神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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144 忘れられし女神編 ルギウスVS神造小娘 前編

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 なんら生き物の気配を感じない森を抜けて、小高い丘を登った先にある神殿へと足を踏み入れる。
 警備の兵の一人、怪人の一体すらもいやしない。
 本当にここが敵の本拠地なのかと疑いたくなるほどに、内部は静かで清浄な気で満ちている。
 幾つか部屋を抜けて、奥へと続く長い廊下を進んだ先の大広間に辿り着く。
 エメラルドグリーンをした巨大な水晶柱が淡い光を放っている。
 内部には静かに眠る女のヒトの姿がある。
 その前に佇む紅い甲冑の姿があった。
 ギガヘイルの首領、仮面の男ルギウス。

「なんとなくだが、ここまで辿りつける者がいるとしたら、それはおまえだと思っていた」
「光栄だけど、私としては、こんな所にまで来たくはなかったよ」
「そうか……、それは悪いことをした。だがせっかくだから、おまえも女神の糧となれ」

 ゆっくりと腰の剣を抜くルギウス。
 刀身は深淵の底より汲みだした闇を塗りたくったかのように黒い。
 こちらに突き出すかのように構えたと思ったら、次の瞬間には視界を埋め尽くすほどの無数の黒い刺突の影が、襲いかかってきた。
 剣の激流が黒猫を呑み込む。
 しかしただの一刀すらも私には届かない。即座にマグロフォームへとチェンジし、体表を覆うウロコを操作する「銀鱗舞(ぎんりんぶ)」にて、すべての剣撃を受け流す。
 お返しに、ウロコの刃の機銃掃射をお見舞いする。
 が、これはルギウスの剣により、すべて叩き伏せられた。
 黒剣の切っ先が頭上高く構えられ、僅かな溜めの動作の後に振り下ろされる。
 ゾクリと悪寒が走る。咄嗟に横っ飛びに動いたのは勘だ。
 転がりながら黒猫の着ぐるみフォームへと変じて態勢を整えると、猫目にありえない光景が映った。
 ルギウスの放った斬撃は、恐るべき一刀でもって神殿どころか、外の森をも遥かに超えて、浮島の一部をも切り落としていたのである。
 単に斬ったというよりは、空間ごと抉ったみたいな凄まじき攻撃。
 だというのに当人は自分の手の中にある愛剣を見つめて、信じがたい言葉を口にする。

「またチカラが落ちたか。かつては神をも殺した私の剣も、いまはこの程度……」

 理由はわからないが、当人的にはかなり弱体化しているみたい。それでもこの破壊力だというのだから堪らない。尻尾の毛がぞわぞわと逆立つ。唯一の救いは僅かながらにも動作に溜めが必要ということか。こんなの予備動作なしで連発されたら、とても太刀打ちできやしないよ。
 と、なれば接近戦あるのみ!
 私はイッキに距離を詰め、「うにゃん」と猫パンチを放つ。
 一撃、二撃目をかわされる。
 三撃目の意表をついた裏拳は剣の腹にてはじかれた。
 ルギウスも一方的にやられているばかりじゃない。
 合間に反撃を試み、隙あらばと凶刃を振るう。切っ先が躍るように跳ねて舞い、なんども黒猫の体を掠める。
 激しい攻防。剣と拳が渦を巻く。その中にあって私は焦りを禁じえない。
 こちらのあらゆる攻め手がかわされ、いなされ、封じられる。
 攻撃がまるで当たらない、通らない。
 そういった経験はコレまでにもある。ハウンド師匠を相手にしている時だ。だけれどもルギウスの場合は、ソレを超えた不安がつきまとう。まるで広大な海に向かってバシャバシャと足掻いているような、そんな錯覚に囚われる。
 能力うんぬんの話ではない。積み上げてきたモノの差が違い過ぎる。
 闘いへと身を投じてきた時間、その中身や濃度、戦士としてのありとあらゆるモノが、遠く及ばない。
 間近に接するほどに私の中で、「勝てない」という思いばかりが強くなっていく。
 ルギウスは強い。
 間違いなく、これまで出会ったヒトたちの中では最強。
 絶望的な力量の差を見せつけられて心が折れそうになる。
 でも不思議とそんなときに限って、みんなの顔が脳裏をよぎる。
 だから懸命に拳を突き出し、蹴りを打つ。

 まだだ、まだ私は、諦めたくないっ!


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