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139 忘れられし女神編 イクロスVSイレーン
しおりを挟む飛び道具を持つ金色の機体エルドラード。
防御を捨てた代わりにスピードとパワーを誇る青い機体メテオール。
双方の基本性能はほぼ同じ。後は操者の技量が明暗を分ける。
一見すると魔導銃を持つエルドラードが圧倒的に有利。
だが本来、魔甲騎兵での戦闘とは、機体性能にて一拍の間が生じるがゆえに、読み合いが六割を占める。つぶさに相手の動きを観て、先読みすることが肝要。
その修練を長年積んできたイクロス王子にすれば、ようは銃口にさえ気をつけて射線上に立たなければいいだけのこと。あとは攻撃の呼吸を読めばなんとかなる。一番、怖かったのは視界外からの超長距離攻撃であったのだ。
アレを連発されたら、とてもではないが太刀打ちできない。
ゆえに危険には違いないが、この距離での対峙は王子の望むところであった。
火を噴く銃口。
弾道を予測し、かわすメテオール。
普通の魔甲騎兵では不可能な挙動。三度、弾丸をかわしたところで一気に距離を詰める青い機体。切っ先が狙うのは敵機の肘関節。射撃とは、その狙いの精密さこそが恐ろしい。これさえ封じてしまえば問題ないと王子は考えていた。だがここに彼の予想しなかったことが起こる。
エルドラードが手にしていた魔導銃から、ガシャリと剣身が飛び出したのである。
これにより完全に斬撃を塞がれる格好となった青い機体。
こうなると迂闊に離れられなくなる。下手な距離の取り方をすれば、即座に銃の追撃に襲われてしまう。なんとか引き離そうとする金色と、近接戦闘の主導権を握ろうとする青。密着状態での鍔ぜり合いにて、繊細な駆け引きが続く。
一瞬の判断ミスが命取りとなりかねない状況。
と、そんな緊迫した場面にチョロチョロと姿を見せたのは、黒猫の着ぐるみが乗るオフロードバイク。
「王子ぃー、大丈夫? 助太刀しようかー」
通信機越しに聞こえてきた気の抜けた少女の声。
これには思わず笑みを零さずにはいられないイクロス。だがすぐに表情を引き締め、「不要! それよりも暇なら大物の首のひとつでも取ってこい」と言った。
「りょうかい。とりあえず黒いのぶっ飛ばしてくるから。王子も頑張ってねー」
ブロロと魔導エンジンの音を響かせながら、去っていく黒猫のバイク。
行き掛けの駄賃だとばかりに、敵の魔甲騎兵らを猫目ビームで薙ぎ払っていく。
そんな姿を見ていたら、やたらと肩肘を張っている自分が阿保らしくなってきて、途端にいい具合にチカラの抜けたイクロス王子。
当人も気づかぬうちに脱力していた彼の操縦技術が、ここにきて一段階あがる。
期せずしてイクロス王子、本来の剣技とメテオールの動きが完全に一致した。
動きに滑らかな緩急が生まれ、しなやかさを伴う剣撃の鋭さが増した。踊るがごとく跳ねる切っ先、受けも柔らかくなった。
気を緩めたらたちまち剣身を絡めとられる。
攻め手が、まるで泥の沼に足を踏み入れたかのように吸い込まれてしまう。
これにはエルドラードに搭乗しているイレーンが、目を見張ることとなった。
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