通りの展開にニヤリとする私。
だけど余裕があったのもここまで、どうやらいまの一撃にて完全に敵認定されてしまったらしい。
奴が猛然と反撃を開始する。
ばさりと一枚布のように広がる怪物の体。
表面より数多の触手が出現、こちらへと向かってきた。先端がヒトのような形状をしている。それはヒトそのもの、あるいはギガヘイルの怪人たち、なかには六柱の姿も混じっていた。それらが軍勢のごとく押し寄せてくる。
片っ端から猫パンチで払いのけ、猫キックで吹っ飛ばし、猫爪で斬り伏せる。
けれども潰れた端から再生しては、再び戦線に戻ってくる敵兵ども。
ちまちま相手をしていたら埒があかない。変身してマグロフォームにて「銀鱗舞(ぎんりんぶ)」を放ち一掃、再生が完了するまえに敵本体に「マグロ・ストリーム」をお見舞いし、続いてフクロウフォームにて「フクロウ・フェザーレイン」「フクロウ・ダウンバースト」をも直撃させることに成功するが……。
「ちっ、たいして効いちゃいないか」
雑兵や触手は無残に千切れ、多少は痛かったのか胸像の姿にて叫びの表情は見せてくれたものの、怪物本体はいまだ健在。
再び体の形状がのそりと変化していく。
現れたのは巨大モンスター。
ただし、かつて見たことがないほど醜怪なもの。
ベースの形状はドラゴン、だが下半身がクモ、胸の部分に女神の顔があり、背にはコウモリの翼、尻尾は蛇腹、そのくせ両腕だけが妙に艶めかしい女人のものが生えている。
まるでドレイク博士の産み出した怪人、その失敗作のような歪な姿。ヒトの本能に訴えかける何かがあり、眺めているだけで嫌悪と憎悪が募る。心がザワつく、冷静でいられない。だというのに波立つ心の一方で、驚くほど醒めた目で現実を直視している自分がいる。
ハウンド師匠との修行にて散々に「焦るな」「心を乱すな」と言われて続けてきた。
その意味をここにきて真に悟る。
どうしてこの形なんだろう?
いまさら巨大モンスターの合成獣?
そんな疑問の答えに、ピコンと閃く私の優秀な灰色の脳細胞。
巨大モンスター……。
それは私たちの世界にとっては、恐怖の象徴みたいなモノ。
そしてこの女神もどきには、実に多くのヒトたちの思念やら想念やらがドバドバ注ぎ込まれている。つまり彼女の中にて渦巻くもろもろが多数決をした結果、これが一番、強くて恐ろしい存在ということになったのであろうと推察される。
だがそいつは悪手だ。
なにせ私は対巨大モンスター戦のスペシャリスト。しかもキチンとした形をとってくれたおかげで、こちらの得意攻撃が存分にふるえるという嬉しいオマケつき。
ご都合主義の神さま、バンザイ!
いるのかどうかはわからないけれども、とりあえずお礼を云っておきます。「ありがとう」
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